第97話脱出
液体の中で男神は怨嗟を吐いた。
なんでだよ。
なんでお前ら勝手な事してくれてんだよ。
口を動かすと、ゴボリと泡が出る。
オレは死なない。オレは神。
まつろわぬ者はいらない。消えろ。
薄れゆく意識の中で、泡と一緒に吐き出したのは呪いだった。
外輪山では直ちに撤退命令が出された。
「シルフ!キラメラを連れて配置について!外輪山を塞ぐよ!
他の者はシェルターに避難!オベリスクから入れるから!」
胸の翻訳機で状況を確認しようと思ったら
「お主も撤退だ!」とフィンに鷲掴みにされ、文句を言う前に脱出口まで運ばれた。
国民退避後、外輪山に蓋のようなドーム天井を逃げ込む穴を残して作ってある。
そこに脱出口として作ったのは、大型の鳥族も通れるサイズの脱出用滑り台。
緊急時はそこから逃げる……予定だったのよね。私とハルトと閣下以外は…。
奇声を上げて真っ先に滑り台に駆け込んだのはトカゲと半魚人。
負けじと続くドアーフとエルフ。
みんなノリノリなんだけど、
この滑り台、外輪山のてっぺんから地上まで続くのよ。その落差六百メートル。
「楽しめる人しか、滑っちゃいけないヤツなのにーーーーーーーー‼」
そして無情にも滑り台にまっしぐらのフィン。
一応みんな滑れるサイズに作ったけど、飛びましょうよ翼があるんだから!
鷲掴みのまま、凄まじい加速の後にやってきたナゾの浮遊感………?
これ普通に落ちてない?
状況が理解できないまま、今度は何かに捕まれ引き戻された。
お陰で首がもげそうな程のGがかかる。首痛い…頭とれちゃったかも……
気がついたらラノドの鞍の上にいて、ルーフが風を吹きかけてくれていた。
滑り始めてすぐ吐いて、驚いたフィンにぶん投げられたのを
ラノドがキャッチしてくれたらしい。
無重力を感じたのは間違いじゃなかったのね。
気を失いかけていたのは僅かだったようで、滑り台の先からまだ奇声が聞こえている
「みなさん滑り降りましたので、退避は完了しましたよぉ」
「えっ……全員?」
「ご子息さんも閣下さんも、フィンさんに抱えられて降りていかれましたぁ」
「…………‼」
吐いたの私だけ?六百メートルだよ⁈
それに飛べる人は必要ないよね。
フィンもカルラ天もノリノリで滑った?
それなら作った甲斐がありました。良かったです。
ドームにぽっかり開いた脱出口は、すでに塞ぐ作業が始まっていた。
その隙間から羽シロアリ達が神くんを運んで来たけど、意識は完全にないようだ。
地上に下ろしたらトカゲ汁を飲ませたスライムに、
女神ちゃんと一緒に閉じ込めておくように伝えて、シェルターに運ばせた。
「今もミサイルは見えてる?」
「ミサイルというのですかぁ?小さい太陽みたいなのは、たくさん光ってますねぇ」
「数はどれくらい?」
「葡萄くらいでしょうかぁ?さっきより増えてると思いますぅ」
「さっきって最初はいくつ見えたの?」
「朝ごはんのお皿の数くらいですぅ」
「増え続けてるの⁈」
「んーーーいっぱいですねぇ」
目視出来ないし、ラノドは数えられないから伝わりずらい。
「フィンさんが、魔王様が目視する前に撤退しろって言ってましたぁ」
それって目視できる距離だとアウトって事だよね……。
自分の勘より、神様クラスの人達を信用すべきだ。
あれほどプライドが高くて、好戦的な人達が一目で撤退を決めたのだ。
その時点でそれは、人知を超えた存在なのだろう。
砂漠の地下に居るルーヴとバーリンにも連絡が取れない。
全員無事に逃げられただろうか……
そう思った時、ズンと大地が揺れ
流れるマグマプールから壁のようにマグマが噴き上がった。
思わず口を押さえる。
肺が焼けるんじゃないかと思うほどの熱風だ。
まさに地獄絵図だが、よく見ると噴き上がるマグマの飛沫に見えるのは
楽しそうに波乗りを楽しむメラ達である。
まさにウェ~~~ブ。ちっとも緊張感がない。
でもマグマが吹き出せたという事は、地下の最終脱出口である奈落が
無事に開いたという事だ。
予定は悪い方に進んでしまったけど、それぞれの現場を信じるしかない。
ラノドに合図して、すぐにその場を離れる。
でも緊張感がないラノドは、いつもの調子で話しだす。
「あれならきっと柘榴みたいのにも負けませんねぇ」
「…柘榴みたいな色なの?」
「いいえー。柘榴みたいな数ですぅ」
「退避‼今すぐシェルターに向かって‼」
「はいー!」
これって確認できる数が増えてるんじゃなくて、打ち続けているのだとしたら……
シェルターはオベリスクのあった所の通路が広げられていて
ラノドに乗ったまま地下に降りられるようになっていた。
そして我々が降りると、指示するまでもなく穴を塞ぐ作業に入る妖精達。
妖精達に言付けをして先を急ぐ。
脱出船の近未来型ピーナツ2号には、既にほとんどが乗り込み
乗車口の前にはアロレーラ、ガルムル、カルラ天の三人が
スライムに入った兄妹を囲んでいた。
着地を待って走って来たアロレーラが叫ぶ。
「魔王様、情勢は?変化はありましたか?」
「予定通りマグマが噴き出した。
地下と連絡が取れないけど段取り通りだから、あっちも退避行動をとってると思う。
まずは船に乗ろう」
「よし、お前さんはあっちだ」とガルムルが促す先にはイワオが待っていて、
体の大きいラノドを先に乗船させる。
「この者の処遇は如何様に?」
カルラ天が厳しい視線を男神に向ける。
「場合によっては彼の協力が必要になるかもしれない。だから同行してもらう」
「そうなるってぇと、行先は……」
「南の王都。でもその前に地下組を拾う」
「避難組と合流ですか?」
「結果としては。でも予定より悪い方向に進む可能性が高くなってきた」
「それは…」
「まずは神たちを乗せよう。話は船で。ただちにここから脱出する」
言葉を強めて言うと、皆の表情にピリッとした緊張が走る。
気持ちは解るがお喋りの時間はない。
兄妹神はイワオ達に任せて先に乗船し、船内に入るなり声をかける。
「タワシ居る?至急ジャンかガットに連絡取って!アント女王に話があるの。
あとドアーフでモールス得意な人居る?バーリンにも連絡が取りたい!」
この声にざわつく船内。
「予定通りマグマは噴き上がったから、地下組も緊急退避は出来ている筈!
ただ予定より悪い方向に進んでるから、忙しいんだと思う。
合流するためにお互いの位置を確認する必要があるの」
「悪い方向とは?」
フィンが怪訝な顔をする。
「ミサイルの話だよ。最悪の場合って言ってた、最悪に向かっている。
でもここまでは想定の範囲だよ。
今後の相談をみんなとしたいから、先にそれぞれの回線をつなぎたいの!」
「ジャン様とつながりました!ガット様もお近くにいらっしゃいます!」
タワシの声を聞いて慌てて準備を始めるドアーフ達。ガルムルが檄を飛ばす。
「ジャンには向こうの意見をモールスで送ってもらって!
ガットはアント女王との交渉役。おそらく女王に軍を動かしてもらう事になる。
ハンニバル将軍と連絡が取れてるか確認して!」
「兄妹神の積み込み完了しました!」
「待て!奴も連れて行く気か?」イワオの声にフィンが反応する。
「魔王様!翻訳機が暴れてるぞ!」ガルムルに渡すと
「シルフからだ!ピカピカたくさんキレイなの…ってなんだそりゃ?」
「急いで船出して!アクアは準備出来てる?」
するとまるで出航の合図のようにチリチリとアクア達が音を立て、
船は一気に加速した。
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