第106話独立記念日の表裏

その後、神くんは泣いて謝ったけど、世界を譲渡する方法を知らなかったので

そのまま放置された。


クリア扱いにしてくれれば、せめて縄は解こうと思ってたのに、女神ちゃんが

「この世界が自立して関りが切れたらスイーツが食べられなくなる」とゴネたのだ。


兄の命より甘味か?と思ったが、それを聞いて神くんが更にヘソを曲げたため

こちらとしては解放のタイミングを失った。困った似た者兄妹だ。


ふたりとも懲りた様子はないが、トカゲ汁のおかげか、少し当たりが弱くなっている

そもそも性格が変わる程しおらしくなったら、トカゲ汁の使用方法を改めなくては

いけないだろうから、程よく非を認められるようになったくらいで丁度いいのかな?


振り返らないが故に、彼は何度も同じ失敗をしたのだから、身を亡ぼす前に

覚えるべきだよ。そこで笑ってる女神!あなたもです。



神くんが居る場所は、北山山頂にある青銅の祠の中。

青銅の扉を開くと、そこには神々も恐れる程の苛烈な吹雪が吹いているので

食事は修験者の皆様に日に三度、運んでもらう事になった。


苛烈な吹雪だよ。間違いなく。

でも修験者さん達は、そんな中をサクサク歩く。

カルラ天は修行の賜物と言うけど、九割は筋肉のお陰に見える。


でも平然としているのは修験者さん達だけで

一応神だが普通の子供である男神は、カップ〇ーメンを所望したものの

強風に煽られて頭から被ったうえに凍るという惨事に見舞われ、

以来野菜入りハンバーグを大鷲のアイトーンと一緒に食べている。


アイトーンも命令じゃなかったら、生肝なんて食べたくないと言っていた。

ちなみにカップ〇ーメンは、カツラのゴルゴンちゃんが美味しくいただきました。


本人も反省しているし、意地悪がしたい訳ではないので、こちらとしては早々に

かまくらに移動してもらいたいんだけど………


そう思ってたら、神くんの待遇にハルトが苦言を申し立ててきたので、お願いする事にした。



「神くーん。来たよー」

やってきたハルトは着ぶくれて、モコモコに膨れ上がっていた。


「……お前、いつもそんな感じだよな」

「過保護なんだよ、ウチの親……」ハルトはちょっと嫌な顔をした。


「ポテト〇ップスも持ってきたから、かまくらで食べよう」

「いや、オレ縛られてるし…」

「じゃぁ縄が解けたらおやつにしよう。アイちゃんとバーンの分も持ってきたから」


アイトーンはすぐに縄を解こうとしたが固結びだったようで、バーンと二人掛かりで解いてくれた。


「いいのかよ。勝手に」

「縛ってから帰れば問題ないだろ?でも縛り忘れて帰るけどね」


「………そうしてこいって言われたのかよ」

「来たのはオレの意思だよ。一緒に食べろってお菓子は持たされたけどさ」


「なんで………」

並んで立つと、ふと違和感を感じた。コイツこんなに背が高かったっけ?

妹神と同じくらいだと思ってた身長が、自分と変わらなくなっている。


「やろうと思ってるのに、やれって言われると頭にくるじゃん」


「……あ、あぁ」

「だから言われる前に来た」ハルトはニカッと笑った。

少し変わったように見えたけど、ハルトはハルトのままだった。


「だよな!」

バーンは大きすぎて、かまくらに頭しか入らなかったけど、

四人分のおやつがコタツに広げられた。


「そもそも何で大人はウソをつくんだ⁈

西の王が椰子の木にはジュースの実が生るって言ったけど、そんな物はなかったぞ」


「椰子の実はあったの?そもそも椰子の木だったの?ソレ」

「椰子の木だって言ったぞ」


「西の王ってウチのお父さんでしょ?

マーガレットの葉っぱって春菊に似てるけど食べられないの?って聞いて

お母さんに引かれてたよ」


「似てるのに違うのか?」

「毒があるらしいよ」


「そんな事も知らないのかよ。大人なのに」

「大人だって知らない事も、間違える事もあるよ」


「神は間違えない!」

「じゃぁ、こっちの段取りも考えずに、一方的な都合で『早くやれ!』とか

言われないんだ。いいなー」

「………………」


「アレ、言われた途端にヤル気が鎮火するんだよ。百がゼロになるみたいに。

やらせようと思うなら、絶対禁句だよな」

「……だな」


「ルールを作るのも大人だけど、ルールを破るのも大人からの方が多い気がする。

今日だけは特別とか言われると嬉しかったりもするけど」


「知ってるぜ。大人の事情ジジョーってヤツだ」

「説明しなくてもいいなんて横暴オーボーだよな。子供の事情ジジョーも作るか?」

「いいな、ソレ」



* * * * *


「………と言った具合に、おふたりは魔王様と神様の理不尽な八つ当たりの話で盛り上がっていたようですぅ」


バーンからの報告をラノドを介して聞きながら、非常に居心地の悪い思いをしている

ハルトも神くんも管理されたくないお年頃だから、知りすぎるのも問題なんだよね。


バーンには何か困ってるような時だけ、報告してもらうようにお願いした。

周りがいくらお膳立てをしても、選ぶのは本人なんだから、ふたりで悩んで模索するのも良いと思う。とりあえず神くんに本音で話せる相手がいて良かった。


アイトーンが食事の話をしたら興味を持っていたようだし、神くんにも女神同様

この世界に執着してもらって、いろんな考え方に触れてもらえると良いんだけど。



神くんの心配というより、こちらの動向を探りに一度だけ

伝令役の子会社の下請けの方から派遣されてきたという神が来たんだけど

青銅の祠にトラウマでもあるのか、なかなか入ろうとしなかった。


神話の地獄門として描かれていたりもする青銅の祠は、当然ハッタリで

あの暴風雪も修験者に憧れた元気が良すぎるシルフとジャックが全力で駆け回っているだけなんだけどね。


そして、やっと祠に足を踏み入れた自称神は、

ウラシマさんサイズの岩を担いで崖を登る、クライマー修験者さんを目撃した途端に逃げるように帰ってしまった。

修験者さん達は趣味でやってるって説明はしたんだけど、先入観があると地獄の景色にしか見えなかったんだろうな。



神々の介入はしばらく無さそうだけど、避難先から戻ると既に問題は起きていた。

ピカピカの野菜に、ツヤツヤの果物。

周りを見ながら歩いていて、毛躓いだ石はなんか輝きが違う……。


「張り切っちゃったのね……」

妖精達は褒めてほしそうだけど、路傍の石がダイヤモンドとかないでしょう?

うん、ないない。ガルムル達が道端にレアメタルとか騒いでるだけ。

妖精なりの歓迎の仕方だったらしいのだけど、なんだかあらゆるモノが豊作です。


魔族国を出ていた時間は一日程度の筈だけど、南の王都近くにいた影響なのか

各村のクーラーボックスに入れていた保冷剤まで溶けかけていて

大量の食材を早急に消費しなければならなかったため、

国民が帰って来た翌日を『独立記念日』と銘打って、国をあげてのお祭りを決行。


その日は獣人の日だったので、お祭りは三日間続き

食堂や露店、レジャー施設で働く者は交代で休みを取った。


物流もお休みしたので船乗り達もお休み。

そしたら、こんなに居たの?ってくらい大量のネズミが町に繰り出して驚いた。

ツカ船長と有志が好意で帆船を動かしてくれたので、こちらも交代でお休みにした。


女王国にも声をかけたのだけど、数が多すぎると遠慮しようとしたので、

シェルターを開放して別会場を用意。

獣人村の蜂蜜酒をすべて提供したら、慰労会は大いに盛り上がったらしい。



ドラゴン号で打ち上げた花火は外輪山の高さを超え、バオバブの森からでも見る事が出来た。

それを神父パウルは子供達に、女神の祝福と教えたらしい。

そもそも教会で目を覚ますと、砂漠が牧草地になっているという奇跡を目にした子供達は疑う事もせず、素直に女神に感謝しお祝いの食事をいただいたそうだ。


そして食卓にはシスター姿のふたりの女性の姿も。

獣人族という事は伏せたけど、子供達が親を探すように親もまた子供を探しており

レイチェルは幸運にも母に会う事が出来たと説明された。


ミハルはレアの側にいるべきか悩んでいたが、レイチェルが教会に馴染んでいるので共にシスター役を引き受けてくれた。


レイチェルは母を自慢したくて仕方がなかったようが、これからは皆の母だと諭されていた。まぁ言ったところで、天真爛漫なレイチェルは変わらないのだろうけど。


ミハルとレアは人族に混ざって生活をしていたので、社会性があり料理も出来る。

子供達が二人から学ぶことは多いだろう。


ちなみに教会は国の南側にあるので、戦闘になった場合、一番被害が出てしまいそうだった為、避難後すぐにキラメラに頑丈な壁を作ってもらい、帰宅と共に撤去した。


落下したブルードラゴンが直撃したけど、壁は壊れる事もなく、むしろ

ブルードラゴンの方がシロアリが入れておいた切込み通りにバラバラになっていた。


避難の間、子供達は眠っていたが、一部始終を目にしたパウルは

魔族達の『あまりの』に「自分の認識を改めなければいけない」と言っていた


そして花火を目撃したのは、教会の子供達だけではなかった。

北の収容所にいた捕虜達も空を見上げていたのである。



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