第80話伝説のダンジョンとドアーフの酒宴

中央から、東に抜ける支流に沿って飛ぶと

ドアーフ村との間の森に、木々に埋もれた丘がある。


この丘にあるトンネルが造船所。

船の組み立て自体はここで行っていたので、実はその奥が中央シェルターと繋がっていてメインの造船所が別にある事を知る者は、造船関係のドアーフとガルムルだけだ


トンネルの入り口には、ゲートのような鋼鉄製の造船用ガントリークレーン。

船をパーツごとに吊り上げるものだけど、空から動向を探られたくないので

木製に見えるサビ止めを塗って、見かけはトンネルの補強のようにしている。

動力はシルフが滑車を走って、チェーンを巻き上げるんだけどね。


見た目はシックだけど、金属は脱出船と同じもの。

脱出用の船が完成したので、今は避難用の直送船を増産してくれている。


こんなにアレコレ作ってしまうと、平和になったら燃え尽きるのではないかと

思う反面、平和を迎えるための準備なので手が抜けないのも事実。

こうなると平穏無事が、どれだけ貴重な事なのかと痛感するよ。


国を挙げて警戒しているようにも見えるけど

それは村長たちの意気込みが伝わってしまった結果で

国民のほとんどは詳細を知らないまま、新しい試みを面白がっている。


村長達が胃の痛い日々を送っているのかと思うと心が痛むけど

だから黙ってたんだよね………。



ドアーフの港を抜けて集落の後ろの山を目指す。

山の頂上を狙って斧でも振り下ろしたかのような、特徴的な形の山は

昔ガルムルのお爺さん達が、試し切りをした跡という話が残っているそうだ。


ガルムルは「そんな訳があるか!」と言っていたけど

その時代はかなりの名工揃いだったらしく、伝説級の自慢話として語り継がれている


そんなドアーフの歴史が詰まった山にある坑道が今回の目的地。

以前は穴が開いているだけだったけど………なんか厳つい門が出来てるよ…。


「あそこの門のある広場に降りてもらえる?」ラノドにお願いすると

「なんだか怖そうな所ですねぇ」との返事。

うん。私にもそう見える。ラノドは門から離れた広場の端に着地した。


……なに、この禍々しい感じ。誰の趣味?

絶対魔王がいるヤツだよね。近づきたくないわー……そう思っていたら、

「魔王様」と声をかけられた。


いつの間にか背後を囲むドアーフ達。この時点で『にげる』を選択したい。


あれっ?よく見たらリサイクル作戦の時のメンバーか!

良かった。ダンジョン制作に参加してくれたのね。


「おっ、来たか。さっそく入るか」

門の方からホクホクしたガルムルがやって来た。


「迎撃システムって聞いて来たんだけど、ダンジョンもう出来たの?」

「まぁ、見りゃわかる」とさっそく歩き出す。



岩山に突然現れた石造りのアーチ門は、苔むして数百年もそこに佇んでいた風体。

足元も苔が生えた石畳調で、かつて神殿を支えていたかような柱は

折れて残骸が転がる…


「いやー妖精に頼んだら苔まみれにされちまって、いい感じに剥がしてたとこだ」

やっぱり昨日作ったそうです。


階段を数段上がり、石の扉をガルムルが押すと、いかにも重そうな音がする。


「音からして雰囲気があるねー」

「音妖精を仕込んであるからな」

裏事情が見えすぎるのが、何とも………


「そういえば音妖精って、閉じ込められるのは嫌がらないの?」

「アイツら構われんのが好きなんだ。閉じ込められる云々より

仕事頼まれる方が嬉しいようだぜ」

「嫌がってないならいいんだけど…」


扉を開ききったガルムルは、振り返るとニヤリと笑った。

「まずはコイツだ!」

ガルムルが差し出したのは、ヒノキの棒。ついてきたドアーフもニヤニヤしている。


「最初の武器はコレだって、坊主が言ってたぜ」

うーん。ハルトが監修かー。

雰囲気のある廊下は薄暗い……だったら。


「チビメラー、この棒に火をつけて!」途端に松明のように燃え上がるヒノキの棒。


「あーーー!そういう使い方じゃねぇだろ!」

いいえ。絶対コレが正しい使い方。常々そう思っておりました。

こんな棒じゃ、水路に詰まったスライムを掻きだすくらいしか出来ないよ。


『ドアーフは頭を抱えている』

仕掛けが見えちまう!って言うから仕方なく火を消す。さて………


今度はヒノキの棒で床と壁を満遍なく叩く。

「あーーーーー!だからそういう使い方じゃねぇんだよぉ!」


いいえ。これは間違いなく正しい使い方です。

罠があると解っていて、飛び込む芸人根性は私にはない!


『ドアーフは悶絶している』


「罠にハマる姿が見たいんでしょ?」

そういうと、何ともバツの悪そうなドアーフ達。


「だったら、本職をお呼びしましょう!」




別室で迎撃システムの説明を受けていたら、彼等は来た。

「お呼びですか!」

「うん。来てくれてありがとう」

笑顔で迎えた相手は馬脚トリオ。

見るからにワクワクしている彼等と、ニヤニヤ悪い顔をしているドアーフが対照的だ


門の前まで移動すると、三人は落ち着きなく周りを見回し始めた。

「話は聞いたと思うけど、

開発中のダンジョンに挑戦してもらって、その感想を聞かせてほしいの。

あとはアイディアがあったら教えてほしいんだ」

「解りました!」彼等は自信満々で返事をした。


「じゃぁ、修行の成果を発揮してください!」

「はいっ!」

いいお返事だ。返事はいいんだよなー。返事は。


「じゃぁ、最初の武器だが……」とガルムルが言いかけたが

案の定、話も聞かずに雄叫びを上げながら走り出す三人。


そして50メートル先で落とし穴が発動。

職人芸としか思えないタイミングで、叫びながら穴に落ちる。

フェードアウトの声まで完璧だ!ドアーフ達は歓喜のハイタッチ。

とりあえず急いで落とし穴に向かう。


「これ、戻す時はどうすんの?」

「落ちたヤツが退けば、勝手に閉まる」


本当だ閉まり始めて………引っかかってるよ?誰の足?

ケンタ、お前だな

「ケンタァァァーーー‼」


穴に向かって叫んでいるのに、ドアーフは落ち着いたもので

「あー、もっとゆっくり閉めないと挟まるかー」

「重し増やすかぁ?」

いや。先に助けてあげて!


「魔王様が乗れば、蓋が開くから」と、どうしても落としたいガルムル。

仕方がない。お見せしましょう。


「あーーーーー。」

とっても棒な声をあげて穴に落ちると、続く爆笑。これで満足かっ⁉


落ちた先にはスライム。

飛び出すほどの弾力もなく沈み込む。うん、これなら安心。


「大丈夫だった?」

馬脚トリオに声をかけると、目をキラキラさせていた。


あー怪我もないし、懲りてないね。尻尾までブンブン振っている。

牛馬も嬉しいと振るの?フェンリル村で感化され過ぎじゃない?


「ガルムルー。早く降りてこないと

この子達、走って行っちゃうよー!」


その声を聞き、弾かれるように走り出す三馬鹿。


そしてやはり50メートル先で横から飛び出してきた壁に弾かれ、

反対側の壁にめり込んだ。

飛ばされた壁は、壁と同じ柄が描かれた布で、壁の中にはスライムが詰まっていた。


「何だぁ。もう二つ目にハマったのか?」

そう言いながら、落とし穴脇の梯子から降りてくるドアーフ達。

やっぱり迂回路あるじゃん!


「これスライムから抜け出すのに少し時間がかかるから、

入り口で時間調整して、グループごとに入った方がいいね」

ん…なんかゴソゴソいってると思ったら、タワシがメモをとっていた。仕事早いなー


「ほれ。お前ら、武器だって…あーーー」

声をかけるとまた走り出す三人。

「追いかけっこじゃないんだからさー」どうして最後まで話が聞けないかね。


「やっぱりその棒、いらないんじゃない?」

ガルムルはちょっと寂しそうだった。


その後も三馬鹿は、無事全トラップを発動させ内覧会は終わり、

お駄賃で1ベリルずつあげたら、喜んで食堂に向かって行った。



「怪我しないトラップっていったら、落とし穴くらいしかねぇんだよなー」

「じゃぁ、ぎりぎり死なないくらいのレベルだったら、どんなのが思いついた?」

それを聞いてニヤリとするドアーフ達。


異世界でお馴染みのドアーフさん達だが、妖精に括られる事もある存在。

結局イタズラ好きなのだ。

さぁ、楽しいイタズラ作戦を練りましょうか?


馬脚トリオの宣伝で、たちまちダンジョンは噂のアトラクションになった。

村に活気が戻れば、ドアーフ達もだらしない所は見せられませんよ!



その週末、ドアーフ村の酒場前。

オープンカフェにはたくさんの観光客が。

そしてバッカスの噴水の前にはお揃いの衣装を着たドアーフ達がいた。


白いシャツに、縁取りがついた黒のVネックコート。ボトムスもブーツも真っ黒だけど胸には銃の弾薬を思わせる銀色の装飾がついている。

そして篝火を焚いて踊るのは、ハンマーを振り回すドアーフ式のハカ。


力強い戦いの踊りを鑑賞しながら、飲むのはモチロン黒ビール。

顔より大きな渦巻きウインナーの肉汁をビールと一緒に流し込もう。


揚げパンにニンニクを擦り込んで牛肉のタルタルを乗せた洋風ユッケもお酒が進む。

定番のロールキャベツに、トロトロに煮込まれたビーフシチュー、

チキンのパプリカ煮込みにはサワークリームを添えて


豪快なブロック肉のステーキには、ナイフが刺さって運ばれて来るので、

小さくしても齧りついてもお好きにどうぞ。


いつも無口なドアーフ達も酒が入ると喋りだし、陽気な宴はいつまでも続く。


ドアーフのお酒のペースに巻き込まれ、

酔っぱらった観光客が次々と船に積み込まれて帰宅する。


さすがにそろそろ解散しないとザントマンに見つかる時間。

そうは言っても、のんべえ達は止まらない。


そしてドアーフ村の月曜日は

みんな揃ってオープンカフェで目を覚ますところから始まっちゃうのでした。


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