第7話  修司、反撃の狼煙!

 その日も、修司と弥生は30分のリハビリを終えた。弥生がピッタリと寄り添うように、修司の横に座っていた。


「はい! 30分経ったよ! 今日のリハビリは終わり! 終わり!」

「はーい」


 弥生が修司の隣から少し離れる。


「でも、だいぶん変わりましたね、修司さん!」

「変わったのかな? 自分ではわからないよ」

「修司さん、汗の量がスゴく少なくなりましたよ」

「あ、本当だ、そうかもしれない」

「このままいけば、リアルな恋人をつくれる日も近いですね」

「近くないよ、僕はもう40歳だし」

「40歳なら、まだ大丈夫ですよ」

「そういえば、弥生ちゃんはなんで幽霊やってるの?」

「あ、始めて聞いてくれましたね」

「うーん、気軽に聞いちゃいけないかなぁって思ってたんだ」

「聞かないのは優しさだったんですね? じゃあ、どうして今頃聞こうと思ったんですか?」

「リハビリを通じて弥生ちゃんと少し親しくなれたから、そろそろいいかな? って」

「いいですよ。修司さんなら、何でも話せますから」

「じゃあ、弥生ちゃんの身の上話を聞くよ」

「私は、大学2年生になったところでした。歳は19、もうすぐ二十歳でした。家庭環境が良くなくて、奨学金とバイト代で、学費と生活費を工面していました。苦学生でした」

「それで?」

「人数合わせで誘われた合コンで、中嶋慎也という男と出会ったんです」

「それで?」

「付き合い始めたんです」

「ふーん、そいつのどこが良かったの?」


 修司は、中嶋慎也にちょっと嫉妬している自分に気付いていなかった。


「お金持ちのボンボンで、家族からも愛されていて、モテていて……顔は普通だったんですけど、輝いて見えたんです。大企業に勤める社会人で、新人なのに仕事でもトップセールマンだと聞きましたし。かっこよく見えたんですね、きっと」

「ふーん、それで?」

「講義とバイトで忙しかったのですが、ちょこちょこ慎也とデートしていました」

「ふーん、そのデートは楽しかったの?」

「全然、楽しくなかったですよ。だって、私のこの部屋に来て、私を抱いて帰るだけでしたから」

「それって……?」

「はい、都合のいい女です。あはは、笑うしかないですよね。ただの性欲処理女ですから。だから、私は、バイトから帰ったら寝て、慎也が来たら寝て、ほとんどこの部屋の天井しかおぼえてなかったんですよ」

「……それで?」

「或る日、慎也が他の女性と歩いている所を見つけました。OL風の女性でした。後をつけたら、ホテルに入って行ったんです」

「ダメじゃん」

「それで、その次に会った時に、問い詰めたんです。“浮気してるでしょ?”って」

「そしたら?」

「元々お前なんかと付き合ってない。お前なんかただの性欲処理女だ!って言われちゃいました。しかも、“うぜぇ”って、ボコボコにされました」

「殴られたの?」

「よく殴られましたよ。自分の思い通りにならないと殴ってくる人でしたので」

「それってDVだよね?」

「はい、DVです」

「それで? それで?」

「絶望して自殺しちゃいました」

「それで、5~6年も幽霊をやってるの?」

「はい、幽霊やってます」

「そうか……」

「って、なんで修司さんが泣いてるんですか?」

「だって、悔しくて、寂しくて、腹が立って……」

「もういいですよ、今なら笑って話せますから」

「笑って話せるまでに何年かかったんだよ?」

「え?」

「僕は許せない。許さない。弥生ちゃんの願いは?」

「え? 復讐ですけど。でも、そんなの無理だから」



「大丈夫、僕に任せてくれたらいいよ、中嶋慎也は僕が潰す!」

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