受付嬢さんは心配性~ギルドの冒険者には絶対安全な仕事しか振りません~

司尾文也

第1話 ドラゴン討伐はさせません

「ドラゴン討伐⁉ ダメですダメです! 絶対ダメです!」


 手渡された書類に目を通し、クエスト概要を確認した私はすぐさま首を横に振る。


「なんでだよ! 俺はもうSランクの冒険者なんだぞ⁉ ここを見てくれよ! ギルドが提示してるこのクエストの推奨ランクはB以上! 二回りも超えてる!」

「ダメですダメです! モンスターとの戦闘では何があるかわからないんですから!」


 カウンターの向かいに立つ黄金の鎧を纏った剣士、ゴルドーさんは大きなため息を吐いた。


「いい加減にしてくれよ。冒険者が無謀なクエストを受けないよう、ランク分けをして仕事を斡旋するのがギルドの仕事なのは理解してる。だけど、冒険者なんて元々命懸けの仕事なんだから、多少のリスクは背負わないとやっていけないだろ」

「それでもダメなものはダメです! 何かあってからでは遅いんですよ!」


 ここは辺境の街にある冒険者ギルド。街の規模はそれほど大きくないけど、モンスターは王都から離れた辺境の地域ほど強くなる傾向にあるので、その討伐を行うために優秀な冒険者さんたちが大勢集まっている。


 私はそんなギルドで働くただ一人の受付嬢。ギルドに寄せられる様々なクエストを査定班の人たちがランク分けするので、そのランクと冒険者のランクを鑑みて仕事を割り振るのが私の仕事だ。


「そもそもドラゴンなんて洞窟の奥で寝ているだけなんですから、討伐に緊急性がありませんよね?」

「それは、そうだが……ドラゴンの素材はいい装備になるし、倒しておいて損はないだろ?」

「それよりもっと優先すべきクエストはたくさんあります。畑に出たゴブリンや、街道に出たスライムを討伐していただかないと、街の人たちの生活が脅かされることになりますから」

「ゴブリンにスライム? そんなのEランク冒険者の仕事だろ。わかってるか? 俺のランクはS! 最高ランクの冒険者だ! そんな雑用みたいなクエスト受けていられるか!」

「雑用なんかじゃありません!」


 私がカウンターを強く叩くと、黄金鎧の剣士さんは目を丸くして後ずさる。


「毎年どれだけの冒険者さんがスライムに殺されていると思っているんです? どんな相手だろうとモンスターはモンスター! 全力で臨むべきなのですよ!」

「う、うぐ……いや……まあ……正論ではあるんだが……程度ってものがだな……」

「そういうわけで、ゴルドーさんにはスライム討伐隊に加わってもらいます!」

「討伐隊? スライム相手にわざわざ?」


 冒険者さんたちは基本一人で活動するか、四人程度のパーティを組んでクエストを受ける。

 これは国が定めた法律に従ってのことだ。個人で大きな力を持つ冒険者さんたちが何十人も結託するようなことがあれば反乱の芽を生んでしまう危険性があるため、大人数での行動を厳しく禁じられている。


 もし大規模な討伐隊を編成したいなら、ギルドが主導しなくてはならない。ただこれは手続きが非常に面倒なので、他のギルドではあまりやらないらしい。


 でも、私はやる。だって、大人数でやった方が絶対安全だから!


「既に他の冒険者さんたちにも声をかけています。ゴルドーさんもぜひ参加してください」

「仕方ない……ドラゴン討伐ができないならやるしかないだろ。で、標的の規模はどんなもんだ?」

「街道に発生したスライムは十数匹程度だと聞いています。亜種の存在は確認されていません」

「ふぅん……普通ならEランクパーティでも余裕でこなせるレベルだな。で、あんたが組んだ討伐隊ってのはどんなメンツなんだ? 心配性なあんたのことだ。Bランク冒険者を四、五人くらいは揃えてるのか?」

「いえ、総勢百名ほど……」

「スライムより多いじゃねぇか⁉」

「Sランク三名、Aランク五名、Bランク十五名、Cランク二十名、サポートとしてDランクとEランクの冒険者さんにも五十名ほど来ていただく予定です」


 討伐隊の編成を聞いたゴルドーさんはグラリと姿勢を崩し、その場で膝をついた。


「いや……絶対そんないらないって」

「いります! これでも足りないくらいです! とにかく冒険者の皆さんには安全にお仕事をしていただきたいんです!」


 これは心配性な受付嬢だなんて変なあだ名をつけられている私の、日々のお仕事の記録である。

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