第50話アイディア続出

中央広場の真ん中に世界樹様、その後ろには扇形の庁舎。

そこから一段下がった街道沿いの、研究所の下にあるのが『縫製工場』

食堂の下にあるのが『職業訓練所』


職業訓練所では仕事に就くための訓練はもちろん、仕事の紹介もしている。

職を求める場合、ポピュラーなのが村の仕事を手伝って覚える事。

とはいえ就労経験豊富な国民達は、余程小さい子でもない限り、何らかの就労経験があるので、こんな事が出来ると、逆に提案されることもある。


主だったものは、農業、漁業、林業、狩猟、酪農、建築や土木業に紡績業。

これらは各村の代表や親方に話をし、指導してもらう事が多い。


そして役場の業務や秘書を希望する者は、法王に届け出をし

交易、船乗り希望者はジャンの商工会に届け出た後、学校へ。

裁縫が得意な者はジェニファーの縫製工場に。


コックや杜氏、チーズ職人などは、料理開発部の研修を受けて工房や食堂を紹介され

そして、大工、石工、鍛冶職人が職業訓練を受け、

ガラス、陶芸、炭焼きを希望する場合は、

鍛冶屋の高温に耐えられるかどうかを判断したのち、工房に口をきいてくれる。


やりたいことに挑戦するのは良い事なんだけど

「どうしても!」と炭焼きを希望した魚人が、危うく干物になりかけたからだ。

幸い彼はすぐに搬送され、半日塩水につかったのち、元気に帰って行った。



好奇心旺盛なのは、国民性な気がするけど

特にリサイクル作戦の後に、運んではきたものの、

使い方や、作り方がわからない商品を研究した者が多くいて、職人が急増。

工芸品から夏休みの宿題まで、あらゆる作品が持ち込まれた。


一例を挙げると、早朝からミミッポと虎獣人がやってきた事があって…


「魔王様ー!見て!見て!」

「オレのがスゲーから見てください!」と、確かに立派な作品を持ってきた。


「凄いのが出来たじゃない。

ガルムルも起きてるだろうから、さっそく見せに……」と、言いかけて気が付いた。


ふたりが住んでいるところは、走ったとしても数時間はかかる。


「ところで、いつ家を出たの?」


「一度は寝たんだけど、誰かに自慢したくて、夜通し走ってきましたー!」

「オレも寝たけど、寝てられなくて走ってきました!」


他にも、そんな遠足前の小学生みたいな報告をしてくれた者が、複数名いた。

ちなみにザントマンは8時に寝かせる事にはこだわるけど

起きだしてしまった者を、再度強制的に眠らせる事はあまりない。


それで前日までに提出する決まりで、

魔王の日に、職業訓練所で品評会をする事にした。


高評価の物はベリル2枚。参加賞は1枚。

商品化を進めていいレベルの物は、村長に相談して、

村の特産品コーナーに置かれる事になった。


これに刺激を受けたドアーフ達が、負けじと色々作るものだから

外輪山の上に、月がすっかり姿を見せる、夜の八時近くになると

各家の窓辺で、ザントマンが

夜更かしする者がいないか見張っているという目撃情報が寄せられるようになった。



特許庁のようにもなっているけど、職業訓練所は育成以外の仕事もある。

それは便利グッズの開発。通称『ムチャ振り開発部』


例えば、音精霊の翻訳機。

こんなのがあったらなー…みたいな物を形にするのもこの機関。


もちろん魔法薬研究所にも、ドアーフ村にも相談はするのだけど

ここでの研究のおかげで、

ずっと業務改善したかった、役場の住民登録が意外な方法で解決したのだ。


そして、それを解決してしまったのは、何とハルトだった。



先日、ガルムルがハルトを伴って、実演してくれたのだけど

「これに、フォンってやったのを貼るんだー」と言われても、全然解らなかった。


ガルムルの説明では『記録石』と呼ばれる、黒板のような石があって、

白い石で引っ搔くと字が書けて消えないから

ドアーフ村では掲示板のように利用されていたそうなのだけど

それに『フォン』が貼れたというのだ。


『フォン』はハルトが男神からもらった、ルールブックの操作画面。

私が女神からもらった『石』と違って、出来る事が格段に多い。

つまり手書きの作業が、住人がタッチパネルに触れるだけで出来そうなのである。


しかも記録石に貼りつければ、必要資料がいくつでも『フォン』し放題で

ディスプレイ画面のように表示できるし、貼り付けるだけならオフライン状態。

国民数が増減しても、男神にバレる心配もない。



実は、人口が減り続けている南の国に対して、

魔族国民がジワジワ増えているのが気になっていた。

だって登録漏れさんが次々と見つかるんだもん。


特に、虫系と植物系は

「食べようとしたら、話の分かるヤツだった」みたいに捕食者から紹介されるケースが多くて、国民の総数を想像以上に掴みきれていなかったようです。


この二種族は喋れないので、捕食されそうになったら、全力で抵抗するように伝えて

同じように意思の疎通ができる子がいたら教えてほしいとお願いしてある。



捕食対象にされやすい虫族は、

ジェニファーに出来る限り、見た目を派手にしてもらったら、

宝石で飾られたブローチのようになってしまった。


本当に保護色を辞めて大丈夫なのかが心配になるけど、本人達が喜んでいるので良しとした。

魔族国で断トツお洒落な虫族だけど

ジェニファーいわく、見た目で誤解を生みやすい虫族の待遇改善措置らしい。



でもこれなら国内情報を管理しつつ、

国外に向けて意図的な情報操作が出来るらしい。……ハルトが。


「学校でも似たようなの作ったよ」って頼もしいけど、ちょっと怖い…。


ハルトに捜査してもらい

ガルムル、ガット、アロレーラで他にも機能がないか解析するとの事でした。


ただでさえ劇的に時代を進めているのに

オーバーテクノロジーが過ぎるのでは?と、ちょっと心配になりました。







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