第69話炭焼きキュクロとお弟子さん
森に囲まれたサイクロプス村のはずれには、
そこだけ木が避けたかのような、丸い広場があるっス。
そこにはポツンと低い三角屋根があって、
屋根の下には、半地下状態の炭焼き窯が並んでるっス。
半地下とはいえサイクロプスの親方も入れるサイズ。
スロープの先にある窯の入り口は、見上げるほどデカいっス。
今日も釜に火を入れるため掃除をしていると、地響きがしてきたっス。
そろそろ親方がお戻りっス。
国中の森から伐りだされた木や間伐材は、サイクロプス村に運ばれて
丸太は木場で保管され、間伐材は毎朝港から親方が運んできてくれるっス。
間伐材を脇に抱えた親方が、肩や頭に妖精をたくさん乗せて
鈴なり状態で帰って来たっス。
「シャベル~、ただいまなの~」
「おかえりっス。あっ、クロープさんも手伝ってくれたんスか?」
「今日は量が多かったからな。ドアーフ村の辺りに航空部隊が出撃したらしいぞ」
「バグフィックスっスか⁈見たかったっスー!
でも近隣は立ち入り禁止になるから、木の上からじゃないと見えないんスよねー。
クロープさんの身長だと見えるんスか?前に出動した時は師匠の頭によじ登って…」
「……おい、シャベル。
お前が切れ目なく話すから、村長がますます喋らなくなるんだぞ」
「そんな事ないっスよねー、親方」
「あぁ」
「クロープさん、それででスねー……」
ほとんど喋らないキュクロと、喋りっぱなしのシャベルの師弟コンビは有名である。
森の木は妖精の踊りに応援されて、枝を整えられて、出番を待っているんスけど、
どうも木にも無性に枝を生やしてみたくなる時があるみたいで、
急に根元から岩トカゲのシッポくらいの枝が生えてくる事があるっス。
これが炭の材料になる間伐材、いろんな種類の木が運ばれて来るっス。
コレを一日かけて乾燥室に入れて、シルフがいつも通り追いかけっこをすると、
いい感じに乾燥するっス。
今日焼く分は昨日届いた木で、乾燥部屋から出して炭焼き窯に立てかけるっス。
まずはオイラと親方で床部分に敷き木を並べていると、
早速シルフがイタズラを始めたっス。
妖精は変わった物を焼きたがるから、今日も松ぼっくりがいっぱいっス。
乾燥した木を立てて並べて、天井までぎっちり詰めたら、土の妖精ポーの出番っス。
窯の入り口に土を塗ったレンガを積み上げて塞ぐんスけど、
ポーは頭の土をちぎって蓋をしようとするっス。
それで気付くと泥団子合戦が……「始まったっス」
毎回ポーが頭の泥をちぎって投げているうちに、前が見えずらくなってきて
適当に投げた泥団子がシルフに当たって泥だらけになるっス。
怒ったシルフが投げ返した泥団子が今度はメラに当たると、
泥が焼けてレンガになるっス。
そしてレンガを投げ返されたシルフが変顔で吹っ飛んで、喧嘩になるんスよね。
一度親方に怒られてから、釜の近くではやらなくなったっスけど
泥団子合戦は、あっという間にレンガのぶつけ合いになるっス。
レンガが当たるとシルフは原型がなくなるくらいの変顔になるんスけど
メラも当たった所がめり込んで凄い顔になるっス。
ポーはマトモに当たると一撃で泥になりかねないので、泣きながら逃げるんスけど、
泣くと溶けるから地面がぬかるんで、更にみんなでコケるッス。
親方はその間に、釜を完全にレンガと泥で塞ぎ、焚口を作り
オイラはポーを土に埋めてジョウロで水をかけるっス。
そうすると、元のサイズのポーが土から生えてくるっス。
焚口が出来たら、細い枝から火をつけて、徐々に温度を上げるっス。
温度を見てくれるのは、チャコって呼ばれてる土の妖精っス。
火を扱いすぎて、少し土器みたいに固くなっていて
歩くとカチャカチャお皿みたいな音がするっス。
親方がチャコを煙突の上に乗せたら、火入れっス。
用意しておいた薪をリレーのバトンのようにポーから受け取り、親方と火にくべ、
喧嘩が終わったメラとシルフは炭焼き窯の周りに交互に並んで踊り狂うと
窯の温度はどんどん上がるっス。
やがて煙突の上に座っていたチャコのお尻に火が点いて、
ロケットみたいに走り出し、火消し用の砂に飛び込んだら、焚口を土で塞ぐ合図。
煙突からは勢いよく煙が出てくるっス。
この煙の臭いで焼け具合を判断するんスけど、煙突を覗き込んで、煙に巻き込まれたシルフが毎回煤だらけになるっス。
こうして蒸し焼きになった木が炭になるんスけど、踊る妖精に窯を任せている間に
オイラたちは隣の釜から、昨日焼いた炭の取り出しをするっス。
親方が入り口のレンガを外すと、すかさず隙間からシルフが入り込もうとするっス。
出来栄えが気になるのと、煤だらけの方が売店の人が褒めてくれるからだと思うっス
妖精達は出来たばかりの松ぼっくりや毬栗の炭を籠に入れて、さっそく食堂の販売所に並べに行ったっス。
冷めた窯から親方が炭を出して、オイラが箱詰め。
昼過ぎには、港で働く人達が出荷の手伝いに来てくれるっス。
炭は船で中央に運ばれて、それぞれの村に届けられるっス。
間伐材の炭は食堂へ、それ以外は水質浄化や鶏舎の床材、畑に梳き込まれたりして
国中で使われるっス。
トカゲ村は、以前は塩湖の水を沸かして飲んでたんスけど、
井戸が出来てからは、キレイな水が飲めるようになったっス。
各村のあちこちに作られた井戸は、目に付くような大きな木の根元にあるので、
大木を捜せば見つかるっス。
そして水を沸かす必要がなくなった塩湖は、炭を食べたスライムで綺麗な塩水になり塩田に役割を変えたっス。
塩湖の底で有機物を食べて大きくなったスライムは、八つに分かれて湖の底の穴から塩田の反対側に押し出されてくるんスけど、
その古いスライムは各村に送られて、浄化槽で使われたあと土になるっス。
そして塩湖には炭を食べた新しいスライムが足されるっス。
出荷用の木箱を港に運び終わった頃、食堂に炭を運んでいたシルフが帰って来たっス
「炭屋さんは、お先にお風呂どーぞって言われたの~」
夕方には、みんな煤だらけ、だからご褒美の一番風呂っス。
親方とオイラとシルフでお風呂に向かうと、食堂から美味しい香りが漂ってきたっス
料理をする時は、炉に炭を並べてカンテラのチビメラに声をかけると火をつけてくれるっス。
大抵火力が必要になるから、いい匂いがし始めるとチビメラが集まってくるっス。
体を洗って煤を落としたら、サイクロプス村名物のサウナっス。
炭焼きメンバーは熱いのは慣れっこだから、サウナの中でタオルを振り回して踊ると
居合わせた人達が手拍子をしてくれるっス。
最近はオイラ達の時間に合わせて、サウナに来る人も居るっスよ。
サウナの後は全員が親方の肩に捕まって、湖に飛び込むっス。
ウチがやり始めたら、製材所や林業関係もやりはじめて、
今では何処の親方の水柱が一番高いか競争になってるっス。
水から上がると、シルフが不思議そうな顔をして
「シャベル~お顔が二つなの~」
「えっ?」
慌てて顔を触ると、妙にしっとり……
水に飛び込んだ衝撃で顔だけツルンと脱皮したらしく、パーカーみたいになっていた
「またか?」と親方も心配そうに言う。
「脱皮は成長の証っスよー。オイラも日々成長してるんスよー」と脱ごうとしたら
「……脱げないっス」
いつもはすぐに脱げるのに!シルフ達も一緒に引っ張ったけど
「脱げないっスーーー!
このまま脱げなかったら、オイラは一生着ぐるみトカゲのままっスーーー!」
「その方が面白いの~」
「面白くないっスー!キレイに脱皮出来ないのは、結構恥ずかしい事なんスよー!」
「大丈夫だ…」
「ちっとも大丈夫じゃないっスー!引っ張ったら伸びちゃったっスー!
もう完全に着ぐるみっスー!」
サイズの合わないブカブカの服のように伸びきってしまったのに、なぜか脱げない。
泣きたくなってきた……
「うわぁぁぁん!最悪っスー!」
騒ぎを聞きつけて、クロープさんがやってきた。
「おい、シャベル!村長の話を最後まで聞け!」
「なんスか、クロープさん。それどころじゃ…」
「大丈夫だ」と親方。
さっきも聞いたと言おうとしたら、クロープさんに小指で頭を押さえられた。
頭が重くて喋れないっス……
「前回もそうだった!」
……………そうだったっスか?シルフも首を傾げている。
半信半疑で湯舟に浸かったら、ウソみたいにスルンと脱げた。
クロープさんは呆れている。
「トカゲと妖精は忘れっぽいからなぁ……」
それを聞いて親方が
「嫌な事も忘れるから、悪い事ばかりじゃない」
「確かに、そこは羨ましくもあるな」
嬉しくて、サウナに来る人、みんなに話したら笑ってくれたっス。
オイラは暗くなるまで、タオルを回して踊ったっス。
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