第78話最新鋭ピーナッツ

シェルターは実は中央広場の下にある。

だから気づかないのも無理はない。


今回はキラメラに開けてもらったけど、直接つながってるのは

世界樹様の足元の泉しかなく、通れるのは魚人くらいだからだ。


シェルターに国民全部を収容するなら

魔王の館の前にある湖の底を、鏡割りのように割るしかない。


「こんなもの、いつの間に…」ジャンが肩の上で呟く。

「最初からだよ。地殻変動で丘を作った時の副産物だから」


「最初から……。

そんな前から逃げ出す想定をされていたのですか?」


「驚かせちゃうから言わなかったけど、私の前世には

世界を壊して生き物が住めない環境にしちゃうほどの武器があってね、

それを使われたら逃げるしかないんだよ」


「そんなもの逃げようがないではないですか!

しかも使った側にだって影響が無い訳ないでしょう?」


「私もそう思うんだけど、お互いにそんな武器を持って

撃つぞーって睨み合ってる世界だったの」

「魔王様の世界なら、美味しいものが溢れた平和な世界かと思っておりました」


「私の所は平和だったよ。少なくとも生命を脅かされる環境からは遠かった。

世界はずっと広くて複雑で、人々はそれぞれの場所でそれぞれの平穏を楽しんでいたそんな人がほとんどだったんだよ」


「ならそんな武器は必要ないでしょう?」

「例えば食べ物が無い場合、食べられる物を探すよね。

それが他の国にあったら奪おうと考える人はいるよね」


「それが砂漠をうろつく難民ニャのだろう?災いの種、そのものではニャいか」

ガットは隣を歩きながら不機嫌そうだ。


「そもそも食べ物があれば、そんな争いは起きないんだよ。

人族の村だって余る程食べ物を与えたら、争わなくなったじゃない」


「その結果、彼奴等は働かニャくニャったぞ」

「それは魔族国のように作物が育たない事が大きいと思う。

本来なら直接教えるべきなんだろうけど、この世界は差別と偏見が強いから、

こっそりやるしかない」

「スカーレットは見咎められたではニャいか!」


「だから地下から土壌改良する。モ組には、さっき通達した」


「魔王様…ホウレンソウをご存じですか?」

「実は今朝、植物から、人族の土地が栄養不足過ぎて枯れそうだって

救助要請が出ている話をシルフから聞いたばかりなんだよ」

額に手をやりジャンは天を仰いでしまった。


ジャンの言いたいことも分かる。私も以前はそっちの立場だったから。

でも立場が変わると即断即決しなきゃ間に合わないって事にも気づかされたよ。

私、白黒つけるの向いてないんだけどなー……



シェルターは筒状に開いた空間で、

中央には世界樹様の根が、天井から床の更に下まで伸びている。

根は地下水を吸い上げ、まるで逆再生をしているかのように水が根を伝い登る。


これはエルフが井戸を掘る時に使っていた魔法。

一度術式を組み込めば水を吸い上げ続けてくれるため、各村に作った井戸も

これに近い形をしている。


水資源が気になったけど、巨大アクアリウム状態の魔族国は、雨も降れば雪も降る。

北山を作って以降、地下水の量が増えたくらいなので、上手く循環出来ているようだ

南の村も問題なく、十分に井戸水を使えている筈なのだが、

そうなると土地が劣化した原因は他にありそうだ…。後はモ組の報告を待つしかない


世界樹様の根はホールの中央部分だけではなく、空間を包み込むように伸びていて、広間を支えてくれている。

天井部分には星空のようなヒカリゴケ、そして至る所で発光キノコが光っている。

ドーム内はほの暗いが、足元にも発光する菌糸類が生えているので、特に不便はない


太い木の根は螺旋状に底までつながっていて、根がはびこる壁にはいくつもの部屋があり、雑魚寝に近いが休めるようになっている。


空間の底には炊き出し用のキッチン。

中央広場で最初に使っていた炊き出し道具が並ぶ。巨大冷蔵室と保存食用の部屋もあり、短期間ならここで暮らすことも可能。

海から直接アクセス可能で、地中に張り巡らされた水路を通れば魚人族は直通だ。



そして広間の底のカマボコ状のトンネルの脇に造船場はあった。

国内の船は全てここで作られ、ドアーフ村の造船場で組み立てられた。

だが脱出の際は、この避難所からの出航となるため、人目に触れる事もなく

あとは着水を待つのみだ。


デザインはカプセル型水上バス。

なるべく頑丈にするため、ドラゴン号を解析。

国内の材料で再現できる限りを尽くしました。キラメラが!


浮力と頑丈さは、安心のドアーフ印。

最新鋭の箱舟は、オーバーテクノロジーの粋を集めた。


「立派なピーナツずら…」

「…………。」

バーキンに悪気はない。すべては私の画力のなさ故です。


確かに似せたのは形だけなので、動力なんて欠片もない。ただ小綺麗なピーナッツ。

オーバーテクノロジは軽くて頑丈に極振りした。


これを高速魚人と妖精で押す。

イメージは高圧洗浄機の水圧で進むウォータースライダー。


船内の真ん中はサイクロプスが立てる高さだけど、両サイドはカプセルホテル?

いや、どうみても蜂の巣です。働き蜂さんに知恵をお借りしました。

最低限のスペースなので、ワイルド獣人でピッタリ。子供となら二人で入れそう。

食糧庫に簡易トイレつき。水回りも狭いけど確保。

乗り込み口付近には、蓋つきの生け簀と、超大型さんのスペース。

天井付近には小柄さんのスペースがある。

ウラシマさんをシェルターに下ろす時は、造船用のクレーンを使う。


シェルター内は世界樹様の新鮮な空気で満たされているけど、トンネル内はそうはいかない。だから船内はシルフが飛び回り、空気をかき混ぜてくれる事になっている。


明かりはチビメラ担当。他にも妖精はたくさんいるけど

世界樹様の元が自分達の国だと、足止め役を買って出てくれた。



思いつく限りを用意した。でも使わないに越した事はない。

女王国は地下の通路から脱出する事になっていて、足止めはハンニバル将軍だ。


避難直後は当面は地中に潜伏。

そちらの指揮はアント女王にお任せする手筈だ。

こちらも幹部もついて行くので、あとはマンパワー頼みになる。


そして残った者で、男神軍を迎える。

争い事は避けたいが、それは男神の腹積もり次第だろう。


男神の性格上、逃げる事は考えてないと思うから、

その分こちらは逃走経路を複数用意している。


勝利条件は人族の完全掌握か駆逐。

だが駆逐はしない。代わりに時間稼ぎをしながら、機を狙う想定はしている。

王を抑えても兵がいると屁理屈をこねられた場合、保護した村を数に入れる。


でもこれは彼のゲームである。

取り上げるような事をして、おとなしくなるだろうか?

想像しうる限りの準備はするけど、それでも災厄は想像を容易に乗り越える。


そんな日は永遠に来てほしくはないのだけど……。



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