第68話デカ盛りワンダーランド

サイクロプス村の港は、広めのマリーナが設けられている。

その船着き場の先にあるのは、

六角形の赤い壁にグレーのとんがり帽子を乗せたような、特徴的な建物だ。


とんがり帽子は玄関ホールで、そこから逆L字型に建物は続く。

壁に並ぶオーバールトップの窓がとても可愛らしい。

左側は横長の倉庫でこちらは、切り妻屋根の上にとんがり屋根がのっている。


なぜ広いマリーナがあるのか。それは建物に近づけばよく分かる。

建物が大きすぎて、遠近法がおかしくなるからだよ!


離れて見れば可愛いのに、目の前に立つと異様なほどの威圧感。

らしいっちゃ、らしいんだけどね。


マリーナと言うと船がたくさん停泊していそうだけど、ここの用途は木場。

サイクロプスには、その大きな体躯を活かせる林業もお願いしていて

周辺には住宅建設に使われるような木が多く植えられている。

ここは伐採した木を伐りだして保管しておく場所なのだ。


ドアーフ村寄りの場所には製材所もあり、

サイクロプスばかりではなくドアーフも働いている。

当初野宿から始まった建国だったので、住宅建設は急務。

なのでプレカット工法を導入した。とはいっても手作業である事に変わりはない。


私が描いた落書きが、ドアーフの手により精巧な設計図になり

サイクロプスが伐りだした丸太を妖精が乾燥させ、再びサイクロプスが材木に。

ドアーフが加工して、それを現場でド組が組み上げた。


そう考えると廃材利用が一番多いのは最初に作った中央。あとは道路舗装。

おかげで重厚な街になったけどね。


かくしてラクガキのイメージを残しつつ、

ラクガキとはかけ離れた素敵な村々が出来あがったのである。



しかしあのラクガキからよく起こせたと思う。

特にサイクロプス村はサイズが規格外だからね。


とんがり屋根の奥の部分は食堂と宿なんだけど、ここの食堂はちょっと面白い。


やたらと足が太くて高いテーブルに、椅子は高さの違う丸太。

サイクロプスサイズが合わない者は、食事前に自分に合った席を捜す必要がある。

カウンターも高くて、不思議の国のアリスの世界に迷い込んだ気分になる。


椅子には踏み台みたいな刻みがあって

小動物は机の脚のスロープを登って席に着く。

ネズミの船乗り達も使うので、一番端のテーブルは小柄さん専用。

机の上に小さいテーブルセットが、そのまま乗っているんだけど

そのサイズ感が、まさにおままごとサイズ。



料理にハマった者が多かったので、ここのキッチンには力を入れている。

そして彼等がパワフルに鍋が振れると気に入ったのは中華料理。

だけど私が教えたので、日本の家庭料理的な中華っぽいが正解。


だから塩、味噌、醤油、豚骨と主だったラーメンが揃い踏み。

人が隠れられるほどの寸胴鍋も、違和感なく使っているのが面白い。


でも作るのはサイクロプスなので、ジャンボ肉まんより大きな飲茶が出てきたり

フランスパンサイズの春巻きが出てくるから気を付けよう。


前に熱々の小籠包を食べようとしたネズミ達が、肉汁に襲われて搬送されたことがあり、小動物の間では危険と隣り合わせの美味と言われ、命懸けで食べる物らしい。


ラーメンや炒め物は、器のサイズはともかく、少量を覚えてもらったのだけど

サービスでバケツみたいな杏仁豆腐がついてくるから覚悟しておけ。



器用な彼等は、サイズさえ大きくすれば、何だって出来た。


巨大蚕の養蚕をお願いしているけど、

ここではその糸を染めて作った鮮やかなブレスレットを販売している。


細身のエルフには、これがベルトに丁度良い。

ネズミはハンカチを布団にしてるし、私はストールをベットカバーにしている。

ここでの買い物は、使い方を考えるのが面白くて、つい散財しがちだ。


そして大きいのはサイクロプスだけではない。他の村と違って、魚介も大きいのだ。


林業が盛んな為、この村の森は深い。

どうやら森の木々にシルフが分けた栄養が海に溶け出して、魚が巨大化したようだ。


世界の海から連れてきた魚介たちも、それぞれ定住できたようだけど

サイクロプス村の海は、特にこの世界の在来種に合っていたようで


国内に連れてきた時はいたって通常サイズだったのに

ズワイガニはタカアシガニだったのか?と思うくらいに立派になり、

ホタテの貝柱は、もはやホールケーキみたいだ。


巨大サーモンのイクラはさくらんぼ並みだし、

バスケットボールサイズのウニには驚いた。


そして何より異質なのが『逃げる昆布』

なぜか引き抜こうとすると、浅瀬に向かって走るので、

引きずってる昆布を踏んずけて捕まえる。


「魔族ではないか?」といろんな人が話しかけたけど意思の疎通ができないので、

食材に認定された。お鍋でいい味出してます。



食堂の窓からは裏手の湖が見え、どこまでも続く森の合間に、

真っ赤な壁と白い縁取り窓の民家がのぞく。


湖にはここから見る分には小さな桟橋がかかり、

そのすぐ傍には三角屋根の建物が建っているのだけど、そこが村の名物サウナ。

木製のサウナコテージで十分温まったら、桟橋を走ってそのまま湖に飛び込もう。

体が大きいサイクロプスが飛び込んだ時の水柱は圧巻。


サイクロプスが桟橋の先端から飛び込むので、つい真似したくなるけど

他の種族は、手前程浅くなっているので、桟橋の横に飛び込もう。


なぜならサイクロプスが飛び込む場所は、水深10メートル。

今日もトカゲが溺れたから!

一応目安はピクトグラムで書いてあるので、トカゲ達は頼むから見てくれ!


ダイナミックで楽しいけど水風呂が苦手な方はお隣りへ。

いかにも鉄泉な赤褐色の温泉が、湖の側に沸いている。

オススメは夕暮れ時、湖を染めながら、森の向こうに沈む夕日は絶景だ。



温まったらサウナ脇の森の広場へ。

キャンプファイヤーと可愛い民族衣装のサイクロプスが迎えてくれる。


サイクロプスに靴を履いてもらったら、すぐ穴が開いてしまったので

頑丈な毛皮の靴になってしまった。

そうしたら、その分服を可愛くしようと、器用な者が刺繍をしはじめて、

北欧風の民族衣装になった。


青いプリーツワンピースは袖口や裾が刺繍テープで飾られ

フリンジのついたストールに帽子。

その可愛らしい衣装でキャンプファイヤーを囲み、よりにもよってジェンカを踊る。


響く地響き、揺れる大地。

優しい彼等は加減をして跳ねるけど、それでもバランスが取りずらく、

広場は笑いに包まれる。


踊り疲れたら丸太のベンチで休憩。

週末の屋台ではブランデーとホットワインが振舞われる。

アルコールが苦手な人にはココアだ。


このブランデーの蒸留所も、北の村から移築した物。

サイズがサイクロプスに合わないので、製造はドアーフが関わってくれている。


そしてそんなドアーフ達と話をしながら、まだ飲むのかガルムルよ。

このブランデーはエルフ村のワインを蒸留したものなので、アロレーラもいきますか


残る三人は、丸太のベンチに座りながらホットココア。

今はおやつの時間だけど

『ここで星を見たら綺麗だろうな』と物思いにふけっていたら


「アスレチックとか作らないの?」とハルト。

「ご要望のものは、次の村にございます」

「えっ!じゃぁ早く行こう!」


やれやれと立ち上がると

「ご子息のご意見は、とても面白いと思いますよ」とジャン。

ニコニコしながら算盤はじいているんだろうな。


「ジャンは魔族国じゃなかったら大商人になれたんじゃない?」と聞くと

「人だったらの間違いでは?」と聞き返された。


「ネズミのジャンがいいんじゃない」さも当然のように言うと

「だから私は、この国に居るんですよ」とニッコリ笑った。














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