第2話 ソロクエストはさせません
冒険者を大勢集めて討伐隊を組もうと思ったら、まず領主様の了解を得る必要がある。
正式な書類を用意して、討伐隊のメンバーと目的を明記。それによって領主様にどんな利益が生じるかも併記しておくと都合が良いとされる。
この仕事を引き継いだ時、ギルドと領主様は事前に提携を結んでいるのでよほどのことがない限り大抵の申請は通ると先輩から聞いていたのに、最初の内はなぜか却下されまくった。
「ゴブリン退治に冒険者三百人⁉ 嘘を吐くな! 革命でも企てているのか⁉」
────とかなんとか言って、国家反逆の容疑をかけられたこともあったりなかったりしたけど、最近は冒険者という仕事の危険性を理解してもらえたのか、申請が断られることはなくなった。
「……いや、そりゃもう諦めてるだけだと思うぜ」
スライム討伐を終え、ぐったりした顔のゴルドーさんが報告をしにギルドへ顔を出しにきていた。
「お疲れ様です。死傷者は出ませんでしたか?」
「ああ、問題ない。誰一人としてかすり傷一つ負ってない。なんせ一人で王国兵士千人分の力を持つと言われるSランク冒険者が三人、AやBランクの実力派も二十人いたんだ。その上バックアップに若手冒険者が大勢……」
「それだけのメンバーが揃っていれば、私も安心して送り出せます」
「いや、多すぎるんだって! スライムなんかルーキーでも一人で十匹まとめて倒すぞ⁉ むしろそれができなきゃ今すぐ引退した方がいいってレベルだ! それなのに中堅からベテランまで百人集めてボコるって……」
「討伐したスライムは何匹ですか?」
「あ? 十三匹だよ! 十三匹! 十三匹を百人でボコり散らしたんだよ! ほとんどの奴はスライムを目視できてすらいないぞ? その前に決着ついちゃってんだから」
ゴルドーさんは唾を飛ばしながら声を荒げる。
「ご安心ください。例え討伐に直接貢献していなくとも、討伐隊に参加していれば報酬は出ます」
「そういう問題じゃ……いや、そこも大事だけど……」
「人数が多い分少額にはなってしまいますが、それでも十分な額をお支払いしているはずです」
「まあな。ほぼ行って帰ってくるだけでそこそこの額が入るんだ。稼ぎとしちゃあ悪くはないが……死線を潜らなきゃ働いた気がしねえっつーか……」
冒険者というのは不思議な方々で、積極的に死亡率の高いクエストを受けたがる傾向にある。
難易度が高いほど報酬が高いというのも理由としてはもちろんあるだろうけど、それだけじゃないというか。死にかけることにやりがいを見い出している節があるというか。
「理解できませんね。仕事は安全にこなした方がいいに決まってるじゃないですか」
「冒険者ってのは危険を乗り越えてこそだろ! じゃなきゃ冒険じゃねぇ! ただの害獣駆除業者だ!」
「……? それのどこが問題なんです?」
「大問題だ! こちとら夢とロマンを追って冒険者になってるってのに────」
何やら熱い演説を繰り広げ始めた彼の横を擦り抜け、一人の少年がカウンターにクエスト概要の書かれた書類を出してきた。
「────クエスト! 受けさせてくれ!」
赤いハチマキを巻いた黒髪の少年。腰には短刀が差さっていて、身軽な装備で全身を統一していることから、盗賊系の職業であることが伺える。
このギルドを利用してくれている冒険者さんは全員把握しているけれど、この子は初めて見る。装備の質もあまり良くないし、多分新人さんかな。
「冒険者ライセンスの提示をお願いできますか?」
「ライセンス? あ、えっと、これか」
少年は首から提げていたドッグタグを取り外す。そこに書かれた番号とランクを確認し、ギルドにある冒険者名簿と照合する。
「Fランク……マックスさんですね。これが初のクエストということでよろしいですか?」
「ああ、そうだよ! 先週ライセンスを取ったばっかだ!」
「なるほどなるほど、では初めての方ということで、ご自身の職業と使える魔法や特技、あとその他アピールポイントなどがあればこちらに記入してください」
「え、なんだこれ。なんでこんな役所仕事みたいなことしなきゃいけないんだよ! 読み書きが嫌いで冒険者になったんだぞ⁉」
「これを記入していただくと、パーティを組みやすくなりますから」
「そんなことよりクエスト受けさせてくれよ! この紙読むのだってやたらと苦労したんだぜ?」
「では、そちらをご記入いただいている間に確認させていただきますので」
彼が渋々ながらペンを執ったのを見てから、クエスト概要に目を通す。
「薬草の採集ですか。この薬草なら街を出てすぐの森で取れますね」
「だろ? モンスターも滅多に出ないらしいし、ちょっと退屈かもしれないとは思ったけど、最初はこういう安全なのからやれって親父に言われてさ! 仕方ないからこれにしたってわけ!」
ふむふむ、粗暴な態度のガキンチョだと思ったけど、案外地に足が付いている。
Fランクの冒険者さんはどうも自分をSランクと勘違いしているみたいで、よくギルドの仲介も受けずに無謀なクエストに挑んでは命を落としているけれど、この子はその点自己評価が適切にできている。
「ちなみに、パーティはもう組まれていますか?」
「は? パーティ? そんなのいないよ」
「それではこちらの方で手隙の冒険者さんにお声がけしますね」
「いや、いいって。俺一人で行くから」
「え?」
「だって薬草取るだけだぜ? 正直クエストと呼べるかどうかってレベルだろ。そんなの仲間ゾロゾロ引き連れて行ったら笑われちまう」
クエスト受諾の手続きを順調に進めていた手が、ピタリと止まった。
「ソロクエスト⁉ ダメですダメです! 絶対ダメです!」
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