第54話ロジスティクス
縫製工場と街道を挟んだ向かい側にあるのが、
この国の物流の中心である『中央港』
港には運河に面した長いデッキがあり、
縫製工場の向かい側から、左に向かってカラフルな倉庫が立ち並ぶ。
町の中心に近い方から、繊維、野菜、乳製品、精肉、鮮魚。
建物はわかりやすいように色分けがされていて
右からアイボリー、若草色、山吹色、赤茶色、薄水色に塗り分けられている。
「ちっとも、わかんねぇ……」と棟梁にはボヤかれたけど
画像で見た、運河沿いに建つ某国の倉庫は、原色ではなかった気がするんだよね。
行ったことないけど……
誰にでも分かりやすいように、倉庫の正面にはピクトグラムも描いてもらって、
我儘も言いましたが、ド組のお陰でカラフル倉庫は、使いやすいと評判です。
外側はカラフルだけど、内側は冷えるように石造り。
繊維以外の建物には、天井に氷魔法の魔法陣が描いてあって
冷蔵庫くらいの温度に保たれている。
ここはあくまで倉庫なので、
村ごとに仕分けされたものが集められ、発送されるのだけど
産地から毎日届く大量の生鮮食品は、加工場近くの物流センターで仕分けられる。
鮮魚は、中央港を通過して直接加工場に運ばれる。
直送船なのが解るように、船には目印の旗が立っている…のだけど……
誰だ?大漁旗作ったの……。
大漁旗を元気に翻しながら
負けないくらい元気に手を振って、目の前をネズミ達が通り過ぎて行った。
物流で使われる三重丸の運河は、
大運河が村を巡るのに対し、小運河沿いには加工場が並んでいる。
一番大きな加工施設のある、エルフ村から獣人村のエリアは
労働者が多い事もあり、第八の村になりつつある。
メインの精肉と鮮魚を扱う施設は、エルフ村に続く支流沿いだが
すぐ近くの小運河沿いに取れすぎた野菜などで、保存食を作る施設があり
ここに配送センターが併設されている
村ごとに食べきれる量と、好んで食べる物が違うので、何がどのくらい欲しいという注文書が入るのだけど、識字率が低いので、絵文字を組み合わせている。
凸版印刷で作った注文票は、村ごとの出荷用木箱と同じ色をしていて
必要な物の絵文字が印刷され、数字はサイコロの目のようなスタンプを使用。
1から9が黒、10の位が赤のインクで押されている。
交易に関わる者は、ほとんどが5本指だったので、頑張って10までは
数えられるようになってもらった。ちなみにネズミは5本指の足を数えている。
各村への配送は週に一回なので、
集められた食材は、配送日が近い順に箱詰めにされる。
注文書はあるものの、欲しいものがタイミングよく収穫されていない事もあるので
その場合は似たような物が送られるのだけど、
すべて配送センターの采配なので、これが騒動の種になる事がある。
特に注意が必要なのは、トカゲ村の南国フルーツと、生食丸かじり文化の魚人村。
ドリアンを丸かじりして歯が抜けたとか、アボガドの種が鼻に詰まったとか
皮を剥きさえすれば良いのに、人魚と半魚人は何故か歯ごたえへのこだわりが強い。
出来るだけ変わった食材は、
週末訪れた際に、現地の食べ方を楽しむようにしてもらった結果、
魚人村では観光客にパイナップルの丸かじりを薦めるようになってしまい、
さらに波紋が広まった。
この状況に、お手伝いに来てくれる、土の妖精のポーちゃんがとても驚いていた。
形が面白い食物がウケると思っていた彼等には、大きな誤算だったようだ。
でもそれを知ってからは、需要のある果物や、足りない野菜を聞いて、
すぐに生産量を増やしてくれるようになったので、非常に助かっている。
そのうち配送センターでも、何曜日に何が必要なのかが分かってきたので
漁業関係者も漁獲量を調整する事が出来るようになった。
また海では、カジキのビルが見回りをして、生き物のバランスを見てくれている。
時々魔物の捕食魚を追加で召喚する事があるのだけど、
そんな時は決まって、一緒に回遊しようとする小魚魚人が一網打尽にされるので
捕食サイズの魚人全員を、モヒカンにする案が出ている。
多種民族国家の魔族国には
フィッシュイーターもいれば、肉食の狼も、ベジタリアンもいる。
だからこそ無駄なく頂き、心と体の糧とする事が最大の礼だと思っている。
食べ物のほとんどは配送センターを通るけど
繊維は産地と生産場所が違うので、中央港が担当している。
麻の原料の亜麻は獣人村で、種から布になるまで育てられ、
木綿の綿花はトカゲ村で栽培・収穫まではするのだけど
乾燥気味のトカゲの指では糸をつむぐ作業が難しかったので、
紡績と織布は獣人村で行われる。
絹の場合は、蚕の食べる桑の葉はトカゲ村で育つのだけど
養蚕はサイクロプスにお願いしている。
何故なら、この世界の蚕は軽トラ並みにデカいから……。
他の種族にお願いしたら、毎日が交通事故になってしまいかねない。
ビックサイズで手がかかる蚕さんだけど、それを優しく育ててくれるのが、
サイクロプスらしく、また彼等にしか、お願い出来ない仕事だ。
蚕はやがてワンボックスサイズの繭を作り、サイクロプスが紡績までしてくれるのだけど、サイクロプスのパワーに耐えられる機織り機が作れなかったので、
結局、機織り仕事は織布経験者の多い獣人村にお願いする事になった。
とはいえ、経験といっても奴隷時代のもの。
いろんな思いもあるだろうから、無理にお願いするつもりもなく
あくまで選択できる職業のひとつだったのだけど、
指導まで出来る経験者が多数関わってくれたので、産業として成り立ったのだ。
経験を糧に出来る人は、本当に強いと思う。
ちなみにウールは、エルフが伝統的に利用してきたそうなのだけど
毛刈りから紡績まではエルフ村でお願いして、織布は工場に統合された。
「でもそんなに大変なら、一種類でいいんじゃない?」って言われそうだけど
トカゲとサイクロプスの服は、麻じゃないとすぐ破けるし、
両生類は肌が弱いから絹が良いって言うし、
羊と共に暮らしてきたエルフは、毛を刈らないと羊が病気になるし、使わないのも…と言っている。
以前から木綿を使っていたドアーフは、
分業制になると、すっぱり栽培をやめて、移住してきた者までいるが
こだわりが強くて他の繊維に変える気など無さそうだ。
挙句、女王からドレスの注文が入って
デザイナーたちが大盛り上がりなのですよ……止められないほどに。
とりあえず、新素材のためなら何でも食べそうなジェニファーには
あるもので工夫するようにと釘を刺してある。
食べるだけで精一杯だった頃を思うと、
我儘が言える環境になってきたって事でいいのかなぁ……
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