消えたい私が出会ったのは、一人の少女だった

…誰…?人は…こないはずなのに…どうして?絶対に、見つからない場所なのに…

「誰か…いるの?」

息を殺して待つ。早く、どこかに行って。

「あ…いた…」

見つかった。まずい…

「…」

誰?顔を上げる。

木の葉の隙間から光が漏れ、顔が見える。

「誰…?どうして…」

「私は幽季ゆうき。あなたも、どうしてここに?」

「ここは、誰にも見つからない場所だったから…。」

「そう…ここは、良いところだね。誰も寄り付かない、森の中で。」

「うん…」

ここは、とても落ち着く。誰も来なくて。ずっと…ここにいたいなあ。でも、

「ごめん。もう、帰らないと。」

「そう…ねえ、名前は?」

花織かおり。」

「花織さん。またね。」

…またね…か。




朝…学校へ。教室に入る。

「来たよ。いじめっ子が。」

「ホントだ〜。」

「きたきた〜。」

…違う。私は、彼女に…憂沙うさにいじめられてる。毎日…毎日。

あの日、屋上で憂沙に…。

『ねぇ、あんた、ムカつくからさぁ、』

と言って、カッターナイフを取り出した。

『あんたにいじめられたって言えば、皆、私に協力してくれるからさぁ。』

腕に当てて…

『あんた、いじめっ子にして、私がいじめてあげる。』

…このことがあってから、私は、いじめられるようになった。皆、誤解している。

とても、辛い、苦しい。どうして…私だけなのだろう…。

「今日も…ね?」

「は…はい…」

放課後、屋上…か。もう…消えたいよ。





屋上。

「それじゃあ…」

「はい……。」

そのまま、一方的に殴られる。また、痣ができる…とても、見つけにくい場所だから、誰も知らない。そして、彼女は、カッターナイフを出し…腕に……

「キャァ!」

わざと、悲鳴をあげ、カッターナイフは床に。

人が…来る。

「どうした!?」

この人は…クラスメイトの…

みなと…私…また…」

湊君は、

「そうか…花織……お前…消えろよ。」

「っ!」

やっぱり…私は…いないほうが…

私は、走って、逃げた。

どうして…どうして、私が加害者なの!?私は…最初から、被害者なのに…!

家に帰り、森に行く。もう…このまま、森の中で、消えようかな…。

「――っ!」

どうして?森に着いた途端、涙が…

「それはね、誰かに助けてもらいたいからだよ。」

幽季…

「助けてくれる人なんて…いないよ…。」

「周りを見てご覧。きっと、君の味方はいるよ。」

「そんな人いるわけない!」

「いいや、いるよ。ここにも…ね。」

「助けて…くれるの…?」

「ごめん。私は無理。」

「だったら…だったら!」

私は、逃げた。幽季からも。誰も、助けてくれないのなら、私は、消えちゃうほうが良い。ごめんね。幽季。

それから、どのくらい経っただろう。光は、わずかに届く月光だけ。ほとんど、闇。どこから来たのか、分からないよ…。このままが…良いな…

「花織ー!」

幽季の声…どうして…見つけられるはずないのに…… 。

「花織…見つけた…やっと…。」

「来ないで!私は…このまま、消えたいの!」

「消えたいなんて…言わないでよ…花織。」

「何?誰にも助けてくれないと分かっていながら、それでも我慢するの?無理だよ。そんなことするなら、ここで消えたほうがマシ。それでも幽季は私に消えないでって言うの?」

「それでも私は、消えないでって言うよ。」

「どう…して」

「消えちゃったら、ずっと、この森の中だもん。」

「…知ってるの?」

「だって私も、人間だったから…。」

「え、なんだって?」

「幽霊がいる。」

「そっか。」

「お願いがあるの。もう一度、行って。学校に。」

「本当に、助けてくれる人がいるの?」

「いるよ。」

「なんで言い切れるの!?」

「…言えない…ごめん。」

「…」

「でも…!」

「分かったよ…でも、あと一回だから。」

「良かっ…たぁ。」

どうして…だろう。少しだけ、期待してしまった。裏切られることが、分かりきってるのに。

「それはそうと、ここから出れるの?」

「もちろん!」

「どうやって?」

「皆〜。いる〜?」

「え?誰?」

「幽霊だよ?」

「あ…本当にいるんだね。」

「君には見えないけどね。」

「ふーん。」

「それじゃあ、行こっか。こっちだよ。」

ついて行く。本当に、幽霊の姿は見えない。そのまま歩き続けると、森から出ることができた。

「それじゃ、またね。」

「うん…また。」

私は家に帰った。月が明るい夜だった。

次の日。一応、学校へ行く。味方なんて、誰もいないのに、期待してしまう。裏切られると、分かり切っているのに。

教室の扉を開ける。…おかしい。陰口が何もない。それだけじゃない。憂沙が、一人になっている。何が、あったのだろう…。

「不思議そうだな。」

「っ!湊…どうして!」

「俺が、消えろと言ったのは、憂沙に向けてだ。それを勘違いして逃げたのはお前だろ。」

「それは…」

「分かってる。もっと、辛くなるって、考えたんだろ。」

どうして…わかるの…

「俺は…見てきた。君のような人を。」

「どうやって…私を…」

「これだ。」

動画を、見せられた。いつの間に、撮ったのだろう。私が、いじめられている動画だった。幽子は、知っていたのだろうか。これを。

「分かっただろ。」

「うん…でも…独りは、可哀想だよ…」

「そうか…いや…そうだよな。どんな理由があろうとも、独りはダメだな。」

そうして、湊君の一声でこのクラスからは、独りの人が、居なくなった。平和になった。

でも、まだ気になる点がある。幽子だ。どうして、助けてくれる人がいると、分かったのだろうか。

その疑問を解決するため、今日も森に行く。

「幽子、いる?」

……返事はない。

「幽子?」

どうして…?

…あ…幽子の漢字…幽子にしか見えない幽霊…まさか…幽子は…

「幽子。君は、幽霊なの?」

「そのとーり!」

「ひ!?驚かさないでよ!」

「ごめんごめん。」

「本当に、君は、幽霊なの…?」

「そーだよ〜。」

「そっか。君が幽霊なら、君が言ったことの説明がつく。君は、見たんだね。憂沙と、湊、そして、私を。屋上の、上から。」

「すごいね。よく考えたね。でも、残念。」

「え?」

「私は、この森から出られないの。」

「じゃあ…なんで…」

「知り合いの幽霊に聞いたんだ。君のこと。」

「そっか…」

「幽霊は、至る所にいる。いつも、君を見守っているよ。」

「そっか…」

「それじゃあ、私はこれで。」

「え、消えちゃうの?」

「ううん。姿が見えなくなるだけ。」

「そっか…それじゃあ、最後に1つだけ、教えて。」

「良いよ。」

「君の、本当の名前は?」

「香」

「かお…り…」

「それじゃあ、バイバイ。お姉ちゃん。」

その言葉によって、記憶が、呼び起こされる。そうだ、私には、双子の妹がいたんだ…

「待っ…あ…」

消えちゃった…

そう。私には、あの日まで、双子の妹、香がいた。

ずっと、一緒にいた。どんなときでも、どんな日でも。いつも、二人でいて、それがずっと続くと思っていた。そう。あの日までは。




それは、小学3年生でのことだった。


その頃、私はまだ、元気で、明るかった。その日、学校で行ってはいけないと言われていた森に行った。その頃から、幽霊がいるという噂が立っていたので、好奇心から行ってみようと考えたのだ。

「ここだね。」

「そうだね。」

「行こっか。」

「うん!」

私達は、森に入った。光が木々の間から漏れていた。光の雨のようだった。

「綺麗…」

「もっと奥に行ってみようよ。」

「もっと綺麗かもね!」

奥の方に進むにつれて、光が少なくなっていった。だけど、ある場所に、光のカーテンがあった。そこだけ、世界が違うように、綺麗だった。そして、その光の中に、香は、入っていった。私は、追いかけようとした。なのに、動けなかった。そのまま、光のカーテンが、消えようとしていた。

「香!戻って来て!」

「お姉ちゃん。ごめんね。」

この言葉を最後に、香は、姿を消した。

目の前で見たことが、信じられなかった。光が、香を、呑み込んだ。それだけなのに、私は…私は…!

家に帰った。真っ先に、香のことを聞かれると思っていた。なのに、母は、何も言わなかった。まるで、最初から私に妹がいないかのように。私も、徐々に香のことを、忘れていった。



そうだ…今回も、香は、光の中で消えた。そして、あの日、出会った時も、近くに、光があった。もしかして…香は私を守ってくれていたのだろうか。私も、光の中で、消えないように。

香…もう一度、会いたい。そして、今度こそ、二人揃って、ただいまを言いたいよ…香。



次の日は、雨が降っていた。森に行っても無駄だ。晴れてくれないと、会えない。

やっと晴れたのは、5日後の夕方。虹が出てる日だった。


やっと晴れた。森に、行かないと。香を、助けたいから…早く…!


着いた。まだ、光がある。私は、叫ぶように、声を出した。

「香ー!」

返事は、ない。

…やっぱり…もう…

「お姉ちゃん…来ちゃ…ダメだよ…。」

「香!」

「なんで…来たの?」

「やっと…こっちに来て。」

手を掴み、走る。

「ちょっと!お姉ちゃん!」

「分かったの。香が消えた理由。思い出したの。ここから出よう。香。」

「無理だよ…」

「大丈夫。2人なら、きっと…」

「…」

「行こう。」

日没まで、あと少し。私達は、逃げる。光から。この森の、光から。

「あと少し…」

その言葉と同時に、森から光が、無くなった。あとは、森を出るだけ。

「香、早く。」

「お姉ちゃん…うん。分かった。」

そして、私達は無事に、森から出ることができた。家に、帰りたいが、問題がある。

「ねぇ、香。」

「何?」

「みんな、香のことを忘れちゃってたみたいなんだよね。お母さんも、きっと、覚えていない…」

「なーんだ。そんなこと?姉ちゃんは気付いてないだろうけど、私についての記憶は、皆持ってるよ。」

「え?空白の部分も?」

「うん。自然に付け加えられるみたい。私にも、本来ならやっていたであろう学習の記憶が、あるんだよ。」

「なぁんだ。そっか…」

さすがに都合が良すぎるけど、急に知らない人が来たら皆驚いちゃうもんね。

「じゃあ、家に帰ろう。」

「うん!」

こうして、私は、幽霊となっていた妹を救うことができた。


         end

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