第9話 修司、爆弾投下!
その日の朝、中嶋慎也は直行でお客様とのアポイントに行った。アポイントから会社に帰って来ると、社内の雰囲気がいつもと違った。みんな、妙によそよそしい。違和感をおぼえながら席に着くと、スグに営業課長が近寄って来た。
「中嶋君、ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「会議室1に来てくれるかな?」
「はい」
課長の態度もいつもと違っていた。課長に連れられて、慎也は会議室1に入った。
中には、社長と営業部長と人事部長がいた。慎也は驚いた。さすがにこの顔ぶれは怖い。“自分は何かやらかしたのだろうか?”一気に不安になる。
「座りたまえ」
営業部長に言われ、慎也は座った。
「今朝、このような物が届いた」
課長から封筒を渡された。慎也の浮気写真だった。ホテルに入る瞬間もあれば、ホテル内での行為を自撮りしたものもあった。写真は何十枚もあった。そして、勿論、相手の女性は1人ではなかった。自分の部下もいれば、取引先の女性スタッフもいた。取引先の女性スタッフは、取引先の社長の娘だった。その女性が社長の娘だということは、上司全員が知っているはずだ。他にも、部下の妻や上司の妻など、数え切れないくらいの人数が写っていた。慎也は社会人になって7年目。修司の7年間の女性遍歴の集大成がそこにあった。慎也は写真を見て震え上がった。
「君は結婚しているのだろう? ちょっと女遊びがヒドイんじゃないか?」
営業部長の声は冷たく淡々としていた。それでわかった。部長は自分の味方ではない。というか、この場の全員が自分の味方ではない。
「あの、これはですね……」
「言い訳は出来ないだろう? 写真があるんだから。ちなみに、写真はほんの一部だ。もっと沢山の情報がデータでも送られている」
今度は人事部長が言った。
「部下と不倫し、部下の奥さんとも不倫して、上司の奥さん……これは柳田課長の奥さんだね」
「いやぁ、実はそれには事情がありまして……」
「柳田課長の奥さんとも不倫して、君はどういうつもりなんだ? 大口のお客様の社長のお嬢さんまでいるじゃないか」
「中嶋君、解雇と自主退職ならどちらがいい?」
重い声は社長だった。
「解雇ですか……?」
「最後の恩情だ。解雇するところだが、自主退職にしてあげてもいい。どうする?」
「……では、自主退職で」
「今日中にデスクの整理をしなさい。そして、明日からは出社してはいけない。それから、営業の引き継ぎはちゃんとしてくれよ」
「今日で、終わりですか?」
「ああ、今日は引き継ぎで帰宅が何時になっても構わない」
「明日からは?」
「何度も言わせるな、明日以降は出社を禁止する。事務的な手続きは郵送とメールで行うから、自宅で対応してくれ。それでは、解散」
「同期で最初に主任になり、係長目前だった君がこんな人間だったとはな」
1番お世話になった営業部長が吐きすてた言葉が最後だった。
呆然と自分の席に戻ると、携帯電話が鳴った。父親からだった。慎也は慌ててオフィスの外へ出た。
「なんだよ、父さん。仕事中だよ」
「本当に仕事をしているのか? 家にお前の淫らな写真が送られてきたぞ!」
「え! 父さんの所にまで写真が届いたの?」
「“父さんの所にまで?”とはどういうことじゃ、まさか会社にも届いたのか?」
「うん、会社にも今朝届いたらしい」
「あんなものが届いたらクビじゃろう?」
「うん、今日で仕事は終わり。明日からは出社するなって言われた」
「馬鹿者! 明日、実家に戻って来い! 小夏さんには知られるなよ!」
「わかったよ」
デスク、荷物の整理が終わると、部下にお客様を振り分けた。そして、引き継ぎをしたら遅い時間になった。それで、終わり。
「長い間お世話になりました!」
誰も返事をしてくれなかった。エレベーターに乗ろうとしたら、部下の敦子が近寄って来た。慎也は嬉しかった。敦子は自分との別れを悲しんでくれている。そう思ったのだ。ところが、
「私の写真まで会社に届いたらしいじゃないですか!」
慎也は敦子に責められた。
「もう、この会社には来れません。私は会社を辞めます。あなたのせいですよ、責任を取ってもらいますからね!」
敦子は泣きながら去って行った。と、思ったら部下の佐伯と柳田課長が現れた。
「あ……」
いきなり、佐伯に鳩尾を殴られた。慎也は膝をついた。
「俺の女房を寝取りやがって」
「俺の女房も寝取りやがったな!」
柳田課長は、慎也の腹を爪先で蹴った。
「こんな恥をかかされたら、もうこの会社にいられない! 責任はとってもらうぞ」
「責任って……」
「俺もだ、この会社を辞めるしかない。慰謝料は払ってもらうぞ」
「そんな、金なんて……あるだけ遊びに使ってたし」
「お前の実家は金持ちらしいじゃないか。まあいい。和解出来なければ裁判だ」
慎也は帰宅した。腹が立つ。八つ当たりで小夏を2、3発殴るつもりだった。だが、人の気配が無かった。ダイニングテーブルに、例の写真の束が置いてあった。慎也はまた汗をかいた。手紙が添えてあった。
「あなたの不倫の写真が送られて来ました。あなたのDVに耐えるのも限界です。離婚してもらいます。子供も連れて行きます。慰謝料など、お話はありますのでまた連絡します。慰謝料と養育費のことだけ考えてください」
慎也は頭を掻きむしった。
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