第104話それぞれの決着
洞窟を進むほど怒号は大きくなる。
何の心得もない身としては足がすくむ光景だが、アロレーラ達は果敢にも走り込んで行った。
洞窟から急に開けたホールは、既に乱戦状態。
フロアだけでなく、壁を蹴ってアクロバティックな戦い方をしている者までいる。
離れたところでサイクロプスが振ったバットの風圧だけで、髪が乱れるほどだ。
立ち止まってしまう私を他所に、ふたりが番えた弓は緑色のヤドリギではなく赤い弓
矢の先端にカエンタケが仕込んであって、当たると火を吹き、周囲の酸素を燃やす。
人族を失神させるのが目的なので殺傷能力はないが、全身に火傷による水膨れができ
金魚のランチュウみたいな顔になる。
あっ!鎧兵の近くに居た、トカゲと半魚人が巻き込まれた!
半魚人はデメキンよりのランチュウだけど、トカゲはマツカサトカゲっぽくなった?
なんか新種の生物が生まれてるよ!
脅しの為のエフェクトも派手で素晴らしく美しいが、安全性はバッチリだ。
シルフと共に上空に逃れると、タワシが肩の上で悪い顔をしている。
その顔はキラメラだけにして!くれぐれも狙うのは敵役だからね!
溶岩の出っ張りに座りインカムを直してから、声をかける。
「バーリン、聞こえる?」
「おぅ!魔王様。遅かったじゃねぇか!」バーリンの明るい声が響く。
「蟻の大将がすぐに来ちまって大暴れするもんだから、ハリボテが足りねぇよ」
すると遠くから
「ハリボテじゃねぇよ!」と声がする。あの声はたぶん、防具職人さんだ。
「ドアーフ総出で裏方やってんの?」
「手が足りねぇから呼んだんだぁ。元々みんな仕掛けを知ってっからな」
バーリンの後に「ウェーイ!」と声が続く。まぁ、楽しそうで良かった。
「ドアーフ組で暴れてんのはドゥーリンと孫とウチの大将。あと馬面だ!
「
「はじめは熱くなり過ぎたドゥーリンを止めてたんだけどよぉハリボテに殴られたら大将がキレちまって、巻き込まれる前ぇに逃げてきたって訳よぉ」
「だからハリボテって呼ぶんじゃねーよ‼」そしてドッと湧く笑い声。
おーい、まさか飲んでないよねー。
盛り上がり方が酒宴のノリなんだけど……
ハリボテとは敵役の事。
様々な甲冑やローブを着せた人形を妖精が操作しているのだけど
将軍が大剣を振り回すから、近づくどころか追い回されている。
更にバグフィックスの追撃が入り、爆散するハリボテ。
「これ以上ハリボテを壊される前に、遠距離攻撃をしよう!
さっき空気砲で腕慣らししてきたから。バグフィックスも攪乱する方向で!」
「空気砲か!まだあるぞ!」
賑やかな声に紛れて「ハリボテじゃねーよぉ」という情けない声が混じる。
「じゃぁ改造する間、罠を発動させてくれよ」
「了解ー!」
早速シルフにお願いして、内装に隠れるように作られた制御室に運んでもらう。
ドアーフは既に大盛り上がりだ。
そして手元には水筒とカップ……やはりな。
妖精を二手に分けて、半分はドアーフの仕掛けに入るそうだ。
「さぁて、やりますか!」
バーリンに席を譲られたのは、ドアーフ特製のモグラたたきのような装置。
シルフを入れてレバーを引くと床が跳ね上がったり、空気砲が使えたりする。
そこに連れてきた各種妖精を入れる。
妖精はワクワクした表情を貼り付けたまま、フロアを見ている。
まるで管制室のようだ。よし、ガンガン行こう。
将軍が突っ込むタイミングで床を跳ね上げ、空気砲を当てる。
よろけたタイミングで近くに火の玉を落とすと、ワーウルフに引火してしまった。
慌てて放水すると、火は消えたけど周囲まで吹き飛ばされる勢い。
威力強すぎない?それを見てドアーフ爆笑。
やり過ぎたかな?と思っていたら、大きなサソリが出撃するなり、尻尾の先から針を飛ばしている。あれ中身、タワシでしょ?なんか火炎放射器みたいのも出てきた。
「獣人は毛に引火するから!火気厳禁!」
放水すると鎮火以前に、水圧で吹っ飛ばされる面々。
まずいと思って別のレバーを引くと、今度は一面泥だらけになり、壁に白黒反転した半魚人の魚拓ができた。
ドアーフ大爆笑。酔っ払いめ!そうは思いつつも口元に笑みが浮かんでしまう。
本当にみんなよく頑張ったな。数年前の怯えた姿が嘘のようだ。
見様見真似で始めた格闘技も形になったし、ミミッポさんの棒術もなかなか強い。
サイクロプスが圧巻のフルスイングをしているので
壊される前にとハリボテを飛ばしたら、サイクロプスの上に落としてしまった…
怪我する前に、この辺で…と思うんだけど、仕掛け人のドアーフが止まりそうにない
そもそもお酒を持ち込んでるとは思わなかった。
「お酒がなくなったら終わりだよー!」と言うと
「えーーー!」と言いながら棚を探り出すから
「今飲んでるので終わりーーー!これ以上は怪我人がでる!」と強制終了しようと
した時、突然耳元で低い声が聞こえた。
「ホールドアップだ」そして頬に押し付けられる銃口。
レンジャー部隊のムササビ隊長。一番バレてはいけない人だった‼
ゆっくり両手をあげる間も、ドアーフの怒声と悲鳴。
そして「ヒャッハーーー!」という叫び声と銃声。
「制圧完了!モモンガ隊員、そこまでだ!」
誰だよ、アイツに銃渡したの……。
「撤退だ!」
ハッとして正面を向いた時には、無数の雷で目の前が真っ白になっていた。
ドーーーーーンという爆発音とともに
バグフィックスの攻撃を受けた制御室は大爆発をした。
最後はハンニバル将軍に締めてもらう。
「時に運命は我々を幼児の如く弄ぶ。
だが我々はあきらめずに戦った。我々は勝った‼」
勝利の雄叫びが上がり、やたらとデカいドアーフの声が響く。
酒臭いのは、この際目を瞑ろう。
ちなみに将軍はアスレチックに入ってすぐの落とし穴に落ちたらしい。
羽、ありましたよね?
試合後のボクサーみたいなミミッポも、デメキンみたいな半魚人も
毛がハゲた獣人も、黒焦げのトカゲもいる。
エルフは雷が落ちたみたいに髪を逆立ててるし、あぁ六重奏もだった……
そして制御室にいたメンバーは、私も含めてコントの爆発オチみたいに焦げている。
レンジャー部隊とバグフィックスだけが、すました顔で敬礼をしていた。
でも、みんな揃いも揃ってスッキリした顔をしている。
これは諦めなかった者の勝利だ!
「じゃぁ、家に帰ろう!」
ピーナツ一号に連絡を取り、共に凱旋。
戦闘組のあまりのボロボロ具合に、ガットとジャンは愕然としていたけど
裏事情を知らないみんなは、お互いを称え合っていた。
そうして盛り上がる中、神父パウルに声をかけられた。
一緒にいるのはミミッポのミハルとレア。どういう組み合わせかと思ったら
「娘が見つかったんです!」とミハル。
「えっ!どこで⁈」確かに捜索願いは出されていた。
案内されたのは、隠すように作られたピーナツ号の扉の奥。
住人は既に下船していて、外の賑わいが嘘のように静まり返っている。
避難の際、混乱を大きくしないように、申し訳ないけど子供達とパウルはここに
隠れてもらっていた。
扉を開けると子供たちはザントマンに見守られ、まだ眠っていた。
案内されたのはレイチェルという子供の所。
ふわふわに広がった髪を掻き分けると、確かにツノというかコブのような突起がある
ミハルは羊の獣人で、自身もツノはかなり小さめで尻尾すらなく
人族に紛れるには丁度良かったそうだけど
魔族国に来てからは、ツノを目立たせるように髪型を変えたらしい。
ふたりからは子供の捜索依頼が出ていたが、この部屋に隠されるように子供が居る事に気付いたのはレアだった。
もしかしたら自分の子供が居るかもと、パウルに詰め寄っていたのをミハルが仲裁し
結果見つかったのはミハルの子だったそうだ。
レアは落胆していたが、教会の話を聞いて子供と関わる仕事をさせてもらえないかと言ってきた。
レアは子供を諦めていない。
そもそも諦める事が難しいのだろう。
だが実際はもう、探し尽くしてしまっているのだ……
「ミハルはレイチェルと暮らすとして、どこで暮らしたい?」
そう聞くと少し困惑していた。レアへの同情もあるだろうし、複雑なんだろう。
パウルにも話があるからと少し離れると、ふたりで話し合っていた。
「二人が教会のお手伝いに入るとしたらパウルはどう思う?
現実的にひとりで子供達のお世話は大変だと思うけど、二人は信者ではない訳だし」
「女神様を拠り所として子供達と接していただけるのなら、何も問題はありませんよ
今は、どうしても大きな子に小さな子の面倒を見てもらっている状態ですので
人手は非常に助かります。子供達に字を教えたいと思っておりましたので」
「それなら魔族国内でも学校で使ってる、西の国の本があるから届けるわ。
教育関係も伸ばしたいから、避難村に適任者がいないか探してみようかな……」
学校から異文化交流が始まるのも良いかもしれない。
でも、その前に解決しなければいけない最大の問題がある。
「それと二人を赴任させる前に、子供達にも話をしてほしいの。
いずれは偏見をなくしたいけど急な話だし、ある程度大きな子は奴隷を当然に思う子もいるだろうから」
「確かにレアさんのツノは目立ちますからね……」
「あぁ、あの鹿角はカチューシャ」
「えっ?」
人族は人の姿から離れる程『魔族』と嫌悪したけど
逆に魔族は特徴的な見た目をしていないと『人族みたいだ』と怖がられてしまう事があるので、誇張の為にツノをつけている者は結構いるのだ。
「ふたりの場合、隠すのはむしろ耳だね。
服装で隠せるようにするけど、それでも偏見は減らしておきたいから」
そう伝えるとパウルは微笑んで「それは杞憂です」と言った。
「我々は共に女神さまの子。
女神さまの望まぬことは、我々も望みませんから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます