第76話アウェイ
会議室には主だったメンバーが集められた。
Cの字の円卓の、穴の開いたところで腕を組む法王ガットは、
隣の丸いサイドテーブルの上で平伏する、ミノムシのスカーレットを見下ろしていた
平伏しろと言った訳ではない。だがガットの圧がそうさせるのだ。
周りも見守っているが、思うところもあるだろう。
キャンベル捜索隊が、南の王都の生き残りを捜し、南の農村に振り分けたが
当然食糧問題が起きた。
村には作物もあったが、生き残りの全員が農業経験者とは限らない。
そこで、女王からお借りした軍隊蟻に荷運びをお願いし、
スカーレットに部隊を任せ、シルフと共に食料運搬と見守りをお願いしたのだ。
村の周りに食料を置いてくるだけだし、
メンバーも木の葉を纏ったミノムシと蟻の組み合わせ。
シルフも村に詳しい子にお願いして、ザントマンまで同行していたんだけど……
「お前は、虹の精霊ニャんかではニャい」
原因はソレだった。
お洒落ぞろいの虫族は、捕食対象と間違われないように服装にこだわっていた。
ちょっと前に見たスカーレットも、赤地に黒のドット柄ワンピースで
「テントウムシみたいで可愛いねー」と声をかけたのを覚えている。
だが今のスカーレットは、フリフリレインボーなのだ。
一生懸命働いたら好きな服着て、好きな物を食べる。そんなご褒美が人生には必要。
だからこそ、うるさい事を言いたくなかったのも事実。
でもキャンベル達が、自らを迷彩柄に染めてまで、捜索にあたっているのを見ているのだから、スカーレットにも我慢をさせる必要があったのだ。
事実スカーレットは『虹の精霊』と人族に呼ばれ始めたのを知って、
虹色の服を着てしまったのだから……。
服を作成してしまったジェニファーも項垂れている。
よく喉を鳴らしているガットだけど、今日のは違う。まさに雷が落ちる寸前。
スカーレットはただでさえ小さい体を折り畳み、もはやセーターの毛玉のようだ。
でもだからと言って、物資輸送をを止める訳にはいかない。
人族はまだ自立には程遠い状態なのだ。
「だから人族ニャど、捨て置けと言ったのニャ!」
今度は私への言葉。だがこうなった原因は、人族を転送させた私にある。
「彼奴等は人以外の生き物を毛嫌う。
己こそが世界を統べるものと誤認しておるのニャ」
「だからこそ人族は今、飢饉に喘いているではないですか」
水が探し出せた事は大きいけど、砂漠の真ん中の魔族国で、豊かに作物が育つのは
妖精のお陰に他ならない。
人族の国は砂漠よりは余程豊かな土壌なので、普通に作物は育つ。
その事が感謝の気持ちを忘れさせたのかもしれない。
魔族と妖精が同じ括りであるのは、転送で判明した事実。
目の前で同族を使い潰されて、それでも人族に手を貸そうとする者などいない。
妖精は気まぐれだから、気に入った者には、魔族でも人でも手を貸すが
自分達や、自分が気に入った者を傷つける人には容赦しない。
決して殺しはしないが、死なない程度の仕返しをする。それが妖精だ。
魔族転送により、人族の土地から妖精はいなくなった。
これにより人族の土地は痩せ続けている。
随分先の話になるが、このままでは人族の土地はいずれ砂漠になるらしい。
それで魔族国に移住を希望する植物が増えているという話を、
今朝シルフから聞かされたばかりだ。
亡命希望者への返事は、ひとまず保留にさせてもらった。
そんな事をすれば、人族は更に困窮し、要らぬ火種を生みかねない。
代わりに救済を求める木々には、苗木を預かる事には了承した。
だが植えられる場所は国内には、ほぼ残ってないので、外輪山の外に植える事にした
試験的にバオバブとナツメヤシを植えたエリアなのだけど、
人族が砂漠をさまよいだした時点で整備をはじめている。
そう遠くない時期に難民は問題になるだろう。
だが誰彼構わず受け入れる訳にはいかない。
現に食料を配給しただけで、揉め事が起きているのだから。
「難民ニャど、もっての他ニャ!自ら災厄を招くつもりニャのか!」
「人は悪人ばかりではない。
それはアレクさんとエミリーが証明しているでしょう?」
だが悪人はいる。でもその差は人族だからではないはずだ。
環境の違いはあるだろうけど、それでも魔族は染まらなかった。
なぜ魔族は猜疑心を持たないのに、人はそうならないのか?
見た目が人に近い魔族も、人に近い考え方を持つ魔族もいる。
でも魔族国の場合、揉め事を起こしかけると
「まるで人みたいだ!」と言われてしまうから、必然的にブレーキがかかるのだ。
現在村はもちろん、砂漠まで出てくる人間には、個別に監視をつけている。
大抵は乾いてすぐ戻るが、中には倒れるまで北を目指す者もいる。
妄信的な者もいるが、顕著なのは子供。
親がいるかもしれないと捜しに来てしまうのだ。
その場合は体調を管理し、迷ったのだと誤認させて、出てきた森に返すのだが
元気になったからと、再度森を目指す子供は多い。
親を捜すのが最たる理由だが、そもそも村に居場所がないのだ。
保護対象と考えているのは主に、こういった子供達なのである。
当然子供達だけでは生活は出来ないので
妄信的な女神信者から良識ある人物を選出しようとしているが
どちらにせよ人族には自立してもらう。
魔族の手を借りずとも、自らそれは出来るはずだ。
何故ならそのシステムを考えたものこそが人だからだ。
足りない部分は工夫で補う。そんなものは魔族だって同じだ。
あーモヤモヤ考えてて脱線した。
ガットは毛を逆立てて怒りが収まりそうにないし、スカーレットは微動だにしない。
この話はここで打ち切ろう。
起こってしまった事より、問題はこの後どう対処するかだ。
おもむろに手を上げてまとめにかかる。
「判決は司法に任せます。
ですが物資輸送を辞める訳にはいきません。腹が減れば生き物は荒みます。
いらぬ禍根を作りたくもありませんし、そもそも原因は転送にあります。
先に手を出してきたのは人族ですが、こうなるとどちらが先かは関係ない。
問題は戦争をどう終結させるかです」
むしろ最大の問題は、王と男神の暴走だ。
兵の数ではなく、火力で勝負が決まる。
そうなれば被害者も加害者もなく、着弾地点にいる者が平等に命を落とすのだ。
結局スカーレットは処罰として、茶色い木の葉の服に戻された。
仕事も物資の発注などの裏方に配置換えとなったが
引き続き仕事には関わってもらう事になった。
物資を置く場所は決まっているので、
ザントマンに住民を眠らせてもらってから、軍隊蟻が配置。
シルフにも目立つ行動は控えてもらうよう通達した。
調査はキャンベル隊から人を回してもらい、深追いは厳禁とした。
自立を願い、あえて見守りに徹していた人族の村だけど
この時はまだ、巨大な不発弾が潜んでいる事に誰も気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます