第99話仕掛け人達

「繰り返します!

現在魔族国本領は、ミサイルにロックオンされています!

数発なら耐えられても、数が多いと対処できない可能性がある。

だから、打ち上げ場所を特定、破壊する必要があります!」


「アタシらはどうすんだ?」

「まずは地下組、全員無事?」………って聞いてるんだけど、まだ揉めてるな。


「バーリンとルーヴはいる?変わってもらっていい?」


「はいよぉ。こっちはみんな無事だぁ。

だけど捕虜を運び出す前にサイレンが鳴っちまって、

間に合わねぇから捕虜ごと奈落に落としちまったんだぁ。

フェンリルの姉ぇさんは、捕虜の運び出しをやってるんで、すぐには来れねぇよ」


「捕虜も全員運び出せそう?」

「あー、実はきっちり伸す時間がなくてなぁ、

上から落ちてきたのを、そのままスライムに刺してんだぁ。

最初は暴れるんだが、蟻の奴は凄ぇなぁ。問題なく運べてらぁ。

お陰で捕虜は一人残らず収容所行きだぁ」


これも予定通りだ。

地獄の底に落とされた兵達は、ドアーフ達に気を失うまでぶん殴られた後、

トカゲ細胞の培養液、通称『トカゲ汁』を飲まされたスライムに閉じ込めて運ぶ予定だった。


でもスライムに直接刺さる?

通常は引き出しみたいに引き延ばしてスライム内に閉じ込められるんけど、

外側はかなりゴムみたいな感じなんだよね。


頭から刺したら、なかなかの衝撃がありそうだし、

スライム内は窒息はしないけど中身がゲル状だから、意識があると溺れそうに感じて多分もがき苦しむ事になる……でも人権より人命。時短だと思おう。



「ご苦労様。連絡係の蟻兵さんは近くに居る?

一緒なら将軍と連絡が取れているか聞いてくれない?こっちからは連絡がつかないのよ」

「蟻の大将は手下の半分を捕虜運びに回して、自分は残りと南に向かったってよぉ」

そうなると、南の王都で全軍合流か。


「今いるのは、砂漠東の中継基地で間違いない?片付いたら水路に向かって!

船でそっちに向かってるから」

「もう着くのかぁ?」

「正確な時間は解らないけど………」


するとハルトが

「フォンで見れるよ」と画面を出してくれた。

「えっ!地下の地図まで出せるの?」


ハルトの反対隣に座っていたガルムルが画面を確認し

「これだと飯を食い終わるくらいの時間で着くな」と言うと

「時間なんてねぇじゃねぇかーーー」と音声がフェードアウトしていったから

バーリンは走って伝えに行ってくれたようだ。


しかし時間の伝え方も、概念が違うと変わるもんだな。


「魔王様、これ見てみろ!」

私、敬称いらないんじゃないかな…と思いつつ、


「何か見つけた?」とハルトの手元を覗くと

フォンで浮かび上がった地図の、南の王都に大きな青い点があった。


「敵認定という事はこれだね」

呼吸を整えてから、音妖精に向き直る。


「南の王都の振動の原因だけど、やっぱりミサイルの打ち上げ場所がソコみたい」


「………ソコとは…まさか、この上ですか⁈」

「可能性は高いかと………」

ジャンの声で話す音妖精が、ますますアボーンな顔になる。

周囲にも狼狽えた声が増えてきた。


国民の大多数にあたる避難組の行先だが

ミサイルによって魔族国が落ちた場合、更地から再建するより早いだろうと南の王都のすぐ近くの拠点待機させている。


「仕方がニャい。王都を乗っ取るつもりで来たのだからニャ」

そして男神がごねた場合、南の王都も乗っ取ろうとも考えていた……。

ミサイルを使うとしても設置型よりドラゴンに搭載させそうな気がしていたからね。


「男神の身柄は確保しているけど、今は失神中。

ミサイルを仕掛けた本人の意識が無くても動くなら、発射装置自体を止めるしかないと思う」


「ニャるほどニャ。だがモールスの内容はお主が説明すべきだニャ」

話ながらガルムルにこっそりモールスを送ってもらってたんだけど………


「アント女王はいらっしゃいますか?」

「はい。ここにおりますわ」

そういえば女王の声(副音声)は初めて聞いたな。


「これから主要メンバーでそちらに向かい、ミサイルを封じる手立てを取ります。

万が一を考え、大型船ピーナツ号は他の中継地に避難をした方が良いかと考えます。

移動ばかりで申し訳ありませんが、再度引率をお願いしたく……」


「貴女。避難の事を国民にハッキリ伝えなかったでしょう?

被害を抑えたかったのは解りますが、戦いもせずに安全地帯に送られたと憤る者も

居て、なかなかに難儀致しましたのよ」

「………それはお手数をおかけしました」


「しかし、ここには赤子もおります。ですから引率は引き受けましょう。

ただし戦う意思のある者は尊重して差し上げなさい」

「了承いたしました」ここはこう言う他ない。


「心配なさらなくとも、我が軍はお預けいたしますわ。どうぞご健闘なさいませ」

アント女王はコロコロと笑った……


いつものギチギチは翻訳するとこうなるのか?

目の前では音妖精が、口元の手を反り返らせながら笑っていた。



そうこうするうちに、東の中継地点に着いたらしい。よりによって急ブレーキで。

シートベルトはしていたけど、進行方向側に座っていたので、

壁に押し付けられることになり顔がひしゃげる。

ガルムルが押し付けられて音妖精みたいな顔になってるよ。

でもこれ、きっと私も同じ顔してるんだろうな。


顔の違和感が収まる頃、地下組が船に乗り込んできた。

若手ドアーフは造船に関わっていなかったのかキョロキョロしている。


「ルーヴご苦労様」

「魔王様こそ。ところで、竜族が後部座席で見張っている子供が神ですか?」

「そう、まだ子供なの」

「ですが子供とはいえ……」


「確かに世界を作ったのは彼だけど、最初に呼び出した王ですら制御出来なかったみたい。そうなると人族の行動をすべて管理していたとは考えずらいんだよ。

今回と前回、魔族国に攻め入って来た時以外の揉め事は、人族が自分で判断して行動した結果だと思う」


だがそうだったとしても、すぐに納得は出来ないだろう。

魔族狩りの生き残りであるルーヴは、自分以外にフェンリルは生き残っていないと

恨みながら長い時間を過ごしてきているし、実質ルーヴが最後の純血フェンリルに

なるだろう。


神くんは幼く短絡的だが、創造する力があるのなら知るべきだった。

浅はかな行動は恨みを生み、わが身に帰るという事を。


知らなかった、気付かなかったでは済まされない。

被害者がいる以上、知る努力をしなかった事が罪なのだ。



「船が出るぞー!」

後方からイワオの声がした。


「ルーヴ!すぐにベルトを締めて!」

差し出したベルトをルーヴが掴んだ途端にグンっと船は進み、一気に速度を上げる。


ベルトを掴んでいたルーヴは免れたが、それ以外の地下組は先ほどの私達同様

床を転がり奥の壁にぶつかる。

でもさっきぶつかった場所にはフィンもカルラ天もいない。

竜族用の広い後部座席に逃げたな。

トカゲも獣人もドアーフも、もちろん半魚人も仲良くGに潰され………


半魚人ヤバくない?

顔が釣り上げられた深海魚のソレ。口から浮袋が出ちゃってるじゃない!


ご乗船のお客様にお医者様はいませんかー!ってアロレーラお前だよ‼

エルフ達ー!

なにジェットコースター気分で全力で加速を楽しんでるの!仕事しろーーー!


叫びたくなった瞬間、ふたたびループ旋回。

広がる奇声と笑い声。


転がって叩きつけられるドアーフに対し、ムーンソルトで着地するトカゲと

壁を走るワイルド獣人。

天井と床で濡れタオルを叩きつけたようなビターンって音を立てる半魚人。

そして更に飛び出しちゃってるよ、眼球!


それを見てトカゲが笑って押し込んであげていた。

眼球も浮袋もデメキンみたいになったら押し込めば治るそうです。

脱肛扱いですか?目玉ですよ?


シートベルトの着用をお願いしたかったんだけど

座席が足りなかったので、ワイルド獣人とトカゲと希望した半魚人は

座席なしの中央に座る事になった。

アトラもハンマーを使えば着地できるって言ってたけど

そんな事したら船体に穴が開くでしょ!


かなり無理をお願いしたハズだけど、好戦的なメンバーはまだ動き足りないらしい。

バーリンはやつれてるけどね。


『次はどいつだ!』って顔でギラギラしてるとこ悪いけど、

多分あとはミサイルを止めに行くだけなのよね……

連れてきたのは、むしろ爆心地から距離を取るためだから。


………これか?アント女王が手を焼いたってヤツは。


避難組のメンバーで好戦的なのは北山で遭難したり、雪崩に埋まったり、フェンリル村の食事の儀式で競り負けたり、カツオに引きずられたのもいたな……


あいつらヤル気はあるんだよなー。

………………。



「ガルムルー。ちょっと相談していい?」

そう言って奥の竜族用の船室を指さすと、隣にいたルーヴが

「私には聞かせられない話か?」と意地悪な顔をする。

そしてアロレーラも

「私は⁈」と期待の眼差しを向けてくる。


あとはお疲れ気味のバーリンに声をかけ、隣に移動すると

「今度は何の悪だくみだ?」とニヤニヤしているフィン。


扉を閉めるとき、舌打ちしたのはドゥーリンとアトラだな。

あなた達は知らない方がいい話だよ。


「それで魔王様!

今度は何をなさるんですか?」アロレーラはワクワクが止められない。


最初の知的なお姉さんキャラはどこ行った。

まぁ村や研究所で頑張ってる分、気が抜ける場所が必要なんだろうけど……


「その前に……」

皮手袋をしてフードに手を突っ込むと

タワシは既にクリップボードを抱え、速記の体勢をとっていた。


笑顔で翻訳機を外してガルムルに渡すと、

ガルムルはそれを袋に入れて出入り口に行ってしまった。


「タワシはイタズラを仕掛ける側とターゲットだったら、どっちがやりたい?」

驚いた顔をしながらも、つい口元をほころばせてしまうタワシ。


「知らない方が楽しいかも知れないけど、どうする?」

「ここまできて、内緒はねぇだろ」バーリンも元気を取り戻した。


「発信機は戸口に吊るしといたから、ガットのヤツが連絡してきやがっても

受信できなかったで通るぜ」ガルムルもイタズラっ子の顔をしている。

妖精の相手をしてくれていたイワオも連れてきてくれた。

そう、何事も全力が楽しいのだよ。


「では作戦会議を始めましょうか」









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