第79話臨戦態勢
情報過多でフラフラの幹部達と外に出ると、さっそく穴をふさいでもらった。
でも確認で入る事もあるかも知れないから
通路は庭師のネフィリムに、裏庭のオベリスクで塞いで隠してもらった。
このまま使わずに済むといいんだけど。
国民には有事の事はやんわりと、楽しく伝えてほしいと言ったのだけど
みんなして複雑な顔をしていた。
そして『やんわりと』ってお願いしたのに、
翌日から魔族国民は、アグレッシブ集団と化してしまった。
カマキリ拳は聞いたことがある。
でもトカゲ式とかウルフ型とか、訳の分からない格闘技が発生。
「古式武術って、昨日から始めたのよね?」って、突っ込みたくなるものまであった
それに誰?バンジーは成人の儀式って教えたの!
紐をつけて飛ぶの!着水の美しさとかいらないの!
逆にサイクロプスは水柱をあげることに命かけてるし。
ジップラインは楽しいアクティビティ。途中で飛び降りない!
アクロバティックルーティンって凄いな。
えーと、半魚人達はウラシマさんの避難訓練?
それで筏に乗せたウラシマさんを引きずって砂浜駆けてるの?ウラシマさんも嬉しい
ならOK。怪我のないようにね。
それから魔獣召喚の希望が多数届けられた。
でもね、みんな国民の誰かと似てるのよ!間違いなく事故るから却下‼
厳つくとも可愛らしかった国民は、どことなく劇画調になってしまった。
おかしい。こんなハズでは……
「失礼いたします」と窓辺で伝令ネズミの話を聞いていたタワシが机に登ってきた。
そして目の前に書類を並べながら、ツラツラと話しだす。
「各地から、要請書が届いております。
エルフ村から、殺傷力の高い弓の開発依頼。
獣人村から、筋力増強剤の要望。
魚人村から、ウラシマ様並みのバーベル製造依頼。
トカゲ村から要望を受けたトノ様より、泡盛の増産確認。
サイクロプス村から、アオダモのバットの製造許可依頼。
フェンリル村から、トレーニングジムの建設要望書。
鳥族から、雪崩使用許可書。
ドアーフ村から、迎撃システムの草案が届いております」
椅子に反り返り、天を仰いで溜息をつく。
「一気に軍事色が強くなっちゃったね……」
「魔王様が、敵軍に強力な武器がある可能性を示してしまいましたからね。
ですが、本当にあるのでしょうか?」
「今はなくても男神ならすぐ作れる。制圧が難しいと思ってからでも、多分ね」
各村とのやり取りをスムーズにするため、ジャンの紹介で伝令係が配備された。
色別の羽付き帽子をかぶったネズミ達は、郵便バックを斜めがけにしている。
何故か鳥族のお使いだけが、頭巾に風呂敷の忍者スタイルなのは突っ込むべきだろうか?
目の前には大きめの付箋サイズの書類。
ドアーフには字が小さいと不評だけど、伝令ネズミは使い勝手が良いらしい。
メモにガラスペンで返事を書き込みはじめると、
ネズミ達は一斉にサイドテーブルに整列した。
「エルフ村の弓と魚人のバーベルは、ドアーフに依頼します。
それぞれにその旨を伝えて。
獣人の筋力増強剤。そんな物はないのでタンパク質強化チクワを届けます。
このメモを料理研究所に渡して。
泡盛はOK。トノにはこのメモを。
トカゲには火を吹けるのは、麺がすすれる者だけって注意喚起をお願い。
サイクロプスは野球チームを作りたいのかな?許可のメモと詳細を聞いてきて。
フェンリルはどんなトレーニングをする気なのか、
具体案があるなら説明できる子を来させて。
鳥族の雪崩使用許可………何がしたいんだろうね。
ジャックに雪崩が麓まで行かないように防護壁を作成してもらってから、
必ず全員生還させることを条件に許可します。メモをお願い。
ドアーフに弓とバーベルの製作依頼、あと迎撃システムとやらを見てきます。
タワシ!メモ書いて貼っといて!」
「掲示後、同行します!」
言いながら、すでに壁のメモボードにシャカシャカ走るタワシ。
伝令ネズミ達もメモを受け取り、鞄にしまうと一斉に走り出す。
ネズミ達は本当に仕事が早い。
社員教育のノウハウをジャンに教えてもらおう。
執務室の窓辺にはツルアジサイが誘引され、小さなテラスが作られている。
ネズミ達の帽子の色を見て、誘導係のシルフが合図を送ると
湖面に面したテラスから同じ色のスカーフをつけたハクトウワシが浮上し、
伝令ネズミを乗せて、村へ帰っていく。
伝令係の移動手段になってくれる者を募集したら、
意外にも紹介も含めて、大型の鳥の希望者が多数集まった。
先日レンジャー隊から突き出されたフクロウの話では、
魔族と魔族ではない小動物の見分け方が難しくて、食事に困っていたそうだ。
そしてバーリンが紹介したい者がいると連れてきたのが、ペリカンとミサゴ、
カワセミ、ウミネコ、ダチョウとフラミンゴ多数。
「バーリン……この子達は?」
「食べられる魚が見分けられなくて困ってただに」
バーリンの話では瘦せこけたペリカンを保護して、魚を食べさせていたら
口コミで鳥が集まってしまったそうなのだけど、困ったと言う割には
神社で鳩に囲まれる、鳥まみれおじさん状態だった。
そしてもう一名、キュクロは巨大なコンドルみたいのを抱えていた。
毛糸の帽子をかぶっている所を見ると、こちらも相当慣れている。
まるでこっそり飼っていた子猫を見つけられてしまったような顔だけど
サイクロプスとコンドルって、見つからない筈がない組み合わせだからね⁉
つるんとした顔の襟元にファーみたいな白い毛がついているから
もしかしてハゲワシ?寒そうだから帽子をかぶせたのかな?
「えーと、キュクロも同じような理由」
「あぁ…」
お願いだから喋ろうよ!怒ってるワケじゃないんだからさ!
ネズミの伝令さんが小鳥に乗るみたいな、ファンタジーを思い浮かべていたけど
この国はことごとく夢を見させてくれない。
まぁファンタジーの住人になった時点で、幻想じゃなくなるからだろうけどね。
ちなみに小鳥に一番人気の職業はバグフィックスです。
でも飛べる子って募集したのに、目の前でダチョウがキラキラした目をしている。
「オレ走る」「オレ運ぶ」って飛び跳ねそうなほど、羽をワサワサさせている。
この落ち着きのなさ…配属はあそこしかないでしょう。
とりあえず立候補してきたフクロウとハクトウワシは、ドアーフ村とフェンリル村へ
獣人村がペリカン、サイクロプス村がハゲワシ、エルフ村がミサゴ、魚人村がウミネコ、そしてダチョウがトカゲ村に配属された。
カワセミはアロレーラがエルフ村との連絡役を頼みたいというので、アロレーラの
専属に。フラミンゴ達は魚人村のダンサーになった。
なお、お給料も出るし、食事は配属の村で用意する事を伝えると、
みんな心底喜んでいた。明らかに鳥族の食堂を整備しなかった弊害なので、
北山に野鳥食堂を整備し、食堂内では出された食事以外は食べないように固く禁じた
鳥達のサイズは大きかったけど、湖に面したラノド用のテラスが着地に丁度良く
各村にも似たような離着陸場が整備された。
搬送部隊の誘導を楽しんでくれていたシルフ達には、
飛行機誘導のグランドハンドリングが使ってるようなオレンジの発光キノコと、
ヒカリゴケの生えた反射ベストをプレゼントした。
魔王の館の一階は湖を臨む浴場と、趣味の実験室。
コンサバトリーの入り口、そしてテラスへの出入り口がある。
テラス前はガラス張りで、離陸待ちの鳥達が待機しているのが見えた。
ちょうど一際派手な鳥が離陸したところだった。向かう先は北山のご神木。
カルラ天の従者だからカラスに乗るのかと思ったら、やって来たのは雄のキジ。
鳥族からの選出なので構わないけど、何と言うか鳥族は独自色が強いな……。
鞍を抱えてテラスに出ると、首から下げていた笛を取り出し森に向かって吹く。
すると間もなくラノドが現れた。
「お呼びですかぁ?」そう言いながらルーフと共に降りてくる。
広いテラスとはいえ、大型の鳥にラノドまで加われば手狭になるが
シルフ達の誘導のお陰で、輸送部隊の垂直移動は意外なほどにスムーズだ。
「ドアーフ村に行きたいんだけど、まずは鞍を乗せさせてね」
輸送部隊の鳥達にも、首に鞍がついている。
乗せるのがネズミなので鐙はなくチョーカーにバケットシートが付いたような形を
していて、鳥達への餞別とばかりにバーリンが一気に作り上げた。
最近、夜八時に仮眠して、ザントマンの襲撃をかわす職人たちが増えてきた。
有難いけど、困ったものだ…。
ちなみにダチョウのコクピットは、
ラグビー選手のようなヘッドギアの上についている。
鐙を下ろしているとタワシが走って来た。
「おまたせしました!」
「大丈夫。ピッタリだよ」
丁度、最後の鳥が飛んで行ったところだ。
コートの袖を引っ張って床に近づけると、腕を駆けあがってフードに収まる。
そしてそのままラノドに跨る。「じゃぁ、ルーフお願い」
垂直に上昇したラノドは、湖を旋回して一路ドアーフ村へ向かった。
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