第102話不死の迷宮

船から離れていた間に、ガルムルが作ってくれたインカム型通信機に話しかける。

即興で作ってもらった為、ちょっとハウリングを起こしやすいのが難点だ。


「バーリン、全員通過したわ。準備はどう?」

「そんなのバッチリに決まってんだろぉ。元々、人族用に作ってあんだ」


そう、ここは本来人族の為に作られた

『死にそうな目に遭うけど決して死なないダンジョン』その名も『不死迷宮』


前回人族が攻めてきた時と比べて、今回は人数も少なく、

落とし穴作戦であっさり全員を捕虜に出来てしまった為

わざわざ用意したにも関わらず、使わずに済んでしまったトラップだ。


制作に関わったベテランドアーフ達は、扉を見ただけで察してしまったようだけど

だからこそドアーフチームは馬脚トリオと一緒にしたのだ。


せっかく作った罠だもの、仕掛けに掛かるところを見たいでしょ?

魔族国きってのリアクション芸人の御業をライブで楽しんでくれ。



<先陣を切って飛び込んだトカゲの場合>

一番に飛び込んだものの、フェンリル族は足が速い。

出し抜いたつもりが、あっという間に並ばれてしまった。

しかもコイツは雪崩訓練にいた奴だ!

あの時は雪崩に追いつかれて凍りついたけど、固い地面で負ける訳にはいかねぇ!


「うぉぉぉ‼」

なんか後ろでスゴい音がしてるけど、振り返る隙はない。

あっちも時々横目で見てくるし、同じ事を考えてる筈だ。


「うぉぉぉぉぉ‼」

その時、急に地面の感触が変わった。

あれ?地面……ない?


「あーーーーー!」

ふたりで仲良く両手を挙げて、落とし穴に落ちていった。



<先頭集団の半魚人の場合>

緊張でエラがバクバクする。

我先にと走り出した先頭集団だったが。

トップを走るふたりが発動させる、あらゆるトラップに苦しめられていた。


ある者は飛び出してきた壁に跳ね飛ばされて、逆側の壁に飲み込まれ

またある者は跳ね上がった床に飛ばされ天井に消えた。

壁からは針のような物が飛んできて、ワーウルフが子犬のような声を上げて倒れた。


そしてオレは床を踏み抜いた。

真下には口を開けるスライム。どうやら食われるらしい。

スライムはソーダ味だった………。



<ルーヴとイワオチームの場合>

「あー、これは無理なヤツだろ?」

ヤンキー座りのルーヴが諦め気味の声で言った。


目の前の坂道はローラーで滑るようになっていて、

そこで転んだワーウルフの尻尾の毛が、ローラーに絡みついてしまっていた。


「いいかー。1、2の3で引き抜くからな。

いくぞ、1、2、3!」

一気に引き抜くと、見事に尻尾の毛が無くなった。


ワーウルフは予防注射の子犬のように泣き叫び

「1、2の3って言いましたよね!」

「言ったぞ?」

「の!のが抜けました!」

「抜けたのは毛だろ?」


「向こうにも絡まってるのがいるな…」

イワオが壁を蹴ってローラーを飛び越えてきた。


なるほど、壁を走れば良かったのか。だが気付くのが遅かった。

銛を挟んで助けようとしたトカゲも、ローラーの隙間から落ちてしまった。


そもそもサイクロプスがローラーに三人も挟まって泣いている。

お陰でローラーの回転は止まったが、

その動かないローラーにバーンは尻尾を残して宙吊り状態である。


「下にも道がありますよー!」

宙吊りなのに、随分余裕があるじゃないか……


「行くか?」イワオを見上げながら床を指さす。

イワオは近くに居たトカゲを見ながら、「行くか?」同じように床を指さしたが


聞かれたトカゲは

「壁を走れば飛び越せるんスよね!」と元気にコースの先を指さした。


「……俺の引率は、まだ続くらしい」ため息交じりのイワオの言葉に

「そうか、頑張れ」と返す。


「では、また後で」

壁を蹴って走るイワオにトカゲ達が続こうとするが、更にもう二人落ちた。


『これはすぐに合流だな』と思ったら

さっき先に行こうと言ったトカゲが壁に貼りついて進んでいた。

………あいつヤモリじゃねぇか…

「お前……なんでローラーで行こうと思ったんだ?」


まぁいい。そもそも正規ルートは罠の下らしいのだから。

ため息を吐くと、先ほどのワーウルフが

「……姉御?」とハゲた尻尾を撫でながら心配そうに見ている。


「行くか!」

「えっ⁈みんなを助けないんですか?」

「助けるさ。落ちた先でな」


そう言いながら腰を下ろし、明らかに色の違う床を踵で踏むと

途端に大きく床が崩れ、ローラーがバラバラに外れる。


近くに居た者が一斉に悲鳴を上げる中

「あーーー!」と間抜けな声を上げて両手を挙げたルーヴは

挟まった者達と、ローラーごと落ちて行った。



<ドアーフと愉快な三馬鹿達>

「スッゲーなぁ、罠を全部起動させてやがる」

「しかもアイツら落とし穴から這い出てくるもんな」


落ちたり、すっ転んだりしながら進む四重奏カルテットを遠巻きに見ながら

ガルムルとドゥーリンを先頭に、安全地帯をついて歩くチームドアーフ。


「おっ!行ったぞ!」

「あー、飛び石な」

水面に浮かぶ飛び石はいくつもダミーがあって、ハズレを踏むと沈み込む。

アトラが沈みそうになったところを、ケンタが助ける。


「協力出来るようになってきたじゃねぇか」

「でもアイツら蹄だぞ。ほら、いった!」

馬頭吉が見事に滑って落水。

しかも捕まろうとした飛び石がまたハズレで、更に沈み込む。

馬面なんだか深海魚なんだか、解らない顔で溺れている。


「よーく見りゃぁ解んだけどなぁ……」とそれを横目に池の端を歩くドアーフ達。

「それで、お次は…」と向けた視線の先では、滑る坂道を転げながら走るカルテット


「濡れた後で、これはねぇだろ?」

「誰だぁ、これ作った鬼畜は……バーリン?」

「アイツ細けぇからなぁ、床なんて鏡みてぇだ」


「そういやバーリンはどうした?」

「地下の仕事が随分まいったみてぇで、裏方をやるとよ」

「なんだよ。一番おいしいトコじゃねぇか!」


「お前ぇは孫の面倒を見ろよ、ドゥーリン」

「馬面まで一緒にするなよ。ひとりで十分だ!」

「………だろうな」


件の孫は、坂道を転がって来た大岩をハンマーで叩き割っている。


「これ、遊びで解放する時、武器禁止にした方が良くねぇか?」

「てめぇの孫が規格外なだけじゃねぇか?

……………おい。なんで嬉しそうなんだよ。気持ち悪りぃ」

だが、その活躍のお陰でコースに問題がないのも確認できた。


「そろそろ下ぁ降りて、合流するかぁ?」

「なんでぇ、あとちっとじゃねぇか」

最後まで付き合う気かよ…とんだ孫馬鹿だ。

だが娘が消えたと飲んだくれてた頃より、余程マシか……


「最後まで行ったら、床ぁ落とすからな」

その後、トラップは全て問題なく起動する事が確認された。



<ミミ天チーム閣下視点>

カルラ天が踏んだところを通れば、トラップは発動しない。

そう思ってひとりずつ慎重に通るので、どうしても時間がかかる。

オマケにレクチャーが長いので、後続のエルフまで並んでついて来ている。


「ふむ。」と一言唸ると、事もあろうに天狗は「近道をしよう」と言い出した。


……おかしいと思ってたんだ。

残党が隠れてると言う割に凝った作りの扉とか、潜伏先が見つかるタイミングとか。

あげく罠と言うには安全性が高すぎだ。


蟻将軍がカッコよく扉を切った時だって、ドアーフ達は明らかに狼狽していた。

間違いなく、ここ造ったのドアーフだろ……


そう思いつつエルフさん達と別れて、あからさまな迂回ルートを進むと

『スライムが現れた』

みなヒノキの棒を手に真剣に倒そうとするが

俺の頭の中は、とあるBGMでいっぱいだ。


おっ、デカいスライムは何度か叩くと八つに分かれて逃げるのか?

そのうち王冠をかぶったヤツが出てくんじゃねーか?


天狗に勧められたので参加したが

ハルトがスライムを槍の先で突いた途端に

素晴らしいエフェクトと共にスライムは爆散した……


「流石は魔王様のお子だな」と天狗に褒められてハルトは嬉しそうだが

明らかに武器の性能だろ!ミミッポさん達ポカーンとしちゃってるし!


なにせハルトが持っているのは、ドアーフが神の発注を受けて作ったという神槍。

そして俺が持ってるアオダモのバットも神に奉納された物らしい。


「おふたりは先に進まれても良い様だ」

デスヨネー!天狗師匠も持て余しますよねー!


天狗師匠と別れてからは、お馴染みのBGMをハルトと歌いながら進むと、

スライムが逃げる逃げる。

そもそも、ここのスライムは戦闘職ではない筈だ。

よく見ると、真ん中のヤツ『核』じゃなくてチビメラか?

どうりでスラ〇ムベスばっかり出てくると思った。


そして『おおさそりが現れた』

おー、見事な甲冑だ!ドアーフ作かな?

サソリって事は毒なのか?いや、この過保護な安全性でソレはない。


そう思ったら尻尾から火を吹いた。

「危ねっ!」

慌てて尻尾の先端をフルスイングすると、

飛ばされた尻尾の先からメラが逃げて行った。つまり、そういう事だ………


「ハルトー……」

声をかけようと振り返ると、既に槍投げポーズのハルト。


「ヤベェ!」

慌てて飛び退くと、サソリは爆風と共にバラバラになってしまった。


「やった!」とハルト。

でも正確には『やらかした』だ。待機していたモンスター役が逃げていく。


「ハルトぉ。モンスターも楽しませてやらないと遊んでもらえなくなるぞ」

「そうなの?」

「一緒に遊んでお互いが楽しいから、遊びに誘われるんだろ?

相手が嫌がってるのに一方的に楽しむのは、ただのイジメだ」

「えーーー!ゴメーン!」


「悪い!やり過ぎた!次から手加減するからー!」

洞窟の奥に向かって叫ぶと、隅の方でチラチラとシーツやら鎧がのぞく。


「ハルト。この槍だと強すぎるからヒノキの棒を貰ってこよう」

ハルトと一緒に天狗師匠の元に走りながら、

ヒノキの棒が必要な理由が初めてわかった気がした。















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