第57話ちくわvsウインナー

朝ごはんを食べ終わりレンガ造りの食堂を出ると、

開けた広場には、もう妖精達が集まっていました。


加工場が並ぶこのエリアは、工場で働く者達の小さな村が出来つつあります。


いち早く建てられた食堂の周りにも、家が作られはじめ

少し離れた水車小屋の粉挽き職人さん達も、村の一員になってくれるそうです。


そして私達とお揃いのコック服を着て、広場で手を振るのは、風の妖精シルフさん。

そのシルフさん達が中心になって、

連日、微笑ましい諍いが起こっているのですが……



「ディル~、おはよーなの~」

「おはよーなの、フェオーラ。早く行くの~」

「そんなに慌てなくても大丈夫だよー」

元気すぎる妖精たちに、エルフのフェオーラは困ったように笑っています。


「じゃぁ、ディル。またお昼にね」

フェオーラがそう言うと、赤いエプロンの妖精達は

「今日も負けないの~」と宣言して、

広場にかかる大きなアーチ橋を渡って行きました。


物流の船が行きかう運河は、支流とはいえ大きく、

船はこの橋をくぐって村へと向かいます。


「青組の方が凄いの~」

一緒についてきた青いエプロンのシルフさん達も自信満々です。


諍いと言っても、自分のチームの方が凄い仕事をしているという、自慢大会なので

一日の終わりには、どっちも同じように褒められるのですけどね。


「じゃぁ、今日も頑張りましょう!」

そう言って青組チームは川沿いの石畳を、意気揚々と歩きますが

川の反対側では、きっとフェオーラも同じことを言っているでしょう。

妖精と共に工場に向かう者達は、皆さん笑顔で妖精達を鼓舞しています。



エルフ村に続く支流の両側に建つのがレンガ造りの加工場。

北側が精肉、南側が鮮魚です。


加工する物によっては建物に煙突が立っていますが、同じような建物なので

目印は大きく書かれた加工品マーク。妖精さん達にも分かりやすいようです。


ほとんどは飛び回っているだけの妖精さんですが

中にはお手伝いが楽しくなった子達もいて、私を迎えに来てくれたこの子達もそう。

私達は『チームちくわ』。そろって同じちくわマークの建物に入ります。


ちなみにフェオーラは『チームウインナー』

もともと張り合っていた妖精さん達が、

肉と魚の違いがあるけど、形状が似ているこの食品の出来を自慢し合うようになり

私も巻き込まれる形でフェオーラと知り合ったのですが、

今は妖精さん達が引き合わせてくれたと思っています。


手を洗い、エプロンをつけ、妖精と同じちくわ付きの帽子を被ったら作業開始。


加工場が並ぶこのエリアは、いくつもの建物が並んでいるように見えて

内部はつながっています。


建物内は食品が傷まないように温度も涼しく保たれていて

精肉も魚肉も小運河から支流に入ってすぐの施設で加工されて、

ここには水にさらされた魚肉の状態で

トカゲさん達が重たい担い桶を担いで運んできてくれます。


「おっ、待たせたな」

トカゲさんが来ると、すかさずシルフさん達がお出迎えです。

水分を絞る金属製の樽に、

材料を入れてもらったら、いよいよシルフさん達の出番です。


「よし、いいぞ」

トカゲさんに言われ、五人のシルフさんが一斉に樽の上を走りだします。


徐々に回転速度が上がる樽に、みなさん表情を作れないほど必死で

この時ばかりはシルフさんの愛らしさも何処かに行ってしまいます。


なにせ樽が回りだすと、魚肉から水分が抜けて軽くなり

スピードについていけなくなると、樽から振り落とされてしまうのです。

それはまさに決着のつかないデッドヒート。みなさん限界ギリギリの顔で走ります。


そして三人ほど吹っ飛ばされると私達の出番です。

裏ごしは力のいる作業ですが、美味しさの秘訣と言われて、

手を抜く人はここには居ません。

そんな事をしたら、シルフさんに怒られてしまいますからね。


裏ごしされた魚肉は、更に水分を抜く樽に入れられ、

サイクロプスさんが重しになって水分が抜かれます。


ジャックさんが冷やした岩のすり鉢に、サイクロプスさんが魚肉と調味料を入れたら

仕上げはやっぱりシルフさん。

ミキサーの滑車の中で必死に走る表情は、馬脚トリオさんにも負けていません。

更にサイクロプスさんが棍棒で練り混ぜると、すり身の完成です。


練ったすり身を金属の筒に巻き付けて、形を整えたら

「あの顔は無理なの~」という焼き担当のシルフさんとチビメラさんが

風を送りながら焼いてくれます。


仕上がりはシルフさんのほっぺくらい。

ここで弾力が足りないものは、

「失敗なの~」と言われて、嬉しそうな妖精さんのお口に入ってしまいます。

焼きたては格別だそうです。


厳しい検査に合格したちくわは

串から外されて、キノコの生えた冷蔵エリアで冷やされて熟成します。

完成はシルフさんが「出来たの~」とモグモグしながら知らせてくれます。



そしていつもチームウインナーと張り合うのは長さ。

今日も一本だけ、素晴らしく長いちくわを作り

竜神まつりのように棒で支えて、シルフさん達がお昼に食堂まで運びます。


広場で待ち構えるのは『チームウインナー』

あちらはアナコンダのようにトグロを巻いています。


サイクロプスさんに長さを測ってもらうと

今回は僅差でウインナーの方が長かったのですが、腸詰作業中にイタズラをしてしまったそうで、チームちくわの勝利となりました。


でも実は材料と器具の関係で、これ以上大きなものが作れないのは

妖精さん達には秘密です。

ちくわとウインナーは切り分けられて、みんなのお昼ご飯に加えられます。



賑やかなやり取りが終わり、席に着くと

朝は元気だったはずのフェオーラが、なんだか疲れた顔をしています。


「午前の予定が、ほとんど午後に押しちゃったのよ……」

「何があったの?」


「さっき言ってたイタズラよ。

シルフがウインナーの皮を風船みたいに膨らませて爆発させたの!

妖精は挽肉に落ちるし、吊るしておいたウインナーは絡まるし

挙句に調味料が飛び散って、くしゃみが止まらなくなるし、もう散々!」


巻き込まれたフェオーラはお気の毒ですが

妖精のイタズラは聞くだけなら面白く聞こえてしまうので、つい笑ってしまいます。


そして当のシルフさん達は、ちくわを望遠鏡にして飛び回っています。


「もー、ご飯の時は飛び回らない!」

フェオーラの苦労が偲ばれますが、みんな笑いながら妖精さんを眺めるのでした。










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