第45話視察に行こう

建設が進み、村の様相が見えてきたというので、視察に行く事になったのだけど

「じゃぁ、どこから向かう?」という話になり

その途端に、アロレーラとガルムルが揉めだしてしまった。


一巡するのだし、どっちの村からでもいいと思うんだけど

どうしてこの二人は、どうでもいいような事で喧嘩をするんだろう。

まぁ、本人達にとっては、大事な事だから喧嘩になるんだろうけどね…。


最初の頃はとにかく頑固で、保守的な二人だったけど、最近はどことなく……

個性が出てきた?遠慮がなくなってきた?


でもそれは私も同じ。私もどちらかといえば閉鎖的な性分だ。

ただ何もない状態から国を作るにあたり、

知恵でも技術でも、出し惜しみしている場合ではなかったのだ。


やはり生き物は、立ち位置が変わると変容するものなのかもしれない。


意向は聞いてあげたいけど終わりそうもないので、ジャンケンを提案する。

ルールを説明して、はいっ!


「いんじゃんホイ!」

「ちっけったっ!」

私、ジャンケンって言ったよね……。台詞を被せたくないって、何だそれ?


結果は、後出しをしたガルムルが何故か負け、

エルフの村からになったのだけど、出かけようとしたら


「浴場がやっと直ったそうニャ」とガットが会議室に入ってきたので、

先に中央施設に顔を出すことになった。




国の中心である中央広場の真ん中には、巨大なブロッコリー様、

もとい世界樹様が鎮座している。

世界樹様の周りにはいつも妖精が飛び交い、大きな影の下で煌めいている。


浮島状態の足元には水が湧き、豊かな水は国を隅々まで潤す。

円形の広場にはベンチや花壇があり、憩いの場となっている。


広場の背後には、妖精達が住む鎮守の森があるのだけど、

妖精達も最近は、お気に入りの場所を見つけているようで、分散して暮らしている。


そして鎮守の森を背負うようにして扇形に建物が並ぶ。


中央が二階建ての石造りの役場。

彫刻が施された扉は大きなものと、

小柄な住人が使う、同じデザインの小さな扉が並ぶ。


扉の向こうの廊下は赤い絨毯が敷かれ、

小柄な者は絨毯の模様の、黄色い線の外側を歩く。


正面フロアは吹き抜けで、二階部分にあたる窓から明るい光が入る。

見た目は二階建てなのだけど共同部分は全て吹き抜け。

サイクロプスでも余裕の高さだし、頑丈な石造りなのだけど、彼等にかかると

「ちょっとぶつかったら壁がなくなりました」みたいなことが良くあるので

余裕をもって作ってある。


目の前には大階段。

右の『手伝います課』にはカウンターがあり、

メイドと執事姿の、エルフとネズミとミミッポ達が書類整理や手続きをしてくれて、

左の『お悩みです課』では、ケット・シーが相談に乗ってくれる。

こちらは部屋というよりサロンの雰囲気で、

小さなカフェテーブルとソファーが置かれ、気軽に話せる雰囲気だ。


二階が法王の館と図書室。

法王の執務室では、憲法の草案を作成している。

ガットが絡むと、途端に小難しい言い方になるけど、内容はとてもシンプルだ。


その中で一番重要なものが『幸せになる権利』

すべての国民が一人ひとり大切な存在であり、誰もが幸福に暮らす権利があるという

とても有名な文言。でもいちばん大切な事だと思う。


幸福の基準は、人によって違うけど、ここでは一日三食ご飯を食べて、

なんらかの仕事で対価を得て、週に一度はお休みで、夜八時に寝る事をさす。

ちなみに八時を過ぎると、眠りの妖精ザントマンに襲撃される。


早朝の道端には、ザントマンに襲われて寝ている者が居たりするのだけど

誰であろうと強烈な変顔で白目をむいて倒れているので、

ほとんどの住人は夜は早めに帰宅する。


そして懲りないドアーフは、昨夜も楽しくお酒を飲んでいたのだろう。

道路わきに酷い顔して、仲良く転がされていた。


早くに寝なければいけない理由は他にもあって

人目に付くことを特に嫌がる、お掃除妖精ブラウニーの活動時間でもあるからだ。

ブラウニーは出しっぱなしの本などを片付ける事は得意だけど

あくまで妖精の感覚で片付けるので、大事なものが見つからなくなる事が良くある。

だから、任せきりにせず、本当に大切なものは自分で片付けるのが無難なようだ。



役場の向かって左が教会。

白壁のアーチ天井の上に乗る、青緑色のとんがり屋根の鐘楼は町のランドマークだ。


大きな扉の先は聖堂で、祭壇まで伸びる赤い絨毯の両脇にはチャーチベンチが置かれ

奥には小さいパイプオルガンまである。

とっても素敵な空間だけど、実はほとんどリサイクルだったりする。


等間隔でアーチ屋根を支える木製の天井梁は、白壁のアクセント。

その間には縦長のステンドグラスがはまっているのだけど

本来聖人が描かれていたであろう顔の所が、全部魔族国民に変わっている。


「本当によく作ったよね、コレ」

「エレンウェの傑作ですからね」

アロレーラは誇らしげだが、これにはガルムルも笑うしかない。


以前ハーベスト村から運んだ物に、領主と思われる人族の肖像画があったのだけど、

まさか飾る訳にもいかないので、額縁だけを再利用して後は薪になる予定だった。


そうしたらエルフのエレンウェがイタズラで、

貴婦人の顔の上にトカゲの顔を描いたのだけど、

これがパロディ絵画のような見事な出来だったので、教会の装飾をお願いしたのだ。


しかもここは教会であると同時に、宮殿を切望した女神のお住まいなので

小さいながらも職人の技術の粋のような豪華絢爛な作りになっている。



教会では、休日の魔王の日に新しい命を歓迎する洗礼式と、結婚式が行われる。


例えば結婚式の場合、婚姻を結ぶ両家はエルフの日のうちに中央に来て、衣装合わせなどの準備をし、その晩は食堂二階の宿に泊まる。

そして当日は、出身地の村人が総出でやってきて中央広場はお祭り騒ぎになるのだ。


結婚式より、本音は遊んでいたい女神だけど

式典用のドレスを用意したら、ドレス着たさに参列してくれるようになった。


正直、花嫁より派手なのはどうかと思うけど、

参加する楽しさを感じてほしくて、積極的に巻き込んでいる。

式自体は、女神の前で結婚の誓いを立てるくらい。国からは二人に新居が送られる。


洗礼の場合は衣装がないので当日のみだけど、やっぱり村中でやってきて祝う。

誕生のプレゼントは赤ちゃんグッズ一年分が送られ、

正装姿のシルフ達が花びらを撒いて、一日中お祝いムードになる。



教会のさらに左にあるのが『魔法薬研究所』

アロレーラが欲しがった研究施設だけど、病院の機能もあるので

一般的には『診療所』と呼ばれている。


魔法と薬草でポーションを作ったり、治療方法の研究が中心だけど

最近はスライムに炭を食べさせた浄化スライムや、

ゴムの木の樹液から作った薬液を飲ませたラバースライム、

氷魔法をかけたミントティーを飲ませたミントスライムも開発した。

ミントスライムは薄切りにすると、今まで以上の使用感の冷湿布になる。

しかし、決して目の周りに貼ってはいけない。


基本的にスライムは有機物を食べるので、昔から水の浄化に使われていたそうだけど

それ以外もスライムが気に入れば取り込み変質する。


だけど気に入らない物を食べさせると、

食べさせた者に向かって高圧洗浄のように吐き出す習性があり、

研究員は散々な目にあっているようだ。


見た目が『わらび餅』なので何処が口なのかは分からないけど

エルフ達は数人がかりで、ズボンのゴムを伸ばすようにスライムを引き延ばし、

引き出しのように広がったポケット状の口(?)に薬液を流し込む。

そして手を離すとゴムのように戻り、元のわらび餅になる。


各村へも診療所を置く準備はされているのだけど、回復魔法を使える者が少なく、

また魔力消費が尋常じゃないので、村での対応は応急処置のみ。

急を要する場合や、判断に困る時は、救急搬送する事になっている。


更にこの研究所には『学校』が併設されていて

医師や看護師の育成から、読み書きの指導まで多岐にわたる。


教師はエルフとケット・シーが中心で、

図書室で調べても分からなかったことを相談すると、

学生でなくても後日、時間をとって教えてくれる。


中には「こんなものが作れないか?」みたいな相談が持ち込まれる事もあり

そう言った場合は『職業訓練所』を紹介される。



アロレーラが所長を務める事もあり、働く人もエルフが多いのだけど

個性的な住人が駆け込む診療所は、常に想像の上をいく事態が起きるらしく、

医師のイズレンディア先生は、エルフの常識が通用しないと、よく言っている。


多種民族が集うこの国では、『自分の常識は他人の非常識である』くらいに思わないと、ついていけない事が多々ある。


でもどちらかというと、イズレンディア先生の場合は、

懐かれすぎて困ってるように見えるんだけどね。


心中お察しいたします。








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