第61話ポーちゃんの一日

ここは、しっとり湿った土の中。

頭の上で音がする。

もう誰か、起きだしてきたのかな?

すると突然、頭が耕された。


「うわっ!悪りぃ。居たのか!」

土から出ると頭に穴が開いていた。

ハニワボディの頭の先が、マカロニみたいにちょん切れた。


「大丈夫か?戻せるか?」

鍬にくっついた頭の先を、元に戻すと

ヘラジカのモスさんは、水で撫でつけてくれた。


これでハニワボディは元通り。

腕を上げてポーと叫ぶと、モスさんはホッとした顔をしていた。


外はまだ暗い。

でも丘の上から見下ろせば、あちこちでチビメラ達が光っている。


収穫した野菜は、荷車に山のように積み上げられて、港まで運ばれていく。

そこまでが早朝のお仕事。

港の側の小川ではアライグマさん達が泥野菜を洗っている。


やがて、ぐるっと囲む山の上に太陽が現れると、途端に賑やかな音がし始めた。

「あぁ、メシの時間だ。行ってくるな」


モスさんは行ってしまったけど、本当に賑やかになるのはこれから。

急いで丘の高い所にあるアーモンドの木を目指す。



お花が咲くと、みんな嬉しそうだから、アーモンドのお花は順番に咲く。

順番に咲いて、順番に収穫して、いつでもお花見ができる。

そして今日も待ち合わせは、お花の咲いているアーモンドの木の下。


木の下では、いつものメンバーが待っていた。

手を振ると、『ここだよー』と言わんばかりに手を振り返してくれた。

アーモンドの木の下に、みんなで体育座りをして、ワクワクしながら、その時を待つ


森からやって来た、小鳥のさえずりがステキなのは最初だけ。

せっかく明け始めた空に、真っ黒な渦巻きみたいに集まった鳥たちは

突然、爆音をたてて、矢のように畑に飛び込む。


小鳥たちもご飯の時間だ。

雷みたいな勢いで突っ込むのに、虫だけを捕まえて野菜を傷つけない凄技だ。

虫取りは小鳥たちの仕事。彼等も立派な魔族だから。


魔族の虫は鳥たちのご飯の時間を知っているから、その間は出てこない。

しかも間違われないように、どんどん派手になってきて、まるでキレイな石みたいだ

なんでも虫のイメージを変えたいらしいよ。


小鳥のご飯が始まる前に、畑にいるポー達は、

みんなアーモンドの木の下に集まる約束なんだけど、

やっぱり今日も寝過ごした子がいたらしい。

穴だらけのポーが何人もやってきた。

泣きすぎて溶けそうな子もいたから、みんなで撫でて治してあげる。

するとハニワボディは元通り。


鳥たちのご飯が終わると、そろそろミミッポさん達が戻ってくる。

ポー達は手を振ってお別れをすると、仲良しさんの手伝いをするために

それぞれ畑に帰っていく。



道端に落ちていた、玉ねぎを齧りながら畑に向かうと。

畑にはモスさんが帰ってきていた。今日もイタチのイーゼルさんと一緒。

ふたりはいつも競争をする。


「ウシオさん、いいですかー」

モスさんはそう言って、畦道に腰を下ろすウシオさんに向かって手を振る。

ベテラン農家のウシオさんは、ふたりの先生だ。

ふたりはこの国に来たばかりだから、ウシオさんに農業を教えてもらっている。


「よし、始めるか!」とモスさん。

「草ばっかり食ってるヤツに負ける気はしない」とイーゼルさん。


二人は睨み合い、同時に雄叫びを上げながら畑を耕し始めた。

「うおぉぉぉぉぉ!」土煙ですぐに視界が悪くなる。


「有蹄類の馬力なめんな!」

「雑食系なめんな!」

ふたりが叫びながら畑を半分ほど耕すと、

鍬を杖代わりにウシオさんがゆっくり立ち上がった。


そして鍬を振り上げた瞬間、肥大化する筋肉。

耕しながら追いついて、あっという間に空高くふたりを吹っ飛ばした。


「ベテランなめんでねぇ」

なんで農家のお爺さんって、あんな超人なんだろうね。

ウシオさんが耕した後は、しっかり畝まで出来ていた。


モスさんとイーゼルさんが種を蒔いた後ろから、アクアと踊りながらついていく。

すると、大きなカブを乗せた荷車が、保存食工場に続く道を進んでいた。

どこかのポーが、またやらかしたようだ。


巨大野菜コンテストは週末のイベントで

順番に東と西の畑から一つの野菜が選ばれて大きさを競う。

みんなで競争すると食べきれない量になるし、土が痩せてしまうからだ。


そして今週末はトウモロコシ対オクラ。すでに巨大なツインタワーが立っている。

ポー達は応援する野菜の周りで、より大きくなるように踊るのだ。

そうだ、お昼休みはトウモロコシの周りで踊ろう。



そういえば…と暗い表情のモスさんが言った。

「今日も昼は蕎麦かな?」

「……だろうな」イーゼルさんの表情も暗くなった。


「いつまで続くのかな?」

「飽きるまでじゃねーの?」

「正直オレは飽きている」

「すぐ腹減るしな」

「それ言うと、なくなるまで食わされるぞ」


カモシカのおじさんが蕎麦打ちにハマって以来、獣人村のお昼は蕎麦が続いている。

わんこそばを村の名物にしたいらしいのだけど、

食べる人より蕎麦を継ぎ足す人の技術が上がってしまい、

みんな断れずに食べ続けさせられる。


手も口も塞がってしまうので、みんなギブアップは渾身の無理顔をするんだけど

面白さが足りないと、蕎麦は継ぎ足されてしまう。

これを窓の外から見るのが楽しくて、お昼の時間はみんなで葡萄のテラスに応援に

駆け付けるんだ。



お昼休みにツインタワーに向かっていたら、

アリクイさんとリスさんが、ポー達にトマトを配っていた。


「あなたも食べてみて!絶対ウチのトマトの方が甘いから」糖度信者が現れた。

獣人村では甘い野菜が最強のようで、どんな野菜でも、まずは生で食べさせられる。

自信がある人ほど、生食を進めるから不思議だ。


「加熱用のトマトの良さもあると思うんだけどねー」

そう言いながらリスさんは顔の形が変わるほど、頬袋いっぱいにトマトを詰めている。いつも思うけど、よく喋れるね。


「ウチのトマト食べたら、他のは食べられないって!」

「あなた、トマトばっかり食べてるもんね。アリクイなのに」


そこに、遠くから賑やかな声が聞こえてきた。

「手伝ってくれ!ニワトリが逃げた!」

「またぁ?」ポー達も一緒に、みんなして呆れ顔。


「手伝ってくれよー!アイツらスゲー巧妙に逃げるんだよ!」

これも毎日恒例。このキツネさんはニワトリさんに好かれ過ぎていて、

ニワトリさんは鬼ごっこをしているつもりで逃げるんだ。


鶏小屋のキナコも『夕方には帰ってくるから大丈夫』って言ってたけど、

キツネさんが心配するから、余計に面白がられるんだよね。


ニワトリさんを追ってたら日が暮れてきたので、ポー達は大きな木の下に埋まった。今夜は雨が降りそうだ。




暗くなってから風が強くなってきた。

まだ朝ではないはずだけど、なんだか外が賑やかだ。


土から出ると、ミミッポさん達が騒いでいる。

見に行こうとしたら「溶けちまうから、木の下にいろ!」と言われた。

獣人さん達は、野菜に覆いをかけたり、支柱を立てたりしている。


そうだ!トウモロコシ!

ポー達が葉っぱをかぶって駆け付けると、

ミミッポさん達は泣きながら支柱を支えていた。


一生懸命育てたんだもん、泣きたくもなるよ。でもね、

泣くより先にシルフちゃんを止めた方が良いと思うんだ。


シルフちゃんは楽しそうにトウモロコシを揺らしていた。


アクアとシルフちゃんに『みんな泣いてるから止めてあげて』ってお願いしたら

十分遊んだからって、すぐに止めてくれた。


でもポー達は、雨に打たれ過ぎたみたいだ。

ミミッポさん達が家に帰る頃、ポー達はすっかり溶けてしまった。



ここは、しっとり湿った土の中。

頭の上で音がする。

すると突然、頭に鍬が刺さった。


「うわっ!悪りぃ、居たのか!」

鍬に刺さって掘り起こされた。


ビックリ顔のモスさんに、刺さったまんま挨拶をする。

今日もステキな一日になりそうだ。

















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