第81話砂漠の教会
目を開けると梁が並んだ天井が見えた。
腰壁付の白い壁。
明らかに見た事のない場所だった。
ベッドから飛び起きて部屋を出ると、廊下の先には階段。
二階がある家なんて、領主の家しか知らない。
廊下を走り階段を駆け下り、目に付いた木の扉を開けると、
そこには大人と、自分より大きい子供たちがいた。
「女神さまは⁈」
「あぁ、目が覚めたのですね」
「あなたは神様?女神さまはどこ?」
「これから食事になりますから、一緒にどうですか?その後でお話をしましょう」
長いテーブルには食事が乗り、席には子供たちが並ぶ。
促されるまま席に着くと、間もなくお皿が運ばれてきた。
パンとスープ。お肉まで入ったご馳走スープだ。
慌ててスプーンで掻き込もうとすると
「祈りましょう」
みんな食べずに手を合わせて、話を聞いている。
渋々スプーンを持った手を下げる。
なんですぐ食べないんだろう。
これなら隣の子のパンだって盗り放題だ。
最後に「いただきます」という不思議な言葉をみんなで言って食事が始まった。
スープは味がして、耳の下が痛くなるほど美味しかった。
よくこんな料理が我慢できるね。皿はあっという間に空になった。
「もっと食べますか?」
大人の言葉に、口の中の物を咀嚼しながら頷く。
大人は自分のパンを差し出したので、皿ごと奪い取り口に押し込む。
「飲んでから食べないと、つかえてしまいますよ」
何を言ってるんだろう?口に入れてしまえば、奪われる事もないではないか。
大人は静かに笑っている。
食べ物を奪われて笑っている人なんていない………いや、居ただろう…。
「お母さんは?」
大人は静かに笑っていた。
食事の後にキレイな部屋に連れて行かれた。
腰壁のついた白い壁には窓が並び、明るい光が射していた。
赤い敷物の両側には背もたれのあるベンチ。奥には大きな木の扉。
高い天井をぐるっと見上げて振り返ると、優しく微笑む女性の絵があった。
絵を見つめていると「女神様です」と大人は教えてくれた。
そして自分は神父だと名乗った。
神父様は女神様のお手伝いで、砂漠で迷った子供のお世話を頼まれていると言った。
一緒にご飯を食べた子達も、同じように砂漠から来たのだと言う。
お母さんの話を聞くと、たくさんの人達が女神様の所に働きに行っていて
そこで働けるようになったら、いずれ会えるだろうと言った。
確かにお母さんは領館で働いていた。
だからまた領館の工場で、布を織る仕事をしているんだろう。
女神様の話は聞いて知っていた。
住んでいた所と違う村にいた時、祈っている人が居たからだ。
そうすると女神様が助けてくれるって聞いた。
村へのご飯も女神様のお使いの精霊が運んできてくれているとも言っていた。
そしてお母さんは女神さまの所にいるって教えてもらった。
だから女神様がいる場所を目指した。
でも砂漠を歩いていたはずなのに、気が付くと出てきた村の森にいる。
同じことを言う子は他にもいた。
挑戦した大人もいたけど、みんな戻ってきて「砂漠しかなかった」と言った。
そして
「女神の国にたどり着けないのは『この地で身を立てよ』という神のご意思だ!」と言い始め、進んで働き始めた。
そのうち子供も働くように言われたけど、私は小さいからいいと言われた。
お母さんにも言われてたから、そういうものだと思った。
そうなると挑戦し放題だった。
「ご飯を貰い損ねるから止めた方がいい」と言う子もいたけど
不思議とお腹も減らないし、何だか服もキレイになる気がした。
でも、やっぱりあったじゃない。
女神さまの国じゃないけど、砂漠の教会が。
ここで働けばいつかお母さんに会えるし、ご飯も貰える。
精霊のご飯はパンはあったけどスープはなかったし、お肉だって食べられる。
お母さんと住んでた村でも、滅多に食べられなかったけど
今の村では大人が取っちゃうから食べたことがなかったもん。
その時、僅かに建物が揺れた気がした。
神父様と顔を見合わせると、次の瞬間、ドスンと突き上げられた。
神父様は
「ここに居るように」と言って大きな扉に向かったので、一緒について行った。
扉の向こうは広い中庭で、塀に囲まれていた。そして正面には門。
「ここに居なさい!」神父様は叫んだけど、扉をすり抜けた。
「レイチェル!」
走って門にぶつかったけど重くて開かない。
やがて追いついた神父様が寄りかかるけど、息が切れてて力が入らない。
やっと開いた隙間から、押し込むように顔を出すと
木々に囲まれた畑があり、遠くに砂漠が見えた。
そしてその砂漠から、ドスンという音と共に砂が吹き上がった。
目を凝らしていると、今度は門のすぐ近くで爆発が起きた。
「やっと捕まえた!なんでアタシの邪魔ばっかすんだよ!」そう叫びながら
ネズミを掴んで穴から出てきたのは、ハンマーを担いだお姉さんだった。
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