第72話飲み会クライシス
フィールドアスレチックで、妖精に追いかけまわされているハルトを
登山口の救助係兼管理人の、ベルナールにお願いして、
竜族のバーンに運んでもらい、カルラ天のお住まいへ。
北山の杉の大木にあるカルラ天のお社では、囲炉裏の部屋に通された。
円座を初めて見たのか、アロレーラはどう座ろうかとモジモジしているけど
ガルムルの胡坐は様になるな。
そしてジャンは渦巻きの真ん中に正座。どこ行っても一番ちゃんとしてるよ、この子
お茶を運んで来たお鶴さんが退出してから、話を始める。
視察の後に作戦会議を予定していたのだ。
国が豊かになる一方、依然渦中にある魔族国は
やはり軍備を拡張せざるを得ない。
だがそれは戦うためではなく守るため。怨嗟の声は負のループを生むだけだ。
幸い魔族国民は以前とは変わってきた。
以前は虐げられることを当たり前と受け止め、侵攻を受けた際も為す術がなかった。
今は地元への愛着も生まれているので、同じようにはならないだろうけど
痛みを知る者は他人を傷つけられない。
容易に他人を傷つける者は、その痛みを理解しないからこそ加害者なのだ。
ただそれを当たり前とした社会形態があり、疑う事をしなければ物事の常識は変わる
魔族国入りした人族からも、話を聞いたが
『平和に暮らしたい、出来ればもう少し豊かになりたい』と考える人族がほとんどで
魔族を拉致していたのは奴隷売買で利権を得ている一部の者だけだった。
そして人族の常識では、奴隷は消耗品で使役することが悪い事だという考えはない。
だがこれは何も人族だけの話ではない。
声なき声は届かない。だからせめて声をあげてほしい。
たまたま魔族国には通訳ができるシルフがいたけど、それでも取りこぼしがないとは言えない。
正直、逃げる昆布は本当に食べていいのか心配になる。
すっごくいい出汁でるんだけどね。
なんで真面目な話をしてるのに、急に昆布を思い出しちゃったかって言うとね…
カルラ天が「お茶のおかわりより…」ってお酒出しちゃったのよ!
「人が真面目に話してるのに宴会すんな!」
「話が長すぎるんですよ」
「ちょっとジャンまで飲んでるの?」
「視察はここで最後ですし、お付き合いも必要でしょう?」
確かにそうかもしれないけどさ……
ジャンは自分よりも大きな徳利を持ち上げようとして
お酒を注ごうとしていたカルラ天に、逆にお酒をつがれていた。
そしてご満悦のカルラ天。
どうやら酒盗が気に入ったらしい。喜んでいただけて何よりです。
そして酒と言えば……
振り返ると手酌のガルムル。なぜおかわりで、一升瓶が出てくるのかな?
アロレーラも手酌スタイルで、いい飲みっぷり。
目の前には足つきのお膳。小鉢からは温かな湯気がのぼっている。
「あーーー、煮物が美味すぎる」そして、つい杯を持ち上げてしまった。
……煮物も食べたし話を戻そう。もう飲みながらでいいからさ。
ガルムルなんて湯吞茶碗で飲んでいる。どんだけ飲む気だよ。
そうは言いつつ、私も飲んでしまったので気持ちよくなる前に話終えてしまおう。
「前提として魔族国は戦わない。だが防衛はする。
それは自国にも他国にも犠牲者を出させないため。
侵攻の確認を認め次第、国民は直ちに中央に移動。
防衛体制をとり、防ぎきれないと判断した場合、時間を稼ぎつつ
速やかに国を脱出する」
飲んでいた一同は急にハッとした顔をして、一斉にブーイング。
要点だけ話せって、みんなが言ったんじゃない。
あー、もう酔っ払いはうるさい!私は酔ってなーい!
戦わないってそういう事なの!
これだけの事をなせたメンバーなら。生きてさえいれば、いくらでもやり直せる。
次はもっと凄いものが出来る!
でもそれは最後の手段。
私だってこんな素敵な国をタダで渡すつもりはない!
だけど物事は最悪の事態から考えなくてはいけない。
災厄はどんなに想像しても、その想像を超えてくるものだから。
だからこそ次の一手だ。
「もしこの国から逃げるとしたら、ハルトが王をしている北の国です。
でも国民全員に逃げ出せるが体力がある訳ではなく、
国民の全避難は難航が予想されます。
なので国民には体力の底上げと、自衛手段を身に着けてもらいます!」
なんの事って顔をしている、アロレーラとガルムル。
なんかピンときた様なカルラ天。
すでにメモを取ってるジャン。
「これより国を挙げて、スポーツ振興を行います!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます