第66話酒と鍛冶屋と髭おやじ

ニッコニコのガルムルを連れて、お次はドアーフの村へ、


「行きますよー!あなたの村なんだから!」

ガルムルを酒蔵から引きずりだして出発した。


幸いガルムルは船に乗った途端に寝てくれた。

船酔いも心配だし、酔っ払い村長を連れてこられても、村の人も困るだろう。


熱帯の湿気がなくなり、空気が軽くなるとドアーフ村は近い。

でも何だろう、トカゲエリアを出た辺りから、妙に運河が狭く感じる。

威圧感?圧迫感?………ってなんか巨木が多くない?


きちんと管理された美しい森なんだけど、それぞれが御柱くらい太い幹なのだ。

しかもそれが両サイド。

上の方に枝葉は残しているけど、なんか大仏殿の柱みたい……。


シルフが苗木を大量に連れて帰った時、貴重な材はドアーフ村の近くに植えたとは

聞いていたけど、ここの事だったのね。アレ?……苗木?


数百年土地を守って来た風体の木々を抜けると、ドアーフ村が見えてきた。

中央の建物に使われている黄色っぽい石材ではなく、

レンガのように切り出したグレーの石積み。


運河沿いの石畳と並行するように連なる家は、どれも小振りでウロコ状の屋根瓦が乗っている。それが長い時間をかけて苔むして、草屋根になっている所もある。


蔦も自然に絡みつき、風景の一部となり、寿命の長いドアーフに寄り添うように

ゆっくり同じ時間を歩んできた、そんな村。

鍛冶屋が多いため、何かを燃す臭いが空気に溶け込み、煙突からは煙が上がる。


港の隣には、大きな石造りのウロコ屋根の倉庫。

向かい側の広場には、岩にもたれるように座り、盃を高くあげる神様の噴水。


「あれは?」

「どっかで見たような記憶があるお酒の神様」

「あーーー………」


ハルトの横にはガルムル。

酔っぱらった髭ずらに思うところがあったんだろう。


ハルトの隣にはがルムル。

酔っぱらった髭面に思うところがあったのだろう。


噴水広場は扇状に広がり、

三角屋根の石組みの食堂の前はオープンカフェのようにテーブルが並んでいる。


食堂脇から丘を登る階段の先には、城壁を思わせるような砦があって、

エルフ村同様、これも人族との諍いの名残だが、今はそこにもカフェスペース。


だが、そのいくつものテーブルが、昼間っから酔っ払いで埋まっていた。



思わずジト目でガルムルを見てしまう一同。

にもかかわらず、ご機嫌な酔っ払いガルムル。


再建の為、率先して働いてくれているのはドアーフだ。

彼等の指導で仕事を覚えて、自立せんとする者もいるし、

新たな分野を開拓するドアーフもいる。


彼等は自分の仕事に誇りを持っている。

それゆえに仕事がないと、ただの飲んだくれになってしまうのである。


大工、土木、木工系の人は良かった。

問題は武器鍛冶や防具鍛冶。

私が不戦宣言をした辺りから、実は拗ねていたらしい。


楽しく飲むのは悪い事ではない。

でも彼等の話を聞いたのはナンナからで、

料理開発部のドアーフ婦人達の愚痴が、そろそろ対処できないと聞かされたのだ。


包丁とかカトラリーとか仕事は振っているんだけど

頑なに剣しか作りたくない人が、昼間っから飲んでるってのは誇張じゃなかったワケか……


飲んでる人の中には見知った顔もいた。

ドゥリンさん、リサイクル作戦の時は、ドヤ顔でハンマー振ってたのに……。


武器が作れて、使えて、安全に暴れられる所…。


不意ハルトが聞いてきた。

「そういえば、ここって敵いないの?」

「いない訳じゃないけど、ここでは精肉と鮮魚の扱いだね」


魔獣狩りに従事してくれている人達は、ご飯を狩ると言う純粋な目的があるけど、

たぶんドアーフだと、あのテンションにはならない。


「大抵のゲームがバトルとかシューティングとかあるじゃない」

「バトルをしたいなら牧畜場か漁場で、魔獣を倒すしかないね。

シューティングは、エルフ村の弓くらいかな」   

銃は………使う人を選ぶんだよね。


「でも武器屋と防具屋があるんだよ!」

ハルトがピクトグラムの看板を指さす。相変わらずハルトはゲーム感覚だ。


武器屋と防具屋が出てくるゲーム……ふと思いつき呟く。

「RPGか……」すると頭に乗っていたジャンが、肩まで降りてきた。


ゲームはあんまりやった事はないけど、大体は魔王を倒しに行ってない?

ここでの魔王は私だけど……。


ハルトは期待した目でこちらを見ている。望んでいるのは、魔王を倒す前にする事。

「………………ダンジョンか」


ジャンもハルトも企画の内容を聞きたそうだったけど、思い付きでしかないので

構想を練ってから話すと言って、次の村に行く事になった。


でも船に乗った途端に、ハルトはダンジョンの話を始めてしまった。

だけど聞いておいて良かったかも知れない。私より余程ゲームに詳しいんだもん。

実際知らない事も多かった。


内容はゲームの話なんだけど、自分の村に関わる事なので、

ガルムルはすでに通常モードに戻っている……って戻れるの?


酔っぱらったお寛ぎモードを見せてくれるくらいには、

気を許してくれるようになったって事かな。



ダンジョン作成の意図は、国防目的の防衛トラップの開発とドアーフの雇用。


これはゲームのように、死ぬ気でレベルアップを目指すものじゃなくて

レジャー要素が強い物。いわばアクティビティ。

落とし穴だって、穴掘りが楽しくて作るのではなくて、落ちた時の反応が見たいんでしょう?たぶん。


コースも大中小作って、サイズを気にせず楽しめるようにして、ドアーフが仕掛け人

意外とドアーフはイタズラ心があるし、楽しく作るんじゃないだろうか?


隠し扉は建具職人が得意だろうし、槍とか弓が飛び出してくるのは武器職人、

雰囲気を出すために入場者に渡す装備は防具職人。

甲冑に脅かし役の妖精が入っても良いんじゃない?


私だけで考えるとレトロなお化け屋敷になりそうだから、

そこは皆さんの知恵をお借りしよう。


国内用はビックリさせる程度の物。それを踏まえて防衛用は

「死ぬかと思ったー」と思わせておいて、絶対に死なないトラップ。


ここまで話したらガルムルとアロレーラが、ジト目をしてきたけど、譲る気はない。


恨む気持ちからは、決して良いものは生まれない。

幸い平和な国に生まれて、月並みに幸せに生きて来れちゃったから

人の物を奪ってまで争う心理が解らない。


戦争も最初の原因は、おそらく水や食料。

あとはマンパワー等の、資源の奪い合いだろう。

どうやったって地域差は出てしまうけど、

それらを工夫したからこそ、独自の風土や文化が生まれたのだ。

でもその結果、ドアーフが意固地になってしまったのだとしたら、それは悲しい事だ


だからと言って争う事は負のループでしかない。

戦うのが嫌になる。いっそ寝返りたくなる。そんな方法はないだろうか?



そんな話をしていたらサイクロプス村が見えてきた。

するとジャンは、すかさず

船乗りとシルフに、船で聞いたことは他言無用と口止めをしていた。


間違いなく、このメンバーで一番仕事をしているよ。

後でエルフ村のチーズでも送っておこう。
















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