第87話積み上げてきた幸福

お昼はお願いしていたトノのお屋敷へ。

和食のテーマパークも作りたいけど、

肉に齧りついて歌って踊るのが大好きな国民性なので

チビチビ飲むのは、ちょっと違うらしい。


でもチビチビ飲むのがオツなのよ。

なのに何でもう出来上がっているのかな?


酒蔵にいると思っていた、ガット・アロレーラ・ガルムルの三名は

既にトノのお屋敷で宴会をしていた。


ガルムルは通常運転だけど、ガットまで飲んでしまったか……。

ガットの前にあるのはサルナシ酒。

難民問題でイライラが募っていたので、獣人村に製造をお願いしたものだ。

サルナシはマタタビ科の野生のキウイで、とても美味しい果実酒が出来るのだ。


ガルムルはひたすらご機嫌。

アロレーラは一人反省会をしていたけど、

かなり眠そうだったので、撫でてやったら膝で寝た。


お酒の酔い方は性格が出るって聞くけど、なんでガットはクドさが倍になってるの?

前にサルナシ酒を渡したときは楽しそうだったのに……。


テーブルの上には日本酒、焼酎、泡盛、ワイン、そしてサルナシ酒。

ちゃんぽんかっ‼



「魔グロ旨っ!」ハルトが叫ぶ。

そうだねー、ご飯が美味しいのが一番だよ。


「刺身で食べて大丈夫なのか?」

「今朝獲れた魔グロを川辺の加工場で捌いて、チルドで運んでるから大丈夫」

「チートで無双にも程があるだろ」

「食糧事情はそうかも知れないけど、チートは全て国民の技術だよ」

でも確かに砂漠の真ん中で、刺身を出されたら疑ってかかるよね。


「メシに極振りしたから軍事力がマイナスになったのか?」

「神くんと違って、戦う気がないからね」

「さっきの奴らは戦う気だったぞ」

「……………。」



ジャンからの情報や村々を見た感じでは

この世界の人族の暮らしは、前世の中世に相当すると思われる。


自分達を虐げてきた人族よりも豊かな暮らし、そして今までより格段に文化的な生活

すると錯覚してしまうのだ、自分達の方が優れているのではないか…と。


人族よりはるかにバリエーションに富んだ魔族は、その分マルチではない。


だが瞬発力はフェンリル族、パワーはサイクロプス族、技術はドアーフ族

スタミナはトカゲ族、手先の器用さはミミッポさん、魔法や研究はエルフ族。


魚人族はスピードもパワーもあるけど個人差がありすぎて、国内的にはお笑い担当になっているけど、だからこそ個性を重視すべき民族だ。


誰もが同じである必要はないし、

欠けているからこそ、それを補う誰かが必要で、だからこそ協調するのだ。


だが意見に同調できない事もあるだろう。

だからお互い拳を振り上げ、そして落とし所を探るのだ。

その拳は殴り合いをするものではなく、最終的に握手を交わすものになる。

協調する者同士はそう考える。


だが男神はその拳を殴る事に使い、結果として私は殴り返した。


どうしても戦争ごっこをしたいようだが、それは男神の我儘だ。

やりたきゃひとりでやればいい。巻き込まれた側は迷惑でしかない。


ただ巻き込んでおいてなお、これはゲームとのたまうならば

ぶん殴ってでも解らせるしかない。


しかしそれでは不毛な戦争の歴史そのものでしかないのだ………。


私は知ってる事しか出来ない。

魔族国の建物だって、見た事があるものばかりだし、

食べ物だって似たように再現しただけだから、味付けは日本人向けだ。

法律も何もかも知っている範囲で、その全てが先人の知恵だ。


その先人ですら解決できていないと言うのに

果たして争いを止める事は出来るのだろうか?



箸が止まってしまった私に閣下が言う。

「あとは神くんを信じるしかないな。あの子はハルトの友達だぞ」


「…………一度だけ会ったけど、見事に喧嘩腰だったね」

「それ、子供相手に喧嘩売っただろ?」

「…………………。」

「まずはソコからだなー…これ酒盗か?」


「鰹節の副産物」

「無駄がねーな。でもこの酒、飲み覚えがあるんだけど?」

「ガルムルが見つけたんだけどね、酒への愛は次元を超えるらしいよ」

「解る気がする」

「解っちゃうんだー………」


家族や友人と美味しいご飯を食べられたら、それだけで幸せだと思うんだけどね。

どうして無駄に複雑になっちゃうんだろう……



酔っ払いのお世話をトノにお願いして、先に四人で中央に帰る事になった。

色々なお酒が飲めるこの場所は、リピーターが多くいて

酔っぱらって泊まりになる人も少なくないから、日本庭園付きの民宿に改装予定。

すっかり終わって落ち着いたら、泊まりで来ようと思っている。


女将さん役をお願いしているアカハラちゃんは、着物にも慣れて堂々としてきた。

酔っ払いの扱いにも慣れたもので、三人は法被姿のオオサンショウウオさんに担がれて運ばれていった。



船に乗り、中央の施設も見せて回り、最後に向かったのが我が家。

魔王の館の一角だ。


「ほんとだ、ほぼ家だ」

見覚えがあるようなソファーにテーブル。

間取りは少し違うけど、雰囲気は前世の家のまま。


「魔王城でも作れば良かったのに」

「入れ物がいくら立派でも、中身が伴わなければ、ただの持ち腐れでしょ?

身の丈に合わない物を持つくらいなら、還元すべきところは幾らでもあるじゃない」


「魔王様の仰る質素倹約とやらは、貧乏くさいと有名でございます」

相変わらずタワシが辛辣。


「タワシも今日はご苦労様。もう休んでいいよ」と言うと

「それでは失礼します」と背中にファイルを何段も積んだ状態でフードから出てきた


ガットの小言に続き、明日はジャンに怒られるのだろうか………



その夜は久しぶりに川の字で眠った。

考える事はたくさんあるのに、北極ダックの布団に包まれるとすぐに眠りに落ちた。


今までの事が長い夢オチ。そんな気分にさえなった。

星の綺麗な静かな夜だった。











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