第44話サーディンの冒険

小さな虫族からサイクロプス族まで、多彩な住人が暮らす魔族国は

陸地ばかりでなく、海の中もとても賑やか。

しかしこの海は、魚人とフィッシュイーターが共生する、恐ろしい海でもある。


これはそんな海で暮らす、お騒がせ魚人、サーディンのお話。


* * *


んー、なんだか体がムズムズする。

オイラは体をくねらせながら叫んださ。


「もちょっこいから、やめれ~!」


「なんだ?寝ぼけてるのか?」

ハッとすると、目の前にはイワオさん。


「お前らまぶたが無いから、寝ていても解らないからなぁ。

とりあえず、大人しくしてろ」


どうやらオイラは、トカゲ村の魚の網に、手足が引っかかってしまったようだべさ。

魚人の特徴の手足は便利だけど、泳ぐときは案外不便なこともあるっしょ。



「おはようございます、イワオさん。朝から申し訳ないっしょ」

「気にするな。だが寝ている時まで泳がなきゃいけないのは大変だな」


網から外してもらいながら空を眺めると、なまら良い天気だ。

オイラは急いで、トカゲ村を後にする。


この辺りは、網も捕食魚も多いから早めに通過しよう。

……そう思っていたのに、突然目の前に現れるカツオ。

慌てて海面に逃げると追ってきて、そしてカツオは釣り上げられたっしょ。


「おっ!上手いぞ、サーディン。また頼む」

海から顔を出すと、陸に並んだ漁師さん達が、釣り竿を持っている。

どうやら、カツオを釣り糸の方に誘導してもらいたいみたいっしょ。


カツオは最近、海に放されたばかりの魚で、泳ぐのが早いフィッシュイーター。

オイラの天敵っしょ。


この海には、魔イワシもたくさん居るけど、オイラは魔族のイワシ。

陸に上がった程度では弱らない。


カツオを振り切って逃げる事も出来るけど、正直なところ、

いつまでも追いかけてくる、しつこいカツオが減ってくれると助かるっしょ。

それに褒められると、なまら嬉しいでない。


普段は怖いカツオが次々釣り上げられて、つい楽しくなって海面を跳ねると

カツオも跳ねて追ってきた。


「…マズイっしょ」

カツオはオイラを咥えて、海にダイブした。

「サーディーーーン!」

カツオに捕まったオイラは、

すぐに漁師さんに助けられて、濃い塩水につけられたっしょ。


「無理させて悪かったな」

「なんもなんも。オイラが勝手に手伝ったっしょ」



漁師さんと別れて、オイラは南の海へ。

魚人村は、白砂のビーチの砂が浅瀬に流れ込んでいるからか、

海の色が明るくて、なまらキレイさ。

ゆらゆらと形を変える水面は、バサロで眺めるに限るっしょ。

そうして泳ぎながら眺めていたら、下から海面に押し上げられたさ。


「あれっ?カジキのアニキ」

「おっ、無事か?へんな泳ぎ方してっから、具合でも悪いのかと思ったぜ」


「なんも!海面を眺めてただけっしょ」

「確かにココの海は明るいからなぁ…」

そう言いつつも、カジキのビルさんは不思議な顔をしていた。


「思うんだけどよ。海面を眺めるなら横向きに泳いだ方が良くねぇか?」


確かに横に目がついてる魚人が真上を見るなら、その方が良く見える。でも…


「横向きに泳いでたら、鳥に襲われたんさ……」

「小魚は大変だな」


ビルさんは泳ぎが速いので、海のパトロールをしてくれていて、

オイラみたいな小魚にも気遣ってくれる。

同じ回遊魚だけど、あのスピードには憧れるっしょ。



ビルさんと別れて、風に揺れるサトウキビの音を聞きながら、獣人村に入る。

獣人村は土の豊かな農業の村だから、海も栄養豊富でご飯がいっぱい。

口を開けて楽しく泳ぐと、お腹がいっぱいになる…のだけど

オイラでお腹をいっぱいにしようとする、カツオが追ってきたっしょ。


こうなるとコイツはしつこいっしょ。

わざと狭い所を通りながら、カツオを振り切ると、

フェンリル村のトンネルが見えてきたっしょ。


外輪山によしかかる様な形の北山には、大きなトンネルがあって

海は山の下を流れている。

トンネル内はヒカリゴケや発光キノコが星空みたいに光っていて

ここは魚人族のお気に入りスポット。


トンネル内には鳥も来ないし、ここには人魚さんや半魚人さんもよく来るから

マナー知らずのフィッシュイーター達も捕食されないように大人しくしてるんさ。



さぁ、トンネルも抜けたし、しゃっこい海をひと泳ぎ…

したっけ大きな足に捕まれた。



「きゃーーーーー!」

こんな時は、とりあえず叫ぶ。捕まったらコレがルール。


「なんだ!魚人か⁈」魔族だったら放してくれる。


「すまないな。海の魚が食いたくなってな。お前だったのか」

「その声は、もしかしてフィンさんですか?」

グリフォンさんでした。


「すぐに放してやりたいが、高度がある。少し待ってろ」


見下ろすと、山の上にあるというキレイな湖が見えた。


「なまらキレイさ」

「魚人では、この景色はそうは見れまい」

鳥族に捕まった事は何度かあるけど、これ程の高さから景色を見たことはなかった。


夢の様な景色で、なまら眠くなってきた。


「冷えてしまったか?いま海に……サーディン?

おい!寝るな!待ってろ、解凍してやるから!」



どこか懐かしい香りで目を覚ますと、囲炉裏のはたで葉っぱの上に寝かされていた。

囲炉裏には串に刺さった焼き魚。

せめてオイラの前では焼かないでほしい。


「目覚めたか?お主らは寝ていても、よく解らぬからな」

そう声をかけてくれたのはカルラ天さん。


「体が温まるように何か食べるか?」と言ってくれたけど

オイラ的には焼き魚が他人事に思えなくて

「ベジタリアンなんで」と丁重にお断りをした。


北の海に放してもらい、間もなくサイクロプス村。

ここの海も豊かでご飯が美味しい。

そう思ってワクワクしてたら、さっそくカツオに食べられた。

「きゃーーーーー!」



眩しくて目を覚ますと、今度は見慣れた治療院の水槽の中だった。


「アロレーラさーん」

「あぁ、目を覚ましましたか?具合はどうです?」

「なんもなんも」


「そうか、それは良かった。

だが、いくら何でも搬送されすぎだろう。魔王様が後で話があると言っていたぞ」


「なして⁈」

「お前、背びれが切れてるぞ。それでは魚人だと見分けがつかない」

ショックを受けるオイラの前に、程なく魔王様はやってきた。


「無事で良かったよー。今回はどこから搬送されてきたと思う?」

「またコカトリスさんのお世話になってしまっただべか?」


「今回サーディンが救出された場所は調理場」

そう言われて、さすがに背筋がしばれた。


「目印で染めてた背びれも切れちゃったし、

次に搬送されてきたら、手術って言ってあったよね」


「したって大事な体に傷をつける訳には……」

「傷はつかない。オプションがつくだけ」


はっ!さっきからアロレーラさんが、何かを準備してるっしょ。

まさか、あれは!


「魚人のアイデンティティが崩壊するっしょーーー!」

でも次は絶対事故になるって説得されて、オイラは渋々受け入れた。



手術後、鏡の中の自分の姿に驚いた。

頭の上には七色のモヒカン。まるで自分じゃないみたいだ。

「………カッコいいっしょ」


「小魚用の迂回路も整備するから、しばらくはソレで凌いでくれる?」

「みんなに見せびらかして来るっしょ!」


「見せびらかしたら、大型魚に見つかっちゃうでしょー‼」

オイラは急いで診療所から駆け出した。



魚人村の仲間に見せたら、みんなカッコいいって言ってくれたっしょ。

特に漁師さんに好評で、小さい魚人は全員つけた方がいいと、大絶賛だったさ。


しかもオイラが通ると漁獲量が上がるって、漁師さんも喜んでくれているし、

いい事尽くめっしょ。


今日も元気に、海原を泳ぎ回るっしょー!

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