第67話我らグリーンレンジャー
巨木の森を行く複数の小さな影。
我々はただ森を棲みかにしている訳ではない。
森の平和を守る、それが我々に課せられた使命。
自分はレンジャー隊、隊長ムササビ。
我々は森の平和を守るレンジャー部隊である。
「隊長~。説明はいいので、そろそろ休憩にしましょうよ」
そう言ったのは入隊したばかりのモモンガ隊員。
レンジャー隊に配属されたばかりの為、体力がない。
副隊長のジリスが頬袋から水筒を出して、水をすすめている。
「ここはトカゲの森に近いから暑いわよね」と額の汗を拭うヤマネ隊員。
「慣れだよ」と言うのは、トビトカゲ隊員だ。
「確かに、日が高くなってきたな」見上げると太陽は中天に向かっていた。
「では只今より、調達実地せよ。
「レンジャー!」皆、声をそろえて散会する。
多様な植物が生えるこの森では、食べ物に事欠くことはないが
特定の食品を好む隊員もいる。
ジリス副隊長はさっそく木に登り、頬袋から弁当を出した。
荷物持ちを任されることも多い彼だが、あの頬袋の収納力は未知数だ。
果物を求めて南に移動すると、ヤマネ隊員がいた。
「モモンガ隊員を見なかったか?果物の場所を教えようと思ったんだが…」
「向こうに行きましたよ。
ですが、一人にしてあげても良いのではないでしょうか?」
彼は滑空が出来る有袋類で、体格にも恵まれているから
体力さえつけば即戦力になると思うのだが……最近距離をおかれている気がする。
「じゃぁ、今日はヤマネ隊員とランチだな!」そう言うと
「私もひとりで食べたいです」と笑顔で返された。
顔見知りのフルーツバット君と食事をして戻ると、隊員は揃って筋トレに励んでいた
「モモンガ隊員はどうした?」
「見ておりません!」と枝に尻尾でぶら下がり腹筋の体勢で答えるトビトカゲ隊員。
「ジリス副隊長」
「はっ!」
副隊長は枝の上で敬礼すると、頬袋から巨大なクルミを取り出しモールスを送る。
「
すると木々の向こうから、音が返ってきた。
「こちら
そして流れるような敬礼。
間もなくモモンガ隊員は、飛んで帰って来た。
「お昼休み、短くないですか?」
「早飯、早うん〇はレンジャーの心得だ。それに時間だ!」
空を指さすと、太陽はちょうど中天にあった。
「出発が遅れると、日暮れまでにドアーフの森を抜けられんぞ」
「どうしてそんなに急ぐんですか!」納得いかない新人に暗い声で告げる。
「ドアーフの森は敵が多い」
「えっ、でも……」
「この国の住人は、話の解るヤツばかりじゃないぞ」
他の隊員はすでに出発準備を終えている。
それを見て、モモンガ隊員も慌てて準備に取り掛かった。
やれやれと、思っていると。
「隊長!」とジリス副隊長に声をかけられた。
「トカゲの森から迷い込んだ民間人が居るようです」
「行くぞ」
頭上のジリス副隊長を先頭に、慌てるモモンガ隊員をおいて、一斉に動き出す。
トビトカゲ隊員が後ろを気にしているから大丈夫だろう。
「どこだ!」
地上に飛び降り叫ぶと、ジリス副隊長が
「先程はこの辺りに……隊長!」
真横で何かが動いたと思った途端に捕まった。
「隊長!」
「慌てるな‼」
ウエイトリフティングのように手足を突っ張り、口をこじ開ける。
迷い人は子供のハエトリグサ。コイツは挨拶代わりにすぐ噛みつきたがる……が、
「挨拶が過ぎるのではないか?」
ギロリと睨むと、慌てて何度も土下座を始めた。
「萎縮しなくて大丈夫ですよ。この人目つきが悪いだけですから」
「そうよ悪人顔なだけ」
「お困りなら、道案内しますよ」そう言って頬袋から地図を取り出すジリス副隊長。
道を聞いたハエトリグサは、お辞儀をしながらトカゲの森に帰って行った
民間人を安心させるためとはいえ、最近辛辣過ぎないか?
「なんで…あんなの止められるんですか…?」
脅かしたばかりだからか、モモンガ隊員は青い顔をしている。
「隊長は雪山から、遭難トカゲをソリにして降りてきた人だぞ」
ジリス副隊長が楽しそうに揶揄う。
「俺なんて体脂肪ないんだぜ」
モモンガ隊員はトビトカゲ隊員の腹筋を触らせてもらって喜んでいるが、
ソイツは変温動物だぞ。
日暮れまでに村に着かないといけないのは、むしろソイツだからな!
たわいの無い会話をしていると、遠くで微かに音が聞こえた気がした。
「……モールスか?」
キョトンとしているモモンガ隊員をよそに、全員が耳を澄ませる。
「隊長!民間人より情報。スクランブルです!」
いつの間に木に登ったのか、またしてもジリス副隊長が樹上から叫ぶ。
報告してくれたのは、先ほど昼食を共にしたフルーツバット君。
彼は類稀な聴力を持っており、会うたびにレンジャーに誘っているのだが
色よい返事がもらえない。実に優秀なソナーになりそうなのだが。
フルーツバット君に敬礼をすると、彼も敬礼しながらトカゲの森へと飛んで行った。
「総員、木に登れ!」
近くにあった巨木に目をつけて一斉に登る。これはレンジャー部隊が得意とする所。
瞬く間に、周りの木から頭ひとつ飛び出した、一段と高い樹上の上に全員が顔を出す
見ると遠くの空に鳥が集まり、真っ黒な渦巻きが出来ていた。
「なんですか!あれは?」
「航空部隊の精鋭、バグフィックスだ。
森に招かれざる者が現れた時、彼等によって鉄槌がくだされる」
スクランブル発進した彼等は、真っ黒な渦巻き状に旋回すると
雷のエフェクトを纏い、爆音を立てながら矢のように森に飛び込む。
音速で突っ込むのに、虫だけ捕まえて森を傷つけない圧巻の妙技だ。
しかも見るたび技術をあげているようだ。
普段からキツツキ部隊が森の触診を行っているが
病気が見つかった場合、呼ばれるのは名医コアラ先生だ。
樹木に額をくっつけて、親身に語らう姿は神々しい程と言われ
聞き上手な先生として有名だが、診察の間に寝てしまう事でも有名だ。
「今回は随分村の近くで発生したな」
「村って、まさか今日中にあそこまで行くんですか?」
「行軍とはそういうものだ」
「早く行かないと、本当に夜になるわよ」
「では行くぞ」
そう言って、自由降下を始める。
滑空距離は各々違うが、モモンガ隊員なら飛距離を望める。
ジリス副隊長は滑空ができないので、距離に気をつけながら速度をあげる。
行軍が遅れているのは皆わかっているので、スピードを上げてついてくるが
滑空距離が長いはずのモモンガ隊員が遅れだす。
筋トレもだが、やはり食事のアドバイスも必要か?
トビトカゲ隊員が近づいて並行飛行しようとした途端、
モモンガ隊員は猛禽類に搔っ攫われた。
「捕食者確認!攻撃開始!」
それぞれが皮膜の下から
ちなみにラバースライムで出来た輪ゴムは埋めれば一週間で土に還る。
「ちょっ…待て!お前らだったのか⁈」
「やめっ!これ以上撃つな!」
どうやら国民だったようだが、静止より早くジリス副隊長の
猛禽類は狩猟部隊のパンチをくらったような顔をして地上に落ちていった。
「なんですか!それ!」
「コイツは相棒のジョニーだ」
「銃の名前なんて聞いてませんよ!」
猛禽類の爪から逃れ、地上に着地したモモンガ隊員は泣きそうだ。
「こんな危険なところに連れてこられて、ボクだけ丸腰ですか?」
「だって君、水筒も重いから持ちたくないって言ってたじゃないか」
「君のポテンシャルなら、このくらい軽く運べる筈なんだけどな」
そういうジリス副隊長の背には
「それまさか頬袋に入れてるんですか⁈」
「安全装置がついてるから心配はないよ」
「ディテールを考えてください!だからいつも頬袋がパンパンなんですよー!」
モモンガ隊員は頭を抱えている。
「それだけ元気があるなら怪我もなさそうだな」
「無理です!休憩しましょう!」
「食べられそうになったのに、森に居たがるなんて、ある意味大物ね」
それを聞いて再び顔色をなくすモモンガ隊員。
「しかしこのままのペースでは本当に日暮れに間に合わない。ジリス副隊長」
「はっ!」
敬礼をしたジリスは頬袋に詰め込んだ、武器やゴム弾、食料、医療品まで吐き出した
そしてモモンガ隊員に向かって笑顔で「どうぞ」と手を広げ
「えっ?」と固まるモモンガ隊員を丸呑みにした。
「ぴぎゃーーーーー‼‼‼」
ジリス隊員の口から顔だけ出して、モモンガ隊員が叫ぶが
みな、当たり前のように、ジリス副隊長が吐き出した装備品を皮膜にしまう。
「トビトカゲ隊員。無反動砲もお願い出来ますか?私の皮膜では入りませんので」
「うはっ!この重量100キロ行軍を思い出しますね」
「モモンガ隊員に体力がついたら、またやろうな」
ちなみにそれぞれの荷物も皮膜の中にしまってある。
するとモモンガ隊員が泣き叫んだ。
「ちょっと!なんでみんな通常運転なんですか!ボク食べられてるんですけどぉ!」
「ふぁべなひほ(食べないよ)」
「イヤァァァアア‼モグモグしないでぇーーー‼‼」
要救助者がいた場合はいつもこうなるし、前回の100キロ行軍に参加した
フルーツバット君が同じように運ばれているので誰も驚かない。
「慣れだよ」とトビトカゲ隊員はあやすように笑う。
「それとモモンガ隊員、これだけは覚えておけ。
例え喰われても、すぐには諦めるな!消化されるまでが勝負だ!」
「喰われるのが前提なんですか⁈」
「小動物の性だ」
「嫌ですよ、そんなのー」
「まぁ、すぐに着くから大人しくしていなさい」とヤマネ隊員が
泣きじゃくるモモンガ隊員を押し込んで、ジリス副隊長の口を無理矢理閉じた。
「コイツは常習犯だから、突き出さんといかんな」
そう言ってお騒がせフクロウを縛り上げ、檄を飛ばす。
「では、これより本日の目的地、ドアーフ村への行軍を開始する」
「レンジャー」
ロープにフクロウを吊ったまま編隊飛行で飛ぶ。
搬送者がジリス隊員の口に入らない場合はこうするしかないので、
ぜひモモンガ隊員にも、これが出来るまでになってもらいたい。
ちなみに、正確には飛行ではなく滑空なので、
高度が落ちれば木に登りなおす必要があり、
残念ながら搬送者は保護した時よりボロボロになってしまう事も多い。
そして一度も休むことなく走り続けた我々は無事、日暮れ前にドアーフ村に到着した
到着次第吐き出されたモモンガ隊員は、フクロウ同様白目を剥いており、
揃ってコカトリスによって診療所に送り届けられた。
レンジャー部隊の活躍により、森の平和は守られた。戦えグリーンレンジャー。
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