第62話異世界ハワイ

獣人村を抜けると広大なサトウキビ畑が見え始め、南国ムードが増してくる。

水路沿いの道を、半魚人が荷車にサトウキビを山と積んで運んでいた。

船を見かけると、手を振って挨拶をするのが、この国の定番。

そのサトウキビ畑が終わったあたりに港がある。


ここの港は、国で一番広く作られている。村のほとんどが、海の上にあるからだ。


魚人村の収入源は、ほぼ観光。

作ってる作物も、サトウキビと南国フルーツくらいだけど、村人は特に困らない。


衣食住という言葉があるけど、彼等にしたら、少なくとも食と住は海にある。

住宅は、半分空気の溜まった岩礁の洞窟で、

そこにシェアハウスのように集まって暮らしている。

乱獲を避けるうちに、いつの間にかそうした暮らしになり、定着したようだ。


そして衣類は国が配っているので事足りる。

南国らしくハーフパンツかビスチェを選ぶだけ。両方選んでも良いけど、

両方身に着けないのはアウトである。


ちなみに魚型魚人は、着衣水泳で溺れた者がいたので、衣服の代わりに

背びれを染めるなどしてもらっている。


毎日のように救助や保護されるイワシのサーディンが、モヒカン頭になってから

小魚魚人の間でエクステが大流行し、みんなしてリュウグウノツカイみたいになっているけど、網にかかるのは相変わらず。

でも、モヒカン頭の流行を一番喜んだのは、漁師さん達だった。


そんな魚人村のお仕事は、ほとんどが漁業関係者か、エンターティナーである。


「異世界ハワイだ!」

「本物じゃなくてゴメンねー」ハルトにはアイディアのネタ元がバレている。


海に突き出た建物は、いわゆる水上コテージ。

その中の一際大きな建物が、倉庫と食堂だ。

海底の岩礁から立ち上がる柱は、海中ではサンゴが付着し、

その柱の上にヤシの茅葺屋根が乗っている。


室内はキッチンと一部に床があるけど、座席のほとんどは半身浴状態。

カウンターでトレーを受け取り、好きなテーブルサンゴで食事をする。


魚人は元来、生食文化の為、素材の味を楽しむ料理が多い。

生牡蠣とか生ウニとか、生エビとか生カニとか。

リサイクル作戦の時に、各地の海まで行って食材集めをした成果だ。


そして魚人村の者は、それらを殻ごとバリバリ食べる。

強靭なアゴを持つ者が多いうえに、料理をさせれば自らが食材になるからだ。


料理開発部から、ここの食材が気に入って移住してきた者がいたので、

今は料理を広めている最中だ。


オススメはカルパッチョにガスパチョ、

オリーブのサラダと、タコのサラダと、ブルスケッタと…火を使わない物ばかりだな


温かいものが食べたい人は、海鮮バーベキューがオススメ。

港からゆるい傾斜を登った先にバーベキューテラスがある。

ビーチを作ろうと砂漠の砂を運んだ際に、調子に乗って砂丘にした時の名残の丘だ。


ここもヤシを葺いた屋根だけど、食堂と違い壁がないうえに小高くなっているので

さわやかな風が抜ける。

テラスの周りは泉になっていて、小さい橋がかかっている。

利用者は砂丘を登るか、水路を遡上するかして施設に向かう。

エラの無いものはテラスを使い、水辺が良いものは泉に浸かって楽しむ。


脂のノリの良い者は引火に気を付けて!火がついたら潜水し、自己消火に努める事。

テラスの隣には治療院があって、常にひとりくらい生け簀の塩水に浮いている。


バーベキューテラスの奥には、カクテルバーがあり、

半魚人のバーテンがシェイカーを振っている。

客席にはガルムル。まだ飲むんかい!


海を見ながら、隣村のラムを使ったトロピカルカクテルや、ジュース飲むのは最高だ

ヤシの実ジュースはバーテンさんが頭で割ってくれるぞ。


お土産は螺鈿細工がオススメ。

エキドナとイネスのラミアコンビが作っている。


イネスは以前、悪い男性に唆されて、文字通り身ぐるみ剝がされた子だけど

ウロコを加工したアクセサリーを見せてもらった事があったらしくて

デザインセンスが素晴らしかった。


それをみたエキドナが声をかけ、二人で工房を始めたのだが

そこは女性同士、話に花が咲く。

毎度イネスが彼との思い出を話し出した途端、エキドナがバッサリ切り捨てる。


一見真逆な性格だけど、エキドナも決して冷たい子じゃなくてフォローが出来るし、イネスも気が紛れて楽しいみたいだ。

泣いてばっかりだったイネスも、どうやら変われそうだ。



丘の下には白い砂浜、青い海。

水平線の先には外輪山がそそり立っているけど、海スペースを広くとっているので、あまり違和感はない。


思わず砂浜を海に向かって走りたくなるけど、魚人は要注意だ。

うっかり砂で蒸し焼きになったヤツが、今日も生け簀に浮いてるぞ。



海はビーチと外洋に分けてあり、境界ブイで区切ってはいるけど、

外洋は回遊魚人が泳ぐので、奥に行くほど流れが速くなっている。


わざと流されて遊ぶ者も多いけど、本当に溺れてしまう者もいるので

ビーチは常に監視員さんが見守っている。


監視員の代表はウラシマさん。東の海辺で保護されたゾウガメさんだ。

人族の国は王都の後ろに海を背負う地形をしていた。


ウラシマさんがまだ小さい頃、

海で人族にいじめられていた所を、通りすがりのウラシマさんという方に助けてもらい、お礼がしたくて彼を捜していたらしい。


そして年月が経ち、岩のように大きくなったウラシマさんを誰もカメだと思わなくなり、彼は海辺に居ついたらしい。


今後の事もあり魔族国で保護したのだが、

ウラシマさんは思わぬところで恩人と再会する事になった。


昔々、とある川トカゲがカメを助けて人族に捕まり、奴隷となったが自力で脱出して生還したと言う冒険譚が伝わっていたのだ。


子孫と言われる川トカゲは、ウラシマとは似ても似つかぬ名前で、いじめた者の名が

ウラシマでは?という話まで出たが、それは伏せておいた。


ウラシマさんは自分の本当の名前も忘れてしまっていたけれど、

彼にとってはウラシマという名前も含めて、大切な思い出なのだろう。


そんなウラシマさんだが、彼にしか成し得ない、類まれなる才能を持っていた。

それは『日がな一日海を眺めていても飽きない!』しかも素晴らしく目がいい!



ビーチから、やや奥まった所にある、ヤシ林にウラシマさんの監視小屋はある。

バーベキューテラスと同じヤシ葺きの屋根に、風抜きみたいな小さい屋根が乗った二階建て。


ここで日課の海の観察をするのだけど、溺れそうな者を発見すると、ウラシマさんは

「あぁーーー……」と悲痛な声をあげる。

それを二階で聞いたハダカデバネズミがすかさず笛を吹き、

普段はビーチフラッグスを教えている双子の半魚人が海にダッシュ。秒で救出する。

ウラシマさんの叫びは

「ーーーー……良かった」という安堵で終わる。素晴らしいチームワークだ。


双子の半魚人はビーチバレーを広めようとしているので、

それぞれ赤と白の水泳キャップにウエットスーツ素材のブーメラン水着。

なのでウラシマさんも、赤白帽子をウル〇ラマンにしてかぶってもらっている。


二階に住むハダカデバネズミのデバミさんは監視員でもあり、

魚人村のショービジネスを司る、エグゼクティブマネージャー。


ジャンの片腕にと誘われたが、肌が弱く温かな気候を望んだため、ここに定住した。

高齢のウラシマさんにも気遣える好人物。

焼けた砂浜はダメージが強いので、よく双子が迎えに来て食事に行っている。


ちなみにウラシマさんは、朝食に向かったら翌朝食堂に着いた事があったので

監視小屋の隣にスイカ畑を作ってもらった。

時々割って食べているけど、声をかけると分けてくれる。

だから勝手にスイカ割りは禁止だぞ!


海で遊んだら食堂脇の温泉へ。

やや茶色いお湯は温度が高いので、打たせ湯にして

適温を頭からかぶるのが気持ちいいが、絵面がブイヤベースなのは気にするな。


昼と夕方にはパフォーマンスが行われ、人魚と半魚人のフラダンスが呼び物だ。

半魚人が浜、人魚が海で踊るのだけど、意外と上手な半魚人に対し

人魚は水面を立ち泳ぎをするイルカのように、猛スピードで踊る。


ブリの火の輪くぐりは、脂がのり過ぎて炎上必死だし、カツオは食材なのかと思うほど炙り焼きになるし、

日没に合わせて行われる手筒花火は、焼いてるんだか、揚げてるんだか判らない状態になるけど、塩水に飛び込むまでがパフォーマンスなので、会場は拍手と香ばしい

香りに包まれる。


こんな愛らしい魚人たちに会いに、週末は魚人村にぜひどうぞ!












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