第4話  修司、就活を進める!

 昼食に出て、帰ってきて、またパソコンの前に座る。

 もう1社、応募することが出来た。


 「今日は、2社応募メールを送ったんだ。書類審査を通過して、面接まで進めばいいんだけどな」


 勿論、返事は無い。

 返事が無くても、修司は話しかけた。ほとんど独り言のようなものだったが…。


 「いくら好物でも、毎日食べていると飽きるよな? 僕、牛丼飽きてきたわ」

 「アパートの住人がいたんで挨拶したら無視されちゃった」

 「毎日カップラーメンだと身体に悪いかなぁ」

 「最近、静かにしてくれてありがとうな」

 「明日、面接なんだ! 採用されるように祈ってくれないか?」


 翌朝、久しぶりにスーツを着て玄関へ行くと、靴が綺麗に揃えられていた。気のせいか、ワックスもかけてくれている気がする。


 「靴、用意してくれた? もしかして応援してくれてる?ありがとな」


 修司は、気持ちよく家を出ることが出来た。


 「面接、結構、良い感触だったよ。受かるといいけどな」


 電灯が消えて、また点いた。


 「もしかして喜んでくれてる? もしかして幽霊さん、良い人?良い人のわけないか、散々俺を排除しようとしたもんな」


 電灯が消えた。点かない。


 「嘘です。ごめんなさい。あなたは良い人です」


 電灯が点いた。TVまで点いた。


 「いやいや、TVはいいよ」


 3日後、面接してもらった会社から封書が届いた。

 不採用。いわゆる“お祈りします”の手紙だった。


 「面接、落ちたわ。ハハハ。あーあ。今日は、もう寝る」


 TVが点いた。消す。点く。消す。点く。


 「励ましてるんだか、嫌がらせなのかわからねーよ」


 静まりかえる室内。TVは点いている。


 「もし、励ましているのならTVを消してよ」


 TVが消えた。修司はため息をついた。


 「あーあ、落ち込んでも仕方がないな。次を探すよ」


 修司は、パソコンの電源を入れた。また、求人サイトを閲覧する。

 1社、応募メールを送ることが出来た。


 「1社、応募したよ。もう寝るから」


 寝間着のジャージに着替え終わると、電灯が消えた。

 “お疲れ様”と言ってもらえたような気がした。

 やがて、家に帰ると、何もしなくても電灯が点くようになった。

 “おかえりなさい”と言われているようで嬉しかった。


 「この会社、どう思う?ネットの画面見れる?」


 修司はパソコンの画面を見ながら言った。画面がスクロールされる。見れるらしい。


 「応募するべきかな?」


 電灯が消えて、また点いた。


 「じゃあ、応募するからね」


 また電灯が消えて、そして点いた。


 「じゃあ、これはどう思う?」


 今度はアダルトな画面を見せた。フォークが飛んで来た。


 「ごめんなさい。ふざけすぎでした。真面目にやります」


 「この会社は、どう思う?」


 電灯が消えて、点いて、また消えて、また点いた。


 「やめた方がいいってこと?」


 電灯が消えて、点いた。

 どうやら、電灯が1回消えて点くのが“YES”、2回が“NO”らしい。

 いつの間にか、会話が成立するようになっていた。

 修司にとって、“見えない何か”とのコミュニケーションは癒やしとなっていった。


 「僕、今度は嘘をつかなくていい仕事がしたいんだ」


 電灯が消えて、点いた。


 「自信を持ってオススメ出来るものを売りたいんだ」


 電灯が消えて、点いた。


 「賛成してくれるの?」


 電灯が消えて、点いた。


 「わかった。じゃあ、頑張るね」


 電灯が消えて、点いた。


 「この会社は、どうかな?」


 見えない相手と相談しながら、転職活動は続いた。



 そんな或る日、修司は吉報を持ち帰ることが出来た。

 部屋に帰ると、電灯が点いた。


 「決まった!決まったよ!仕事が決まったんだ」


 電灯が消えて、また点いた。


 「今日の面接、その場で採用されることに決まったんだ。来週から出社するんだ」


 電灯が消えて、点いて、消えて、点いて、消えて、点いた。


 「喜んでくれる?」


 電灯が消えて、点いた。


 「規模的には中堅だけど、良い会社なんだ。商品もすごく良いんだ」


 修司は、見えない相手と話し続けた。

 


 転職初日、朝、玄関を見ると、また靴が綺麗に揃えてあった。またワックスもかかっている気がする。


 気分良く、新しい職場へ。修司は充実した1日を過ごすことが出来た。

 飲めない酒を飲みたくなり、500mlのビール2本を買って帰った。


 「今日は初日だったけど、すごく良い気分なんだ。一緒に祝ってくれないか?」


 すると、ビールの缶が浮き上がり、ビールがグラスに注がれた。


 「お酌をしてくれたのか、あんた、良い人だな」


 ビールを飲みながらカップラーメンをすすっていた修司が言った。


 「姿は見せられないのか? 姿を見せろよ。一緒に飲もうぜ」



 修司が顔を上げると、1人の若い女性が座っていた。しかも美人!

 その瞬間、修司の女性恐怖症が発動した。







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