第47話MBI(魔族捜査局)

人々が行き交う中央広場。

その中心にある役場の、右側にあるのが『食堂』


テラコッタの鉢が並ぶベランダを、たくさんの柱が支え、テラスにはベンチが並ぶ。

その回廊の中ほどに入り口がある。


玄関前には、対の螺旋に掘られた大きな柱があるのだけど、

実はこれ小さい者達の通路になっている。

右が上りで左が下りの一方通行。

左右の柱は二階まで続くのだけど、途中で分岐があって、浴室につながる道と、

食堂カウンターまで直通の道がある。


広場のメインは役場だけど、人の行き来が最も多いのは食堂なので、

安全確保のため通路自体を分けているのだ。


小動物には通路なのだけど、ある程度大きい者にはモールディングにしか見えないのが、石工と大工の技術である。



この柱を二階まで上がり、ベランダの足元の当たる部分が、商工会のオフィスだ。


物流や情報に至るまで、今や欠かせない存在となったネズミ達。

当初、会話が出来るネズミがジャンだけだったので、獣人という括りにしていたけど

今や世界中から仲間を集めて、結構な数が在籍している。

ケット・シーのエリアを作った事も加味して、

ネズミ族という名をつけてスペースを解放した。


生活スタイルは他の魔族と変わらないものの、

やはりサイズの違いで事故が起きやすいから、分けたというのも理由のひとつ。


中二階と呼ぶには、あまりにも高さのないスペースだけど

ここを使うのはネズミばかりなので問題はないらしい。

外観はベランダに掘られた幅広のレリーフに隠されていて、

明り取りの窓がデザインの様に見えるだけ。


室内側からは壁の一部を外せるようになっていて、家具はそこから搬入したのだけど

家の中が覗ける感じとサイズが、まさにドールハウス。


ネズミサイズの家具や服を作れる人を募集したら、

ドールハウス作家のような人達が現れて、密かなブームとなっている。


船員達も中央にいる時は、ここを使うのだけど

巡航船のツカ船長は船が好きすぎて帰ってこない。

「ボクも船がいい…」と副船長のハズミが

シフト表を作りながら、丸い体を揺らしてボヤくのは好例だ。



大所帯とはいえ、行動範囲が広いので、一堂に会する事は無く、

特に捜索班と衛生班は、南の王都の捜索と、生存者の輸送にかかりきりだ。


調べによると、王都の生存者は城にわずかに残るのみ。

あらかた保護のための移送は終えたのだけど、

散り散りに逃げた者が、森などで行き倒れており、捜索範囲を広げているそうだ。



人族は、現状のままの南の農村で保護しているものの、

同族同士でも習慣の違いがあったようで争いが絶えず、しかも妖精の手助けがない。

好き嫌いの激しい妖精に一度嫌われると、まず恩恵が受けられなくなるからだ。


現状では、まだ自力での復興が難しいので物資を送っているが、

どこまで支援すべきかで、魔族国内でも意見が割れている。

今は笠地蔵のように、夜のうちに物資を置いて、こっそり見守っている状態だ。


担当はお洒落大好き、ミノムシのスカーレット。

赤地に黒のドット柄のワンピースを着ているので、テントウムシの様にも見える。


商工会と名乗ってはいるものの、やってる事は完全に諜報機関。

平和にグルメを楽しむつもりだったんだけどなぁ……



一階の玄関ホールに戻ると、向かい側には大きな窓があり、

手入れをされた森が見える。

ホールの左にある階段は一般サイズの宿に続くが、

突き当たって右に行くとサイクロプス用の食堂の入り口と、宿舎。左が浴場になる。


サイズの違いから、脱衣所や通路は分けているものの、浴場自体は前世に近い。

浴室にはサイズごとに三つの洗い場と浴槽があって、湯舟は階段状になっている。


ローマ風呂っぽい石造りの浴室内は、

深さと温度が温泉マークのピクトグラムが描かれていて

いちばん深い所にエルフが入った場合、

1が足首、2が座って胸まで、3が立って首までの深さがあるので、

遊泳禁止ではあるものの、万が一溺れたら居合わせた者で助ける事になっている。


お湯の温度まで変えたのは、熱いとネズミは毛の油が取れすぎるし

ぬるいとサイクロプスは温まりずらいから。

ただどうしても湯舟が苦手な者もいるので、裏手に屋根付きの砂浴び浴場があり

小鳥がドリルのように砂を巻き上げる姿がよく見られる。


温泉は例によって、キラメラにお願いした。

各村にも温泉は作ったのだけど、

村ごとに泉質を変えるという我儘にも、彼等は見事に対応してくれた。


いろんな種族が集まる中央の浴場は、刺激の少ない美肌の湯。

若干黄色がかったトロッとしたお湯は、肌をツルツルにしてくれる。


外輪山に夕日が触れる5時まで働き、夕日が山の向こうに消える6時が夕食。

夕食の前後でお風呂に入るのだけど、

お酒を飲む人は先に入るのが暗黙のルールとなった。



洗濯は脱衣所付近にいる、ウツボカズラが担当。

実は登録漏れの、植物系住人まで居たのだ。


天井まで伸びるウツボカズラは、鈴なりの子供達と暮らしている。

子供達には小さな手足がついていて、自走が可能。


洗濯をお願いする場合は、札を下げている子供のウツボカズラに声をかけ

洗濯物を納めたら、洗濯物の届け先を伝えて、預かり札を首にかける。


ウツボカズラには札と同じマークが描かれていて、

洗濯終了後に歩いて届けてくれるのだ。そして洗濯物と交換で札を返す。


ウツボカズラは、預かった洗濯物をお腹に収めたまま、

広場の石畳の上で器用にステップを踏む。

それを見ていたトカゲや獣人達が、樽や鍋を叩きだすと、陽気な音楽が生まれる。


食事やお風呂で交代しながらなので、演者が変われば曲調も変わる。

そのたびにウツボカズラは喜んで踊り出し、洗濯物もキレイに洗い上がる。


洗濯物を渡す待ち合わせ場所は、大抵広場か食堂なのだけど

うっかり忘れて帰ってしまうと、

忘れ物として食堂前のテラスに干されてしまい、恥ずかしい思いをする事になる。


そして今日もみんなが通る広場には、誰かのパンツがはためいている。

恥ずかしがらずに、早く名乗り出てくださーい!

MBI捜査官のネズミに、パンツをお届けされちゃいますよー!




























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