第3話 初仕事は慎重に

「ソロはダメって……なんでだよ!」

「私から言わせてもらえば、あんなものは自殺行為ですよ。一人でモンスターの出る危険地域に出向くなんて、些細な怪我が致命傷になりかねません」

「ソロでやってる冒険者なんかいくらでもいるだろうが! Sランク冒険者なんか基本ソロなんだろ⁉」

「ええ、パーティを組まずにクエストを受けられる方は大勢おられます。そうすれば報酬は一人で受け取れますし、裏切られる心配もありませんから。それに、冒険者の方々はソロでの活動を真の実力だと言って評価する傾向にありますしね」

「だったら────」

「ただし! 死亡率はパーティを組んでいる冒険者に比べて二十倍に跳ね上がります!」


 脅すつもりで大きな声を張り上げると、少年は怯んだように声を詰まらせる。


「で、でも、それが冒険者だろ! そういうのを乗り越えて一流になるんじゃないのかよ!」

「死線を潜ってこそ一流とか、困難を突破してこそプロとか、冒険者の方々は皆さんそう仰います。で、す、が! 私は絶対認めません!」

「うぐ……たかが受付嬢のくせに! 冒険者が受けたいクエストを拒否する権限なんかお前にあんのかよ!」


 うーん……困った。痛いところを突いてくる子だなぁ。


 ギルドはランクに見合った仕事を冒険者に斡旋する。けれど、ギルドが冒険者を直接雇用しているわけではなく、あくまで依頼主との仲介役に過ぎないのだから、ギルド側の一方的な都合でクエストの受諾を拒否することはできない。


 どれだけあなたにはまだ早いと言っても、それでも受けると言われてしまえばそれまで。私はこの少年にクエストを受けさせてあげなければいけない。


「へっ! お前は仕事だけしてりゃいいんだよ! いいからサッサとクエストを受けさせてくれ!」

「へぇ……いいんですか? 私にそんな口利いて」

「え? な、なんだよ。文句あんのか?」

「たかが受付嬢と言いますけど、このギルドにおいて冒険者さんたちの昇級評価を任されているのは私なんですよ? あなたが今後順調に実力をつけていったとしても、私が難癖をつければずっとFランクのままということもありえます」

「なっ……汚いぞ! 不正だ不正!」

「いいえ、不正ではありません。高ランクの冒険者さんにはギルドから様々な支援や特権が与えられます。戦闘力だけでなく、人格にも優れている方でなければ昇級はさせてあげられません。これは正当な理由です」


 まあ、実際のところはガチガチにマニュアルが決まってるし、私の一存で昇級が決まったり決まらなかったりすることはほぼないんだけど。


「おい、小僧」


 ゴルドーさんが少年の肩に優しく手を置いた。


「あんまこの姉ちゃんに逆らわん方がいいぞ。今後もこの街で冒険者続けるつもりならなおさらな。冒険者の先輩としてアドバイスしてやる。仕事で絶対付き合っていかなきゃならん人間とは喧嘩すべきじゃない」

「うぐ……わ、わかったよ。嫌味を言ったことは謝る。だけど、俺はソロで活躍する冒険者に憧れてるんだ! ここだけは絶対譲れない!」


 それでも少年はクエストを受けるつもりらしい。絶対譲れないとまで言われたからには、立場上私にはもう止められない。


「……わかりました。それではあなたにクエストを依頼します」


 素直に頷くと、彼は得意げな顔をしてギルドを飛び出していった。


「血気盛んだねぇ。やっぱルーキーはあれくらいでなきゃ」

「ゴルドーさん。帰ってきたばかりのところ申し訳ないのですが、一つ依頼を受けていただけませんか?」

「ん? 別に疲れてもいないし構わないが……ってあんたまさか、Sランク冒険者様にガキの子守りをさせようってんじゃないだろうな?」

「私は心配なんです! あの子一人だけなんて! 何があるかわかったものじゃありませんよ!」

「薬草取るだけだろ? 別に大丈夫だって。何の問題もねぇよ」

「そこを何とか!」

「いや、だから……」

「そこを! 何とか!」

「……グイグイ来るなぁおい。わかった。わかったって。後ろからこっそり後付けて行ってやるよ。それでいいだろ?」


 ゴルドーさんはかなり苦い顔をしていたが、最終的には引き受けてくれた。


「あ、待ってください。ゴルドーさんも一人で行っては危ないですよ。他のSランク冒険者さんたちにも声をかけて……」

「流石に要らんわ‼」


 そう言ってゴルドーさんは逃げるようにギルドを出て行った。

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