第91話大魔王降臨

<魔族サイド>

砂漠では今まさに両軍が衝突しようとしていた。


魔族国の外壁は、外部から異様に目立つと閣下に言われたので

キラの涎を接着剤に砂漠の砂を塗り付けてカモフラージュをし

更にシルフ達が、砂を巻き上げながら飛び回って視界を悪くしている。


力押しの男神軍に対し、女王国地上部隊は二列縦隊で音もなく前進する。


両軍がぶつかる前に中央の砂が噴き上がり、そちらに目が向いた隙に左右に分かれ

鶴翼の陣を展開し。男神軍を取り囲む。


そして囮役。

ドラゴンだ!大蛇だ!って叫んでいるのが、ここまで聞こえる。


「なんじゃ!あの魔獣は?あんなデカイやつは知らんぞ?」

「あの子はミミズのミッシェル。ウチの国民です」

「は?」


ミッシェルは獣人村の鶏小屋付近で巨大化してしまったミミズさんで、キナコの友達


キナコは鶏が好きで鶏小屋から離れなかったのではなく、

友達になったミッシェルを育てていたのだ。

そして巨大化したミッシェルは脱出用のトンネルをぶち破って見つかってしまった。



作戦名『双頭の蛇』は

頭とお尻に兜をかぶったミッシェルが、男神軍の注目を集め

その隙にハンニバル隊で包囲してしまおうという作戦。

厳つい兜を作ろうと、防具鍛冶職人も盛り上がった。


作戦を立てた時、ミッシェル自身は同意してくれたのだが、キナコがそれに反対した

ミッシェルは体こそは大きいが、とても大人しく怖がりなのだ。

だから自分もと、囮役を買って出てくれた。


ミッシェルに防御のための鎧を着せたら動けなくなってしまったので

保護しているのは頭とお尻だけ。だから体はミミズと変わらない。

今も怖がって、頭を隠して尻尾(?)の部分を振っている。


だからこそ真面目な二人は今日の為に練習を続けた。

それは砂漠が、表層の砂を残して土に変わるまで続けられた。


キナコたちの特訓に他のポーちゃん達も賛同。

ポー達で合体して巨大化する技も習得し、脅かし役はバッチリと思っていたら、

立ち塞がったキナコが、投石機の岩をぶつけられてしまった。


岩はいずれ体に取り込まれるけど、流石に大きすぎたのだろう。

泣きそうな顔をして、お腹を抱えて膝をついたと思ったら……吐いてしまった。

しかも、この臭いって……


「…液肥ですね」とアロレーラ。

「やっぱりそうだよね!肥やしスライムと同じ臭いだもんね!」

牧歌的で素敵な、牛さんのいる厩舎みたいな臭いがしてる。


「砂漠もサバンナ化してきたし、いよいよ緑化しちゃうかな?」

「液肥を撒いてしまった所は、すでに草が生えていませんか?」

「砂漠の教会の子達に織物を覚えてもらっているから

牧草地を造って、羊の飼育から織物製造まで一連で行える産業に出来ないかなー…と

………タワシさん何してるの?」


タワシは肩に乗り、頭の上の針で小さな音を立てている。

そして背中のクリップボードの上には、音妖精のネックレス型翻訳機。


「まさか、ジャンにモールス送ってるの⁈」

「ジャン様からは戦況報告と、

魔王様の思い付きを、つぶさに送るようにと申しつかっております」


「そこまでするなら魔王代わってよ~!」

「ご冗談を、と鼻で笑われていらしたではないですか」

「あーーー……」


「おい!あれはどうするのじゃ!」

女神が会話に割って入ってきた。



巨大キナコは四つん這いで、マーライオンのように液肥を吐きながら涙ぐんでいて、

ミッシェルが心配そうに、兜をかぶせた尻尾で背中をさすっている。


砂漠には液肥で水たまりが出来て虹までかかり、

人や馬、戦車が浮いている。


「酷いものじゃな。何じゃ、あの化け物は?」

「土の妖精ですよ」

「あんな不気味な妖精がおるか!」

「可愛いじゃないですか。」


女神は驚いて振り返ったが、誰一人表情を変えない。

あんな一生懸命なキナコが可愛くない訳がない。


女神はまだ何か言っているけど

包囲網は完了したし、キナコとミッシェルを撤退させなくては……

そう思った途端に、大注目作戦の第二弾が始まった。



叫ぶように鳴りだすホイッスル。ベルに太鼓にタンブリン。

演奏開始を合図に、全員が準備に動く。


状況が理解できない女神を置き去りに

これでもか!と、かさ増しした羽を背中と頭に装着する。


サンバなんて踊れないから、某歌劇団くらいに盛に盛った背負い羽。

手にはマラカスなど使えそうな楽器を持ち、大騒ぎで踊り狂う。

メインダンサーはトカゲのサンバ隊だ。


「な、なんじゃ、それは……」

「我が国の労働歌です」

「そんなワケあるか!」



この計画を立てた時、サンバ隊の衣装を知った鳥族が

「役に立ててほしい」と自らの羽を差し出した。


昔話の鶴のように細くなった彼等に

「砂漠からじゃ、あんまり見えないかも」とは、とてもじゃないが言えなかった。


男神の兵の反応は大部分が恐れるか、口を開けてポカーンとしている。

一応見えているようだけど、全員の注目を攫うには弱い。そして何より距離が遠い。

なのでここで『大魔王様』に登場していただく。


サンバのリズムに合わせて黒雲のように現れたのは、ジェニファーが必死に吐き出した化学繊維とグリップスライムで作った、巨大バルーン人形。

イベントの会場などで見かける空気で膨らみ、踊るように動くアレだ。


実際は風船の中にシルフが入って風を起こすのだけど

砂漠側から見たら、外輪山から巨人が現れたように見えるはず。


実際、男神軍の兵達も叫び声を上げて混乱しているし、

その間にキナコとミッシェルは、砂の中に回収できたし作戦通り。


そして更に恐怖を煽るために、意識のある兵士が

ひとり、またひとりと叫ぶ間もなく砂に引きずり込まれるのだ。


想定以上に順調に運び、ついニヤニヤしていると、アロレーラが慌てた声を上げた。

「ま、魔王様!」

「なに、アロレーラ?上?」


見上げるとバルーン人形は、空気が入り過ぎてデザインが変わる程パンパンだ!


「ちょっ!シルフ、やり過ぎ!空気減らして!」叫んだが、遅かった。


ボンッ!とお尻の辺りが爆発したバルーン人形は

そのままお辞儀をするように、砂漠に向かい落下する。


飛ばされそうな気流が起こり、それぞれ近くに居た者を捕まえて耐えたが

羽飾りは大半が飛ばされてしまった。


そして爆発音を合図に、ドアーフが仕掛けた床が落とされた。



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