第93話終わりの始まり
避難経路を作りながら、
神くんが進軍するなら間違いなく拠点にするであろう、南の王都のすぐ近くに
こちらも救助活動の拠点を置いていた。
主に使ったのはキャンベル隊だったけど、生存者を保護した後は
神くんを想定してシロアリ隊を配備。
南の王都に戻って来た神くんは、さっそく兵を召喚し戦争準備を始めたが
張り込んでいた甲斐もあり、こちらは逐一情報を得る事が出来た。
頑丈さが売りのブルードラゴンだが、製作中に内部に侵入してしまえば
どうという事は無く、動力と生活家電以外の配線は、ことごとく切ってある。
これはレッドドラゴン号を、くまなく調べあげたガルムルの功績だ。
内部構造はブラックドラゴンもほぼ同様だったから、
ブルードラゴンも、外側の金属以外はあまり変わらないと考えた。
そしてシロアリ隊の危険物処理班には
ガルムルの講義をみっちり受けてもらい、練習を繰り返してきた。
ちなみに核と思われる大型ミサイルも発見された。
核弾頭って位だから、頭に問題があるんだろうけど、どこまでが頭か解らないので
分解できそうなところで三等分に切り分けて、頭はキラメラに分解してもらった。
「綺麗な青だった」と報告してきた子には、
申し訳ないけど、マグマ溜まりで全身にヤスリ掛けをしてもらった。
「嘘だろ!これはミスリルで出来てるんだぞ!」
だーかーらー、その加工を得意とするのが、ドアーフなんだって。
ちなみに危険物処理班は、ドアーフ印のミスリルカッターを顎に装着している。
「大体その武器はなんだ!
例え作れたとしても、時間なんて無かったはずだ!」
「南の王都での一日は、魔族国の一年に相当する」
「はぁっ?」
「精神と〇の部屋かよ………」閣下がボソリと呟いた。
実は願いは三つ、すでに女神に叶えてもらっていた。
ひとつは、魔族と人族の転送。
もうひとつは、毎日一枚重ね掛けバリア。
そして男神襲来のその日のうちに、
魔族領土内の一日が一年分になるように引き延ばしてもらっていたのだ。
ただ前世の世界と時間の概念が違うので、おそらくそこまでは長くない。
ハルトの成長を見るに、転生してから三年程度だろう。
当時生まれたばかりの岩トカゲは二メートルになったけど、
ハルトは伸びなかったなぁ……これからに期待。
キャンベルが言うには、南の王都から魔族国の方を見ると、
ひっきりなしに昼と夜が来るため、非常に天候不順な土地柄に見えたそうだ。
だからその間、それなりの月日をかけて住民と話をし続けたけど
神くんの戦争ごっこ以前に、魔族には怒る権利があるのだと痛感させられた。
聞けば神話の時代から、醜いだの何だのと
神は自分達と違う者を閉じ込めたり、迫害してきたのだ。
もちろん全ての神ではない。
こういったものは大概にして、一部のやらかしが悪評として伝わるものだ。
そしてそれは我々も、召喚された兵士だって同じだ。
創造主である男神に言われるがままに戦争した挙句
世界が滅びるなんて、元も子もないではないか!
「なんでお前、オレの邪魔ばっかすんだよ!」
「戦争で邪魔しないってなに?攻め込まれて迷惑してるのはウチなんだけど?」
「これはそういうゲームなんだよ!クソみたいな事しやがって!」
「君にとってはクソゲーでしょうけど、
生憎こっちは、そのクソみたいな世界で必死に生きてるんだよ!
それにゲームだっていうならルールはどうしたの?
神は直接介入しないって言ってたよね!」
「オレは王に願いを託された、いわば王の代理だ!」
「代理でラスボスが出て来ちゃう時点で詰んでるじゃない。
それに、その理屈は通らないんだよ。
王様は全員魔族国で抑えてるし、領土も南の王都以外は制圧済みだから」
リサイクル作戦で制圧、もしくは地下トンネルで広げた地域はもれなく魔族国領土となったので、実質男神が持っている領土は南の王都だけなのである。
「オレは王から直接託されたんだぞ!」
「だからその王がダミーなの。
良く出来てたでしょ?魔族国の職人さん、みんな腕が良いから」
南の王都の惨状を女神に聞いて、すぐに妖精に王城の生存者確認をお願いした。
すると『鉄の道具を抱えてうずくまる若者』が発見され、
服装から王ではないかと推定された。
若者に外傷はなかったものの、
心のダメージが大きすぎて、すぐにも保護が必要だった。
だがゲームのキーマンである彼を軽々しく動かす訳にはいかない。
なので女王国斥候の神絵師に王を模写してもらい、国内で精巧な
マネキン人形を作ったのである。
妖精の大まかな採寸から、牙細工師のゲチさんが羊の骨で骨格を作り。
ラバースライムで関節、筋肉は湯たんぽスライムを使用。
木工職人が木型を作り、これにバーリンを筆頭とした靴革職人が
皮を伸ばして立体形成をした。
この時点で相当リアリティを求めた作品になっており
夜中にトイレに行けなくなる者が続出した。
そして届いた模写を元に、革細工職人が細部をさらに作り込み、カツラはドアーフ、
瞳はガラス職人、爪や歯も羊の蹄や骨で作った。
妖精の採寸と実寸があまりに違い、倒れた格好にしてサイズ違いを誤魔化したけど
完成したマネキンは人形と呼ぶにはあまりにリアルで
夜のトイレが怖いどころか、眠れなくなったり、ピグマリオン化する者が現れて、
前者はザントマンに、後者はケット・シーにお願いして
カウンセリングを受けてもらった。
神くんが戻ってきた時、
『王の独り言』を音妖精に覚えてもらって喉に待機。
チビメラ達にも温もるくらいの温度に温めてもらっていた。
南の王は早々に保護されていたので、パウル達と一緒に救出済みである。
「もう勝負はついたでしょ?これでゲームはおしまい。
クリアすれば、世界は解放されるんでしょ?」
ポカンとしてしまった男神に、諭すように告げる。
「クリアが出来ないなら、この世界の主導権を女神に譲渡して。
それが最後のお願いだよ」
最後の願いと聞いた途端に、男神はピクリと反応し、反射のように叫んだ。
「ふざけるなぁぁぁーーー!」
穏便に済ませたかってけど、残念ながらそれも想定済み。
こじれた男神には、何を言っても小言に聞こえるだろうし、
現に男神の口からは恨み言しか出てこない。
話し合いで物事を解決するには、
お互いを理解しようと努力するから可能なのであって
思考を止めた者とでは、言葉以上の壁があるのだよ。
十分時間が稼げたから、こちらも準備が出来………
「神くん!燃えてる!」
雨のように落とした雷で、ブルードラゴンに引っかかっていたバルーン人形に
火がついたようだ。
こっちがどれだけ騒いでも、頭に血が上った神くんは話を聞こうとしない。
そうこうしているうちに予定通り、シロアリ隊によりドラゴンの首は落とされ
球体上のコクピットの天井がなくなった。
「もう、放水しちゃって!」
腕を振り下ろすと、サイクロプスと漁師達に
手筒花火のように抱えられたテッポウウオの口から、液体が滝のように噴射された。
テッポウウオのお尻につながった、ラバースライムで作ったホースは
外輪山の下まで長くつながり、エルフの魔法で液体を汲み上げている。
この液体は、血液検査で発見された国民の体内に存在した細胞を培養したもの。
ハチミツを使った化粧品を開発するにあたり、アレルギー検査のために
主だったメンバーの血液を採取したのだけど、その時に発見されたのがこの謎細胞。
謎細胞は十秒として止まる事なく、落ち着きなく動き続ける特性があった。
止まったかと思えば、急に方向を変え、観察しようとすると走り出す。
すべての国民の血液中に、個人差はあるものの存在したこの細胞は
最も多くこの細胞を所有していた種族にちなみ『トカゲ細胞』と名付けられた。
トカゲ細胞は、熱さ寒さにストレスを感じる事もなく、いつも元気に走り回った。
迷路に入れると迷子になるが、養分を与えると素直に誘導に従いゴールに辿り着いた
この習性はトカゲ細胞が多い者の性格とも合致した。
みな騙されないかが心配なほど、素直で疑う事をしない者達で、
一様に落ち着きがなかった。
ちなみに小さい子供は種族に関係なく、この細胞を多く持っている事が解った。
この細胞にご都合キノコを食べさせたところ、爆発的に増殖した。
更に世界樹様から分けてもらった樹液を加えて熟成させると、
肉眼でも水中で何かが動いているのが解る程になった。
そしてこれを五十メートルプール一杯分用意した。
放たれた液体はコクピットに溜まり、神くんは逆さまになって水没。
無事火は消えて、ブルードラゴンは地上に落ちて行った。
そういえば最後の説得の時、女神はよく余計な事を言わずに黙っていたな。
そう思い振り返ると、
女神はアロレーラに、ジャーマンスープレックスをかまされていた……
しかも自爆してない?
エルフさん達が必死に言い訳したり、介抱したりしてるけど
これは例によってアレでしょ?
「…………余計な口を挟もうとした女神を止めようとして、やらかした?」
つい指さして言っちゃった。
すると泣きそうな顔で激しく頷くエルフさん達。
……アロレーラ。みんなに理解があって良かったね。
「ここまでする必要あったの?」
友達をズタボロにされたハルトからしたら、そう言いたくもなるだろう。でも、
「神くんは最後まで謝れなかったんだよ。
それをするだけで解決方法は増えるのにね」
「なんで?」
「あの子はきっと、叱ってくれる人がいなかったのね」
「………いいな、それ」
微妙な空気になった所で、
薬液の汲み上げを確認してもらっていた、竜族とカルラ天が戻って来た。
そして頭の上から、ラノドの呑気な声が聞こえた。
「わぁー。花火みたいですねぇ」咄嗟に振り仰ぐが何も見えない。
「撤退だ!」フィンの言葉に目を凝らすけど何も…
カルラ天の指示を受け、ハーピーがつんざくような声を上げる。
そして胸のペンダント型翻訳機が震えた。
「総員退避!間もなく空が落ちてくる!総員退避だ!」
ハーピーの声で届かなかったが、ペンダントは不穏に震え続けた。
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