第77話唐突カミングアウト
スカーレットを下げてから、主要メンバーに今後の方針を話す。
草案は伝えている通りなんだけど、そろそろ計画も大詰めになってきたからね。
大前提として、魔族国は戦わない。
それは自国も他国も被害者を出さないようにするため。
その為ならば、自国を捨てる事も辞さない。
侵攻を確認したら、国民は直送船を使い、速やかに中央に集結する。
移動に時間がかかる者は、村人で手分けをして運び出すので
それぞれに合ったトレーニングをしてもらう。
例えばウラシマさんは筏に乗る練習に努めてもらって、
避難の際は直送船に筏を引かせる。
中央シェルターは全員を収容でき次第塞ぐ。
時間を稼ぐ間、国民はシェルター内に建造した大型船に乗り込む。
ミサイルが確認され次第、もしくはシェルターに避難している全員が
船に乗り込み次第、出航。
魚人とアクアは泳ぎ、シルフは捕まって押す。
しんがりはビルにお願いする。
「あと避難に際しての、体力向上計画だけど……」
「すみません!」ジャンが手を挙げて立ち上がった。
「まっっったく初耳なのですが⁈」
「うん。ごめん。今言った」
ジャンが倒れるように椅子に沈み込む。他の人はポカンとしている。
心配そうにタワシがジャンに近づくが、それ以上近づくと……あっ、刺さった…。
「それぞれの村や部署にお願いしてる事があるでしょ。
あれって最終的に、同じところに繋がるのよ」
それを聞いて、みんなして顔を見合わせている。
「黙っていたのは不安を煽りたくなかったから。
あと神に情報を与えず、油断させるため」
この世界の神は、とかく興味が移りやすい。
新しいおもちゃを与えれば、思い出すまでこちらに興味も示さない。
恐らく、女神だけでなく、男神もだ。
国を整えた一番の理由は、国民生活を快適にして、国に愛着を持ってもらうため。
愛着があるものは守ろうとするし、あわよくば女神にも、そう思って欲しかった。
彼女はすぐ新しい娯楽に飛びつくが、自分から行動を起こすタイプではない。
作るより流行を生むタイプなのだ。
こういう人は大事。作り手はそれでモチベーションを上げるのだから。
そして神の世界には、今まで甘味と言えば果物くらいしかなかったようだ。
以前女神が飲んでいた、某ファーストフード店風の飲み物を
こっそり抜き取ってアロレーラに成分を調べてもらったら、
山羊のミルクに蜂蜜と氷を混ぜたものと判明。
どうやら幼い神の間で人間の文化を真似るのが流行っているらしい。
大人達には反対意見もあるらしく、
『未だに寝る時、暖炉の灰に埋められる』と女神自信がボヤいていた。
これがどういう事かお解りか?
甘味にハマった女神だが、女神は甘味を作れない。作れるのはこの国だけ。
技術も材料もこの国にしかない。
神たちは世界を俯瞰して見られるけど、食べ物などは取り出せない。
自分がその世界に降りて、食べるしかない。
少なくとも女神と男神はゲームと言う媒介を通してしか、前世の世界に関われないようだった。
つまり甘味女子から唯一の甘味を奪う。
この国に手を出すとは、そういう事。この時点で男神は死ぬ覚悟をするべきだ。
男の子の好きなメニューもたくさん開発したから
男神にも壊すのは惜しいと思って欲しいんだけどね。
最後は盛大な兄妹喧嘩で終わりそうな気がするけど、これは奥の手だ。
問題は癇癪を起した男神が世界を壊すつもりになった時。
空き箱を潰すようにグシャリとやられたら、もう為す術はない。
だけど男神は、なぜ戦争にこだわるのか?
女神はゲームに誘われて、始めたらしいけど、そもそもこのゲームは女神の趣味ではない。だからこそ早々に飽きているのだ。
考えられるのは、最初に決めた設定が変えられない。
男神はゲームをクリアしたら世界を与えると言った。
つまりクリアしなければ、ゲームの内容を変える事が出来ない。
次のゲームに進めないという事だ。
早いとこ終わらせて、新たなゲームを始めればいいのに……
あっ!終わらせていいって言われたのに、粘ったの私だわ。
今になって、男神がブチギレしてた理由が解った!
でも負けるのが嫌いな男神なら、負けが込むと盤面ごとひっくり返しかねない。
使う気はないけど、こちらは硫化水素でさえ使える。
だから前回のような歩兵であれば止める事は容易い。
問題はミサイルだ。
ドラゴン号にロケットランチャーがついているのだ、あると考えるべきだろう。
ミサイルの程度によるけど、魔族国で一番守備が弱いのは空。
女神の結界があるとはいえ、外輪山を破壊して侵入するよりはるかに脆い。
だからこそシェルターを作り、有事の際は蓋をする。
それでも防げないと思うからこその避難だ。
「いざという時、自力で逃げられるように
体力向上目的で修行経験者からトレーナーを選出してもらったけど、それは準備段階
今後はスポーツと銘打って、戦術にも使えるようなものを流行らせようと思ってるの
例えば格闘技。
フェンリル村とトカゲ村で特徴的な戦い方をする子はいない?
パンチが強いとか、蹴りが凄いとか、投げ技が出来るとか」
「戦術に詳しいのですか?」とイワオ。
「実は全然わからない」正直に答える。
「戦闘目的じゃなくて、あくまで身を守るために、むしろ心を鍛えてほしいんだ。
いざという時、自分は勿論、周りを助けられる余裕が出来るように。
一緒に逃げるって言っても、絶対逃げ遅れる人はいるし、
フォローが出来る人がたくさんいた方が良いから
そういう考え方がカッコいいって思ってもらうのが狙い」
これにカルラ天が大きく頷く。そして
「数名、当てがある」とルーヴ。
「では、こちらも」とイワオ。
「ドアーフはハンマーでしょ?」と聞くと
「率先してダンジョンに入れる」とガルムル。
「弓だけでなく剣で戦う者もいる!」とアロレーラ。それに頷き応じる。
「キュクロ、ハンマー投げの的当て。完成しそう?」
「ウチはあれか?」
「サイクロプスは性格が穏やかだから、ゲーム性の高い物が良いかと思って。
でも投擲の精度が上がれば、数少ない飛び道具になるから」
「……だったら魔法も…」
「アロレーラの気持ちも分かるけど、そこは回復用に取っておいて」
そう言うと、途端にパッと明るい顔になる。可愛いなぁ、年上だけど。
そんな中、モジモジしているバーキン。
「ミミッポさんは距離を取って戦う方が良さそうだから、
カルラ天の棒術はどう?指導者はいる?」
すると「心得た」とカルラ天も了承してくれた。
「魚人は半魚人がトカゲに近い戦い方が出来るんじゃないかな?」とビルに聞くと
「ダツもエイも、毒持ってるヤツもいるぜ」
「でも水中戦は考えずらいかなー…」と濁そうとしたら
「アイツら飛ぶぜ」
「!…飛ぶの⁉」
「それなら魔法も…」
「アロレーラは回復役!」魔法は便利だけど、燃費が悪すぎなんだってば!
「ウチはキャンベルの部隊でしょうか?」とジャン。
「キャンベルは別件を確実にお願い。アレはキモだから」
そういうと「かしこまりました」と胸に手を当ててお辞儀をした。
一同は「まだあるのか」という顔をした。
人族の侵攻から少し経ち、やっと気が紛れつつあるのに、あんまり軍事色を出したくないので、予定していたアクティビティも作る。
獣人村のヒマワリ迷路、トカゲ村の炭酸プールにスライダーと、近くの谷にバンジー
ドアーフ村の迷宮は炭鉱をリフォームして、サイクロプス村はジップラインを作る事になった。
そしてエルフ村には、ちょっとだけ賭け事要素のあるコロシアム。
ギャンブル性の高いものは作りたくなかったんだけど、
ドアーフ村のお爺さん達をどうにか引っ張り出せないかと考えた末だった。
でもお金はかけない。
かけるものは新商品のお酒。
ワインを作る際に搾った、葡萄の皮から作る蒸留酒、
グラッパがエルフの村で開発されたのだ。
「酒かっ!」
「はいはい、ガルムルさんお酒ですよー」
既に企画書も作成済。例によって絵だけど。
まず入場者はベリルを払い、木のカップを受け取ると、赤組と黒組を選んで席につく
赤と黒なのはベンチの花崗岩の色。
コロシアムには体のサイズに合わせた階段状の席があって
スタンドの後方にはワインと葡萄ジュースのドリンクバーがある。
選手は赤と黒に分かれていて、
競技ごとに勝ったチームの応援席におつまみ、もしくはグラッパが提供される。
ギャンブルと言うより、運動会になってしまうかもしれないけど
知り合いを応援したり、一喜一憂する楽しみ方をしてもらえたらと考えている。
「試しに村ごとにやってみたら、結構盛り上がったからイケると思うよ」
「駆けっこに、そんな意味があったズラ……」
「その絵はいつ?」ジャンはプルプルしている。
「昨日の夜描いた。いやー、構想は前からあったしさー」
「見せていただいても⁉」
スケッチブックは即座に、タワシからジャンへと手渡された。
私まだ許可してないんですけど……
「女王国の絵図まであるじゃないですか!」
「うん、それをキラメラに見せて外側作ってもらったからね。
でも芸術に昇華したのはド組だよー」
ジャンの後ろから覗き込んでいた、錚々たる面子がざわつく。
「これはどういう事ニャ」ガットが睨んでくる。
「魔王様よぉ、
例のシェルターも幹部が揃ってるうちに見せちまった方がいいんじゃねぇか?」
ガルムルが最もな事を言う。
「じゃぁ、それもお披露目しちゃいましょう」
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