第101話開戦
その一報は、避難先に到着した小型脱出船ピーナツ2号によって伝えられた。
『魔族国を襲った人族の残党が地下に逃げ込み、反撃の準備を進めているとの情報を
ハンニバル将軍の部隊が掴んだ』というものだ。
幸い戦闘に適さない民達は、大型船ピーナツ号で脱出済み。
戦闘員はただちにこれを制圧、平定に協力していただきたい!
これを聞き、腕に覚えのある者達は大いに沸いた。
今までの鬱積を晴らす時が来たのだ!
自らの手で自由を勝ち取り、大切な者達を守るのだ!
戦闘員はピーナツ2号に乗り込み、残党が潜むという地に向かう。
伽藍洞の船室は戦闘員が窮屈なほど乗り込んだため、方向転換の時にドラム式洗濯機のようにかき回された以外は、満員電車程度の乗り心地だったらしい。
ドアーフ達をまとめるのはガルムル。エルフ達の引率はアロレーラ。
ワイルド獣人とサイクロプス、バーンはルーヴのチーム。
トカゲと半魚人はイワオが担当。
ミミッポにはカルラ天が同行することになり、ハルトと閣下も加えてもらう。
そして今回馬脚トリオは、ドアーフチームに入ってもらった。
私とハンニバル将軍率いる蟻蜂混合の大型兵達は、現地で合流する事になった。
体の大きいフィンは広そうなところを見つけながら、適当に暴れると言っている。
争いごとに向かないラノドは上空待機。
あとでルーフと合流して
安全なところからミサイルの処理を見守ってもらう事になった。
「指揮はお主がやらなくて良いのか?」
「私は戦闘では役立たずですし、裏方を担当します。
歴戦の将軍が参戦となれば、士気も上がるでしょう。存分に煽ってやってください」
「お主は案外悪戯者なのだな」
「魔族国の半数はイタズラ妖精ですから、きっと感化されたのでしょう。
面白おかしく騒いで後腐れないのが、良くも悪くも国民性ですので」
「悪くもあるのか?」
「やり過ぎるんですよ。
ですので妖精のイタズラには十分ご注意ください」
「肝に銘じておこう」
目的地へは私はフィンに乗り、将軍達は自前の羽で飛んで来た。
必要な時に生えるって、スゴい機能だよね。
地下の合流場所に向かうと、戦場に出すにはあまりにも無垢な笑顔が並んでいた。
体ばかりが大きくて、落ち着きがないけど
進む方向を見つけた彼等のエネルギーは強大だ。
それを見守れる立ち位置に居られることは、きっと幸せな事なのだろう。
そんな事を考えながら、キュクロさんの言葉を思い出す。
ハンニバル将軍は仰々しい扉の前まで進むと、腹の底から吠えた。
「決意を持って、この場に立つ者どもよ!
たとえ障害に遭遇したとしても、我々は諦めず、それを克服するために戦うべきだ。
道がなければ作ればいい!」
そして大剣を振るうと扉は切り刻まれ、音を立てて落ちる。
「進め!」
マントを翻し門をくぐる将軍に続き、雄叫びを上げて飛び込んだのはトカゲ。
それを追うように続くワイルド獣人。
後からイワオとルーヴがついて行くのを見て、サイクロプス、半魚人、バーンが続く
負けじとギチギチ言いながら将軍に付き従う甲冑兵。攻撃的な羽音が勇ましい。
最後と言われていたのに我慢できなくなった三馬鹿+アトラを追うドゥーリン。
それを見て腰を上げるドアーフ達。
ミミッポ達は真面目にヒノキの棒を握りしめ、
怪我人を手当てしながら進む都合上、しんがりはエルフになった。
よしよし、みんな行ったな。
将軍と共に入り口には入ったが、陰に隠れて見守っていたのだ。
「向かわないのですか?」とタワシ。
「我々は別動隊だからね。アロレーラについて行かなくて本当に良かったの?」
「舞台裏というのも楽しそうに思えまして」タワシは笑いを堪えている。
「アイデアがあったら採用するから言ってね。ただし静かにこっそり脅かすだけ!」妖精達も口を押さえて笑っている。
こちらはチームいたずら妖精。
将軍との打ち合わせを聞いて、こっちの方が楽しそうだとついて来た妖精の
即興チームだ。
「では、そろそろ」と移動しようとしたら、足音が近づいて来た。
まだ、門をくぐっていないチームがあったっけ?と振り返ると
足並みをそろえたレンジャー部隊が、敬礼をしながら通り過ぎて行った。
思わず敬礼しちゃったけど……
後で彼等をイタズラに巻き込んだ事を大いに後悔する事になるとは、
この時は全く考えていなかった。
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