第73話タワシ

侵攻に対し徹底防衛する。

そのうえで撤退となった時の為に、逃げられる体力を作る。


侵攻だの撤退だの言うと怖がらせちゃうからあくまでも楽しく体力作りに努める。

その為に、以前から上がっていた話を詰める。



運河の周りにランニングコースを作る話は、サイズ・スピードの違いから

事故が起こりかねないので中止。

代わりに各村にトレッキングコースを作る。

道は歩道とランニングコースに分け、体力のある者はトレイルランニングをする。


各村のコースをトレイルランニングで制覇した者には、

最近やたらと体力自慢が参加したがる、修験道場の挑戦権が与えられる。


あんまり修行色を強くすると、尻込みする者もいるから、

娯楽施設の建設も並行して行う。


その中で、ドアーフ村を拠点にダンジョンを作り、それを通して防衛トラップの開発につなげてもらう。手の空いているドアーフは積極的に雇用する。


運動指導員として、修行経験者を各村に派遣し、心身の健康に努める。


運動推奨時間は、午後四時から五時。そのため就業時間を一時間繰り上げる事とする


* * * * *


「各村から報告があがっております。

運動の習慣化のため、朝食前のラジオ体操が各地で実施されたそうです。

体操カードも今日中に作成、配布予定だそうです」


「ハンコも間に合うの?」

「牙細工師のゲチ様が、昨晩ザントマンに襲われたそうですが、

明日の朝までに間に合わせると言っているそうです」


「みんな働くねー」

「…………。」

返事してくれないんだ……。確かに発注かけたの、私ですけどね。



会議室の円卓で、クリップボードを読み上げながら報告してくれるのは、

ジャンが秘書として紹介してくれた、ハリネズミのタワシ。

普段はクリップボードを背中に背負い、耳元に小さな羽ペンをさしている。


「トレッキングの場所の選定は?誰か調べに行ってるの?」

「モ組の親方様から地図が届いております」


机の上に地図を広げると、全域のトレッキングコースと

新たに建設予定の施設の場所まで書き込んである。


「これド組には…?」

「もちろん了承済みで、製材も始まっているようです」


「話したの昨日だよ!みんなちゃんと寝てる?」

「……………………。」

そこで黙るし!



一応カルラ天のお社に移動中、ジャンにも

『有事の際に逃げ遅れの無いように、国民の体力の底上げを考えていて

カルラ天にスポーツトレーナーの派遣をお願いしようと思っている」と伝えておいた


だって国捨てて国民全員で逃げるとは言えないじゃない……言ったけど。

あれだな…お酒が入って、包み隠してた本音が転がり出ちゃったんだよな……。


だから遠回しに伝えようとしてたのに、話が長いってジャンが言ったんじゃない。


そうしたら、

「魔王様の意向を正確に知る必要があるかと」って秘書を斡旋してきたんだよ。

それがこのタワシ。


仕事は早い、字も書ける、見た目も可愛い。

なのに性格が塩……。


「魔王様に似たところもあるかと……」だって。

ハリネズミ……否定はしないけど、ジャンには私はこう見えているのか?


地図を掲示板になっている壁に貼ろうとしたら、すかさず針が飛んできた。


「そういう事する時は一声かけて!」

もう秘書じゃなくて、アサシンじゃん!


とはいえ仕事が早いのは有難い。

今は有事だし、頭の中の構想を吐き出して、みんなで考えた方が良い意見も出ると思う。でも神々に知られたくないんだよね。



昨日は爆弾発言をした後も、管を巻き続ける酔っ払いを放置して

ハルトとジャンの三人で中央に帰って来た。


するとすでに戻っていた女神は、獣人村のスイーツがとても気に入ったようで

非常にご機嫌だった。それは良い事なのだけど……

「兄神に自慢したい」と言ったのだ。


悪気がないのも解る。だが危険だ。

だから、独り占めしたくはないか?と唆し『新たなスイーツ開発』と銘打って

今朝、監視付きで獣人村に送り返したばかりだ。


ジェニファーにも急遽、フリフリエプロン付きのパティシエ衣装を発注した。

女神はしばらく中央と距離を置いた方がいいかもしれない。


そんな事もあって、アサシンもとい、秘書をつけられてしまったのだろうけどね。

タワシも来た事だし、やり方を変えないとな……


「ジャンにも報告するんだろうし、未公開資料見てみる?」

「えっ…それはどちらに?」

「私ん家」





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