第103話受難のエルフ
<チームエルフ、アロレーラ視点>
トラップを発動させまくるドアーフ達を見て、正直腰が引けてしまった。
だからカルラ天について行こうと思ったのに、人里帰りのアンダリエルが
「こっちは仕掛けがあるみたいですよ。面白そうじゃないですか?」って
『ここは人族を半殺しにする為の施設なのですよ!』
バラす訳にはいかないけど、思わず叫んでしまいたかった。
同世代エルフの視線にも同情が混じってて辛い……
私の家はその昔、
神が砂漠にオアシスを作りし頃に、砂漠の森に移住してきたそうで
代々リーダー的な役割を担ってきた。
荷が重いと感じる事もあったが、それでも
両親も守った村を同じように守りたかったし、頑張っているつもりだった。
最近までは………
「慎重に行った方が……いいんじゃない…かな?」
「アロレーラさんに心配されたら終わりですね」
何なのこの子!何なのーーー‼
古き友人のウェブリューが呆れながら肩を叩いてくる。
元からこの土地にいたエルフは小麦と葡萄、そして牛と羊たちを育てながら
静かに暮らしていた。
そんな伝統的なエルフ村の仕事を転送されてきたばかりのアンダリエルに勧めたら
「やりたければ自分でやれば?」と言ったのだ。
挙句、王都ではどーとか、こーとか……
「もう、ほっといたら?」
魔王様に相談したら、そう言われましたが
エルフが他所で迷惑をかけるのを容認する訳にもいかず
気がついたら若いエルフが、こぞってアンダリエル化してしまった………
村の仕事が嫌だと言うので研究所に連れて行けば
「必要性を感じません」と言い
真面目な研究員を何度となく凍りつかせ、
そのうち体調不良を訴える者が出てきたので学校を薦めた。
口が立つ分、頭の回転は早かった。
しかも丁度、ガット殿が秘書を探していたのだ。
王都ではメイドをしていたそうだが、こんな態度でよく殺されなかったと思う。
でも彼女が言うには
「ご主人様は変態豚野郎でいらっしゃいましたので………」
オークという種族は聞いたことがある、
だが申し訳ないが魔族国の住人でなくて良かったと思う。
首席で学校を卒業したアンダリエルは、満場一致でガット殿の秘書に推された。
本人も当然という態度だった。
もちろんガット殿には猛抗議を受けたが
引き取っていただけるまで、古参のエルフが全員で土下座を敢行し、
何を言われようと、承諾いただけるまで決して頭を上げなかった。
ガット殿には心底呆れられたが、エルフの村には彼女に口で勝てる者はおらず
そもそも国内でも、まともに口論が出来るのはガット殿くらいしか居なかった。
ガット殿も最後は魔王様に
「このままでは、エルフがストレスで絶滅する」と説得されて承諾していただけた。
弓を習いもしないから避難組に入れたのに、何故ここに居る………
そして戦闘枠ではない筈なのに、なんなんですか!その軽やかな体さばきは!
次々と罠を発動させては、飛んで来た槍や弓を紙一重で避けていく。
お陰で後ろからついて行く私達まで危険にさらされている。
これワザとやってませんか?口元笑っていませんか⁈
落とし穴に落ちかけた親友を助けようとすると
「ごめんなさい、アロレーラ。私もう、あの子の暴言に耐えられない」と
穴のふちを掴んだ手を、自ら放してしまった。
「イェサローーーン!」
私は親友を失ってまで何をしているのだろう。
「なにモタついてんですか?先行きますよ」
アンダリエルの声が聞こえてきたが、
みんな石化したかのように、イェサローンが消えた穴を覗き込んでいた。
舌打ちして彼女は先に進んだが、誰も動こうとはしなかった。
やがて「戻るか?」とウェブリューが言った。
だが退路はない。あるのは落とし穴だけだ。
「進もう」道は前にしかないのだから。
進んだ先はつり橋のかかった崖だった。
アンダリエルの姿は既になかったが、これを本当に渡れたのだろうか?
橋というより長い織物だ。
複数人で乗れば、おそらく振り落とされるが……
「奴が行けるなら」と勇敢なギルロスが渡りかけ、橋ごと一回転して落ちた。
本当に渡れるのか?皆がざわつく。
「魔法で飛ぼう」
全員一緒はキツいが、出し惜しみをしている場合ではない。
飛べるもので分散して向こう岸を目指すと、風が吹き出し火の玉まで飛んで来た。
バランスを崩し、仲間が次々と谷底に落ちる中、なんとが向こう岸にたどり着こうとそれだけを思い飛び続けた。
<チームいたずら妖精>
「粘るねー、アロレーラ」
すぐ隣ではイェサローンが心配そうに見つめている。
「大丈夫、上から見ると谷底だけど、下にはスライムが敷き詰めてあったから」
まぁ、心配はソコではないのだろうけど……
ダンジョンにやって来た者は、ほとんどアスレチックから落下し最下層にいる。
私達はトラップに紛れて挑戦者の邪魔をしつつ、迷子がいないか確認していたのだ。
「その道具は何なのでしょう?」
「きっと人族が持ち込んだんだと思うよ」嘘である。
本来、橋を駆け抜けようとする者に、ボールをぶつけて邪魔をするのだが
ここではシルフの空気砲をぶつけている。
本来はこれで落ちるのだけど、まさか魔法で飛ぶとは思わなかった。
ここで回収しないと、あとはゴールを残すのみ。
そのため手段を選ばなくなった者達が……空気砲に、すっかり夢中なのですよ!
「ワタクシ、これが一番性に合っているようです!」
タワシさん!エルフの皆さんが居るんだからメタ発言しない!
「あくまで安全に回収する為だから!
実はこの先で乱闘になっていて、人手が必要なの!」
明らかに怪しい言い訳なのに、
「そういう事なら!」とギルロスが走って行ってくれた。
ありがとう!血中トカゲ濃度が一番高かったエルフさん!
ギルロスを追ってリタイヤエルフ達が走って行き、イェサローンだけが残った。
そして程なくアロレーラ達が落とされた。
討ち取ったー!と喜ぶタワシと妖精達を見せないように、イェサローンを促して駆け寄ると、アロレーラは魔力が尽きかけて目を回していた。
「ここまで頑張っちゃうのがアロレーラなのよね……」
「そうなんです」イェサローンは泣きそうな顔をして笑っていた。
アロレーラは自分で作った、とんでもなくエグ味の強い魔法回復役を飲まされて飛び起き、イェサローンの顔を見るなり、泣きながら抱き着いていた。
そして落ち着いてから
「アンダリエルは見ましたか?」
「あの子はつり橋を渡って行ったよ」
「そうですか……では追わないと…」
監督責任だとでも思っているのだろうけど、
アロレーラが抱えすぎるからこそ、彼女はガットに押し付けたんだよ!
「大丈夫。迷子が出ないように、最後の回収はスライムに任せるから」
「それは……」
「ドカ食いスライムだよ」アロレーラは少し気の毒そうな顔をしている。
ドカ食いスライムは最初、浄化槽に入れるつもりで育てられた唯一の自走式で、
滅多にいない動くものを集めたら巨大化してしまった特殊個体だ。
有機物を求めて這いながら際限なく大きくなるため、かえって下水道を詰まらせる
原因になってしまい、だったら掃除係はどうかと実験場に放したら
壁や天井まで這いまわり逃げ出そうとした。
移動速度が遅いので通常なら逃げ切れるが、寝ている間に襲われでもしたら
サイクロプスでも丸ごと飲み込む。
体内は酸素が豊富でエラが無くても呼吸は出来るが息苦しく、
しかも内側からの脱出は不可能で、出るためには大量の塩をかける必要がある。
どこまでも巨大化するスライムなのだが、塩をかけると途端に縮み、飲んでいた物を全部吐き出す習性があり、しかも塩をかけたところに向かって縮むから、遠くで取り込んだ物も近くで回収する事が出来る。
回収役としては理想的だけど、有機物であれば何でも食べてしまうため
それこそ人だろうが汚物だろうが、塩をかけるまで決して吐き出さないのである。
思い出してしまったのだろう。アロレーラは絶望的な顔をしている。
でも、ここにはイェサローンも居るから裏話をするワケにもいかない。
「とにかく残党のアジトを見つけたから、手を貸してくれる?
向こうは乱戦だから!」
その声にふたりはハッとした顔をする。
妖精達に声をかけ、タワシをフードに収めると、既に走り出したふたりの後を追った
つり橋を渡り切ったアンダリエルは祠の前に居た。
ゴールだから凝ったのだろうが、残党がこんなお誂え向きの場所にいるだろうか?
最初からあまりにも芝居がかっていた。
力を合わせて戦う?そんな泥臭いものに参加する気はなかった。
ただ気がついたら置いていかれていただけだ。
ガット様に離れていろと言われたから、そうしていただけなのに……
前のご主人様と、ここの国民の性癖が合致しない事には気づいているが
なにか話すたびに、こうも委縮されると会話自体が無駄な作業に思えて辟易とする。
言われた事はしているではないか。
自分の能力を生かして、学校も出て、ガット様にだって
「仕事に対しては信任に足る」と言われている。
湿り気のある暗い祠の中には、宝箱が置かれていた。
開いてみると宝石のついた勲章が入っていた。
本当に残党のアジトなら宝など最初に盗られてしまうだろうに。
「いまどき子供だって、もっと上手に嘘をつきますよ」
しかも勲章のデザインが妙に幼稚くさい。少しガットの物と似ている気がするけど。
これがあるという事は、ゴールに到達できたのは自分だけだったのだろうか?
「もっと褒めてくれたっていいのに……」
勲章を見ていたら、ふいに頭が重くなってきた……
体に力が入らなくなり、膝をついた拍子に宝箱に倒れ込んでしまった。
「………ねむい…」
こんなトカゲくさい所で…と思いながらも、眠気にはあがらえなかった。
『ミミックに変装したハエトリグサが現れた』
『エルフは捕まってしまった』
祠にはびっしりとキノコが生えていた。
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