第84話ブラックドラゴンカイザー

白い砂漠を滑るように走る黒雲。

その名もブラックドラゴンカイザー!って作った本人が飽きてゲームしてるよ。


よく分からない世界で、西の王に転生した俺は

人類の敵、魔王を倒すため、神くんと乗り物を作った。


ベースになったのは神くんの友達、北の王の乗り物のレッドドラゴン。


この時点で、神くんと北の王が遊んでいる間に、

平和協定を結ぶしかない気がするのだが

残念ながら、西の国が差し出せるものは不毛な大地しかなかった。


世界の四分の一で満足してくれる魔王なら良いのだが……



ブラックドラゴンカイザーはすこぶる優秀で、冷暖房トイレバスつき、

寝心地のいいベッドに、テレビゲームまで揃っていて

『魔王はいいからここに住もうぜ』と言いたくなる仕様だが

無情にも魔王の国に向かっているらしい。


神くんは攻め込む気満々で、ドラゴンの背にあらゆる武器を積んでいるが

それが余計にポケ〇ンぽさを際立たせている。


そしてこの武器が重い。

明らかに設置型。持ち運ぶ想定をしてないやつ。


せっかくのパワーだが、それを台無しにする過積載で

ブラックドラゴンカイザーは砂に沈みながら進む始末だった。



完全自動運転のブラックドラゴンカイザーが果敢に砂をかく姿は

非効率過ぎて可哀想にも思えるが、

友達の北の王の車に自動で向かうようにセットしてもらったら、

やる事が完全になくなった。


神くんもずっとゲームをしているが、俺もスマホを出してもらってゲーム三昧。

さすがに腰が痛くなってきた。


食事も不自由はないが、棚にはカップ〇-メンとカッ〇焼きそば、レトルトカレー。

冷蔵庫には炊いたご飯のストックとウインナー。冷凍ポテトに枝豆という

子供大好きメニューがあふれていた。


食材は他にもあったが、俺の料理スキルではあまりにレパートリーがない。

そろそろ別の物が食いたい。



景色もずっと変わらない。

青い空、白い砂漠、その間を走る黒いブラックドラゴンカイザー。


やっぱりこれ夢なんじゃないかな……

そう思い始めたころに、様子は変わりだした。


遠くに山が見えた。初めての変化。

『あの山の名前は何だろう』と地図を見ると、その先にあるのは魔族国。


えっ!いきなり敵地?

でも北の王の車も、そこにあるみたいだ。


「………神くん」

「腹減らないから、メシいらない」

「いや、そうじゃなくて神くん」

「同じもの食うの飽きたんだよー」

「だからメシじゃなくて、アレ!」

「あ?」


目の前には垂直にそそり立つ壁と山。

壁の周りは巨木が生えて、それを取り囲むように木々が茂っている。


椰子の木もあるし、砂漠のオアシスってやつだろうか?

でもこれは、どう見ても魔族国の方が豊かだぞ。


この時点で交渉は難しそうだ。

地下資源でもない限り、西の国には交渉材料がない。


「なんだアレ?」

「地図で見る限り魔族国みたいだな。

そして北の王のレッドドラゴンはあの国にありそうだ」


「なんだよ!捕まったのかよ?このまま攻め込むぞ!」

そう言いながらもゲームを止めない神くん。


「同盟を結んだ可能性は?」

「相手は悪の魔王だぞ!なんでそんな事すんだよ!」


「南以外はみんな西の国みたいに滅ぼされてるんだろ?

魔族国の方が豊かそうじゃないか?」


「あそこは砂漠で……あーーー!」

やっと神くんのゲームが終わった。


「なんだよ。クソッ!で勝てるのか?」

助手席にやってきた神くんはイライラしながら言った。


「それはゲームの話か?」

「魔王を倒すんだろ!」

「冗談はやめてくれ。国力が違いすぎる」


「だって魔王の戦力は……」

「魔王の戦闘力は五十三万だ!」

「はっ?」

「少なくとも更地のウチとじゃ話にならない」


神くんは全く納得いかない顔だった。

「だったら兵を出せばいい!武器だってなんでも……」

「どうしてそこまで争いたがるんだ?

ゲームを壊された恨みは解るが、仲良くしようとは思わないのか?」


「戦争で勝たないと、次のゲームが出来ねぇんだよ!」

「神くんにはゲームでもプレイヤーは死ぬんだよ」

「一度死んでんだろ!だったら……」


「それを北の王にも言えるのか?」

「……………………言える」

「ならプレイヤーが死んだ後、ひとりで楽しくゲームをしてくれ。

どのみち不死の君には付き合いきれない」


子供相手に言いすぎなのは分かっているが、

おそらく彼の周りには、諌める者が居なかったのだろう。

だがこのままでは、この子は一番大事なものを失う。


自分を落ち着かせて、静かに言う。

「間違ったなら誤ればいい。

少なくとも北の王はそういうヤツなんだろ?

彼が魔族国にいるなら、魔王も許してくれるヤツなんじゃないか?」


「捕まってるかもしれないだろ?」

「でも殺されてはいない。

ただの殺し合いをしようとする奴が食べ物を育てるはずがない」


「どこにあんだよ、食べ物なんて!」

「あそこの木はジュースが成る木だぞ。

しかもあんなに沢山。ひとり用じゃない、みんなで分けて飲む量だ。


北の王も魔王と仲良くなれると思ったから、

魔王の国に遊びに行ったんじゃないのか?」


「そんな事…」

「とりあえず仲直りの方法を考えよう。俺も一緒に謝るから……」

その時フロントガラスに影が映った。



「……………神くん逃げられるか?」

「えっ⁉」

「今すぐ謝るか、逃げるか決めてくれ。囲まれてる‼」


言い終わると同時にブラックドラゴンカイザーの扉が音を立てて外れた。

そしてフロントガラスの前には甲冑を着た等身大の蜂。

運転席の背もたれや足元には蟻の大群がいた。


魔王はまさかの虫系なのか?

俺はゆっくりブレーキを踏み、両手を上げた。





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