第98話だから有事なんだってば!

小型脱出船ピーナツ2号は、脱出組が乗って行った大型船と比べるとかなり小さい。

でも乗船場所が広間なので広く見える。


本当に少人数の脱出用でしかないうえに、何人乗るかが正確に決まっていなかったので、イレギュラーを考えて、中は伽藍洞なのだ。

壁際に座席とシートベルトはあるものの、急に発進したため

私、アロレーラ、ガルムルとドアーフ達、そしてタワシが進行方向と逆に飛ばされた


浮かんで回避しようとしたカルラ天だったが、吹っ飛んで来た大勢にぶつかられ、

お団子状態でフィンに突っ込む。流石のフィンもくぐもった声を出した。


「お前ぇは俺に、なんの恨みがあるんだよぉ」

イガ栗のように緊張したタワシは、ガルムルの顔に着地していた。

そんな騒ぎの中、タワシが背負っている翻訳機が背中で跳ねている。


「タワシ!通信が急に途切れて、避難組が心配してるんじゃないの?」

シートベルト代わりにタワシ運搬用のサコッシュを出そうとしたら

「こちらの方が慣れております」と腕を伝ってフードに落ち着いた。



揺れが安定し、それぞれがシートベルトで体を固定していると、ドアーフ達が

ざわめきだした。

「地下組と連絡がついたんだが、モールスが使えねぇ奴が操作してるみてぇで……」

「モールスが使えねぇヤツなんて、村に居たか?」とガルムル。


「まずは生存が確認できて良かった。

一方通行でいいから、こっちの声が届くようにして!

タワシの翻訳機も同じように出来る?周波数を合わせれば通話可能って聞いたけど」


「チャンネルを合わせろ。地下組は操作できる奴を見つけるように言え!」


滑るように進むピーナツ2号は推進力に加えて縦揺れを感じるようになってきた。


「そうだ!アクアは目的地を聞いてる?

東の中継地を経由して南の王都に向かって!南の砂漠は今危険な状態だから!」


言った途端にチビメラが後方に飛んで行き、

そして返事もなしに船体がぐるりと回転し、問答無用に壁に押し付けられる。


「うわぁぁぁ!」

ちょっと待って!今、ループ回転しながら方向転換しなかった?

なのに………めちゃくちゃ盛り上がってる船内。絶叫系に強い人達……


新アトラクションとか言ってるけど許可しないからね!

流されちゃダメだ。この人達、安全マージンゼロなんだから!


「アロレーラ!揺れを抑える魔法とかないの?」

言った途端に、全員からブーイング。だから今、有事なんだってば!


「出来ない事はないのですが……」

「膨れっ面しても安全第一!

こうも揺れてちゃドアーフが作業できないでしょ!」


……っていうか拗ね顔のエルフ可愛いな。

ほら、みんなして膨れない。可愛い顔しても流されないからねー。



「さっきの縦揺れは、おそらく男神のミサイル攻撃なの!

着弾なのか衝撃波なのかは解らないけど」


「でもそれをマグマの壁で止めるのですよね?」

アロレーラが眉を顰める。


今回の作戦はアイアンドームならぬ、マグマウォール作戦。


マグマ溜まりから送られたマグマが、魔族国を囲む流れるマグマプールから噴き出して、飛んできたミサイルをマグマでキャッチ、溶かすか爆発させるか

とにかく被害を出さないように処理する計画だ。


砂漠の教会がある南側は、アトラの一件以降、

マグマは教会エリアの外側を流れるようにしてあり、そして現在教会エリアは、すっぽりマグマドームで守られている。


教会関係者も、避難民用大型ピーナツ号ですでに退避済み。

パウルには事情を話し、子供たちは眠らせて運んでいる。


そして地下の奈落が開くのを合図に、マグマの壁を作るようにキラメラに頼んでおいたのだ。


キラメラが毒や化学物質に耐性があるのは実証済み。

爆発に巻き込まれても成分が集まれば生えてくるとか、恐ろしい事を言っていたけど

極力そうならないようにお願いしている。


ただやはり厄災は、想像を容易く超えるものなのだ……


「計画通りには進んでいる。

ただ想定よりもミサイルの数がはるかに多い。

しかもラノドが見た感じでは数を増やし続けているのよ」

「増えるってぇのは……」


「増えるとはどういう事ニャ!」

ガルムルに被せるように、ガットの声が響いた。


翻訳機はガットとジャンが持っていたから同時通話は出来ないものの、

送信用と受信用に分けたらしい。

話そうとしたら今度はドアーフの翻訳機が喚きだした。


「なんだよ、ツーツー言いやがって!解かるように言いやがれ!」

アトラ…やはりお前だったか……

地下組にもバーリンとルーヴに翻訳機渡しといたもんね。


「アトラ!地下組は無事?全員退避でき………」


「てんめぇ、このガキ!解りもしねぇのに、でしゃばるな!」

ドゥーリン、お前もか………


怒声に紛れて遠くから

「魔王様ー、無事だから心配いらねーよー」とバーリンの声がする。


負けずに大きな声を出そうと息を吸った瞬間

私より先にガルムルが怒鳴った。


「てんめぇら、いい加減にしやがれぇぇぇ‼」腹の底からのデカい声。

その後も大音量のお説教は続いてるんだけど

耳がキーーーンとなってて、よく聞こえない。


負けじとアロレーラが

「魔王ーさまぁぁー!」ってガックンガックン肩を揺らしながら叫んでいるけど

頭を横に振っても治らないってば……


いつも言ってるけど、あなたの役目は回復担当。

お願いだから、仕事して。


「喧嘩ニャど…ピイィーューーー」

ついにハウリングまで起こした。


トランシーバー型を開発してたんだけど、

ハウリング問題が解決する前に、開戦しちゃったのよね。


「混線してやがる。一度に喋んじゃねぇ。話のあるヤツは手ぇ挙げろ!」


手ってどうやって?

そう思ったらペンダントの蓋が開き、そこから音妖精が現れた。

なるほど、音妖精が手を挙げて順番に話すのね。


話す人が変わると表情と声も変わるんだけど

やっぱり変顔は健在。どうにかならないものだろうか……


例えばドゥーリンが話すと劇画顔。

バーリンだと眉毛を下げたショボン顔。

アトラだと細眉を吊り上げて……あっ、ガットバージョンは猫耳が生えた。

そしてジャンの時はなんで、アボーン顔なんだろう?


えーと何処まで話したっけ?

もう大丈夫だから、アロレーラ止まって。

頭揺らされすぎて気持ち悪くなってきたよ……


「先程から繰り返し、妙な衝撃を感じます!これは現状と関係がありますか?」

流石ジャン!それだよ、言おうとしてた事。


「現在魔族国本領は、ミサイルにロックオンされています!」








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