第49話お掃除妖精ブラウニー

一日中、人が行き交う賑やかな食堂も、夜には途端に静かになる。

でも、そうなってからが妖精の仕事の時間。


綺麗好きなお掃除妖精、ブラウニーの一日は

みんなが寝静まってから始まる。


屋根裏の小窓から外を覗くと、

袋を背負ったザントマンが出かけて行くところだった。


彼等が背負う袋には、眠りを誘う粉が入っていて

これを振りかけられたら、サイクロプスだって起きてはいられない。


ブラウニーは蹄鉄のブランコで遊ぶ、友達のブラウニーに声をかけた。


「ブラウニー!サントマンお出かけしたから、ブラウニーもお出かけしよう!」

ここに居るのは、みんなブラウニー。

だから一人称もブラウニー。


まず向かったのは食堂。空飛ぶホウキで飛んで行く。

魔族は忘れっぽいから、

いつもテーブルの上に蜂蜜入りのミルクとパンが置いてある。

まずブラウニーは、これを片付けなくてはいけない。


片付け忘れはいつものように、ボールいっぱいのミルクとパン。

今日はクリームまである!


やっぱり出したままの小さなカップでミルクをすくい、

パンにたっぷりクリームをつけて食べる。


もしかしたら魔族は、明日の朝に食べるつもりなのかも知れないけど

こんな美味しい物を残したりはしない。

忘れる方が悪いんだから、ブラウニーは残さず食べる。


食べたら食器はキッチンへ。

洗い物が好きなブラウニーにお願いして、ブラウニーはいつもの持ち場に向かう。


この国の建物の屋根裏には、必ず蹄鉄のブランコが下がっていて、

ブラウニーにはとても過ごしやすく作られている。


ブラウニーは好きな家に住み着くけど、

建物が大きくなるほどブランコも梁も増えて、追いかけっこも楽しいから

賑やかなのが好きなブラウニーは、大きな建物に住んでいる事が多い。


でもそうなると、お掃除の場所も広くなるから、

ブラウニーはみんなで手分けをして、お掃除をする。


ブラウニーの担当はいつもお風呂場。

何だか不思議な臭いのする場所だけど、

掃除が終わるとブラウニーまで綺麗になった気がする。


でも、その日はいつもと違ってた。脱衣所にブラウニーが集まっている。



「ブラウニー、どうしたの?」

「忘れ物があったんだよ、ブラウニー」

みんなが見ていたのは、白いパンツ。


「大変だ‼」

これは魔族が毎日洗濯して、大事に使っている物。


つまり!

魔族ってパンツ履かないと死ぬんじゃない⁈


そんな大事な物を忘れるなんて、魔族はどんだけ忘れっぽいんだろう。



そもそも誰のパンツだろう?

これは洗濯係のウツボカズラさんに聞かないと!


眠っていたウツボカズラさんに声をかけたら、

ひとりだけのつもりが、みんな起きてしまった。

そして忘れ物の話をすると、物凄いビックリしていた。


やっぱり魔族はパンツを履かないと死ぬらしい。


ついに泣き出すブラウニーまで出てきた。

どうしよう。落とし主を捜さないと。



ウツボカズラさんの話では、魔族の種類によってパンツの形は違うらしい。


トカゲ族とフェンリル族はオムツ型で、ドアーフはふんどしタイプ。

サイクロプスも似た形だけど、サイズ的にエルフかミミッポさんではないかと言う。


そしてここのお風呂を使う人は中央に住んでいる人が多いから、

近くの人かも知れない。


朝まで時間があるし、落とし主を手分けをして探そう!

そう言って盛り上がっていると、ブラウニーが泣きながら飛んで来た。


「どうしよう、ブラウニー!」

「どうしたの?ブラウニー?」


そして泣きながら

「この子が、ひとりぼっちなのー」見せてくれたのは片方だけの靴下。


「キィャァァァーーー‼‼‼」

その場にいた全員が、膝を落として泣き崩れた。

相方をなくした靴下の運命を思うと、泣かずにはいられない。

なんで魔族は、こんなに忘れっぽいんだ!



「落とし主を捜そう!」

戻ってきたザントマンに聞いたら、ウツボカズラさんに洗ってもらった洗濯物は、

ほとんどの人が夜のうちに干すらしい。

つまり、パンツを干してない人が落とし主だ!


ブラウニーは手分けして魔族のお家をまわった。

片づけをしてないお家もあったから、いつも以上に大変な夜だった。


そして明け方近くになり、落とし主と思われる人が見つかった。

ウツボカズラさんに確認してもらったら、においも同じらしい。


ブラウニーは、パンツをこっそりお返しすると、

それぞれブラウニーのお家に帰って行った。


もうすぐ魔族が起きる時間。見つかる前に帰らないと…

ブラウニーは大きくあくびをした。



外輪山に朝日が登り、コカトリスの声と教会の鐘が、けたたましく響きだすと

魔族は一斉に動き出す。


そしてガットとハルトの三人で食堂の席に着くと、間もなくアロレーラがやって来た


「魔王様!新作の湯たんぽスライムが完成しました!」

「見るからに温かそうな色だねー。保温効果はどれくらい?」


「使う直前にチビメラに温めてもらえば、一晩は持ちます!」

「風邪ひいた人とかに、さっそく使ってもらうといいよ。アロレーラ、ご苦労様」

アロレーラは額に汗をかいているが、満足そうだ。


「ほぉ、この温かさは、ちょうど猫肌だニャ。眠る時にも良さそうだニャ」

ガットにも褒められて、赤い顔してフフンと胸を反らすアロレーラ。


「今日は温かいから、湯たんぽ抱えて暑かったでしょ?

飲み物持ってくるから座ってて」

「いえ、私が…」

「汗かいてるよ」


そう言うと、アロレーラはポケットからハンカチを取り出して額をおさえた。


「……アロレーラ。

見間違えだと思うんだけど、念のためそのハンカチ確認してくれる?」

「えっ?ハンカチですか?」


不思議そうな顔をしてアロレーラが広げたソレは、やはりハンカチではなかった。


「キィャァァァーーー‼‼‼」

アロレーラは真っ赤になってしゃがみ込んだ。

その声に食堂中の視線が集まる。


ガットは表情筋が死滅したのか、骨格が変わるほど口角を下げていて

もはや別猫のようだ。


「……稀にいるらしいよ。間違えちゃう人。見たのは初めてだけど……」


「残念エルフ……」

フォローしようとしているのに、ハルトがトドメを刺してしまった。


ブラウニーの活躍により、アロレーラの命は助かった。

しかし、アロレーラは社会的に死んでしまったのだった。



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