第48話隠れた才能

みんなが使う食堂は、カウンターでトレーを受け取り席に着くスタイルで

学食というより給食に近い。

メニュー固定はフードロスと栄養対策。

おかわりに限度はあるけど、サイクロプスでも満足出来る量は用意してくれている。


サイズはM(マイクロ)S(スモール)L(ラージ)B(ビッグ)G(ギガント)で

どれを食べても良いけど、それぞれ、虫、ネズミ、エルフ、トカゲ、サイクロプスの

オススメサイズになる。


文字はあくまで目印で、どちらかといえばキッチンのお皿の棚の覚え書き。

利用者はカウンターにトレーが並ぶので、自分に合ったサイズを取っていく。



食事の時間は日時計と外輪山の印が目安だけど、

コカトリスが叩く教会の鐘が最終告知。

これを聞いたら急いで食堂に駆け付けないといけない。


おかわりは全員の配膳が終わって以降だから

定時に着席しないと、腹ペコトカゲにドヤされる。

そして、みんな揃って「いただきます!」


カウンター向こうのキッチンでは、コック姿の様々な種族が忙しく働いている。

ここは調理開発部の本拠地であり、食の発信地だ。



元から料理の文化があったのは、エルフとドアーフと獣人だけで

他は、焚火で焼くか生食だった。

そもそも6割が奴隷経験者なので、食べれれるだけで有難く、

おいしく食べるどころではなかったのだ。


でもそれでは人生損をしてしまう。

そもそもグルメは異世界転生の醍醐味だ!


メニューは今まであったものに加えて、前世の記憶をふんだんに盛り込んだ。

そしてそれを、異世界の素材で再現。

無いなら品種改良してでも栽培、製造。


シルフに苗の捜索をお願いし、エルフが成分分析、

獣人が栽培、サポートはポーちゃんとアクア。

道具はドアーフ、調味料はトノとトカゲ。魚介は魚人で肉はフェンリル。

異世界素材も、ネズミや虫達まで使って集めた。


料理開発部の中心はナンナだけど、ここで料理に興味を示した者達がいた。

サイクロプスである。


体の大きさから、つい力仕事を頼んでしまっていたけど、彼等はとても繊細だった。



例えば皿に盛られたお菓子を前に、他の人が取るのを待ってから

はじめて手を伸ばすのが彼等だった。


こういった場合、最初に皿に近づくのはトカゲ。

でもトカゲが迷っている間に選んでしまうのはネズミだ。


この世界には、魔族のネズミと通常のネズミがいる。

魔族のネズミは、小さい体を生かし、

ただのネズミのフリをして強かに生き、機会を待っていた。

だからこそ必要な時に迷わない。


その点サイクロプスは、そのサイズが仇となった。

強靭ではあるが、隠れ住むにはあまりにも大きかった。

乱獲に遭い、私が転生した時に国内に居たのは、たったひとりだったのだ。


奴隷の生活は選択そのものがなかった。

そんな中で選ぶことを諦めてしまったのだろう。


でもここは『魔王国』ではなく『魔族国』

自由と平等の国なのです。

選ばない自由もあるかもしれないし、その方が楽な場合もある。

でもまずは選べることを知る事から始めてほしい。

この国は、まだ、その段階なのだから。


そんな中でサイクロプスから、料理に関わりたいという希望が出たのは大きかった。


作りかけの建物を見て

「設計を変えねぇとなぁ……」と棟梁にボヤかれても

「キッチンは作り直しだろ」とガルムルに呆れられても

「調理器具全部サイズアップですか!」と職人達に悲鳴を上げられても、

これは応援すべきところ。


その辺の事はサイクロプスには全部伏せて、

珍しく魔王権限を振りかざし、二つ返事でOKした。


「他に使うところがあるのではニャいか?」と

またガットには呆れた顔をされてしまったけどね。


でも実際にやってもらったら、案外しっくりきたのです。

分量を多く作ると、いつもの味にならない事があるけど

サイクロプスサイズの鍋は、給食センターのソレ。

一度にたくさん作るのに、意外なほど適任だったのだ。

本人達も驚いていたけど、有難い誤算だった。



中央で開発された料理は各地に伝わり、それぞれ名物料理となる。


それに伴い通貨も作った。

単位はベリル。コイン状にした緑色の石だ。


ベリルと呼んでいるけど、使っているのは水晶由来の緑石。

掘り出すのはキラメラなので、宝石になりそうなものはキラメラにあげて

いらない緑石をコイン状にしてもらった。

なんか翡翠っぽいのもあるけど、まぁ、いいでしょう。


これを労働対価として土曜日に当たるエルフの日に

村長や代表を通じて、ひとり二枚ずつ。働きに応じて三枚配られる。


食事はそれぞれの集落で出されるけど、地域ごとに特色があるので

休みの日に他の地域に出かけて、ベリルを使い食事や買い物をする事が出来る。


食事と屋台が1ベリル。

小間物が2ベリルで、下着や靴下が3ベリル。

家具などは職人さんとの交渉になる。


下着や靴下が高いのは、使い方によって摩耗の仕方が違うから。

買い食いに回したかったら、大切にしなさいと遠回しに言っている。


村にはお直し屋さんもいて、繕い物もしてくれる。

修繕不可能な服は小物や雑巾に作り替えられ、小間物として売られる。

それでも使い切れない布は中央に送られる。


服は配給制なので、新しい物が送られ

使えなくなった布は、木屑などと一緒にリサイクル品として女王国に送られる。

女王国民には白蟻さんもいるので、天然繊維は食料になるらしい。



出かける場合は、エルフの日の朝食の時に、食堂に来ているケット・シーに伝えると

巡航船を通じて各村の食堂に伝わるので、作る量の調整が出来る。


大抵の者は買い食いで使うけど、サイクロプスの靴下でハンモックを作るのが

船員ネズミ達の間で流行っているらしい。



収益の使い方は集落ごとに違って、日用品の注文が入る事もあれば、

トカゲとフェンリルは食べ物のモニターになりたがるから

試作品のお菓子が人数分、なんて事もある。


また集められたベリルで、どこの料理が一番人気だったかを週ごとに発表。

話題性で人は動くし、コックのモチベーションも上がるのだ。


そうやって人も物も動く。

「好循環って、きっとこういうものなんだよ」とガットに言ったら

「食い意地の賜物だニャ」と言い返された。





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