第43話北山の住人

雪だるま妖精は、西洋風の三段重ねでも、人参の鼻も持たない

雪玉を二つ重ねた、手のひらサイズの雪だるま。


雪の少ない地域で、珍しく雪が降った翌日に

いろんな家の玄関先に現れる、まさにあの子のサイズで

眉毛と丸い目、にっこりスマイルという、

どことなく手作り感あふれる顔をしている。


更に水色のバケツをかぶり、枝のように細い腕

そして何故か、お風呂掃除用の水色ブーツを履いていた。



今朝がた彼等が住む近くの湖で、

仲間の一人が、氷の上に生えているヘンな木を見つけた。


湖から突き出た幹は、木なのに全く枝がない。

なんの木だろうと思い、仲間と氷の上の雪をどかしたら、それは木ではなかった。


そして

「氷の中に馬が落ちている」と連絡が入ったのである。

つまり湖から逆立ちみたいに足が出ている、犬〇家状態だったのだ。


一部は凍っているものの、そこは湖。

水が苦手な彼等に助ける術はなく、鳥族に助けを求めた。


遭難者は元より、頼ってきたのが未確認妖精だったので

鳥族を介して、中央に連絡が届けられたのだ。

遭難者は鳥族の長のカルラ天が保護しているそうだ。



遭難トカゲ達の、直送船での治療院搬送をお願いして、次の目的地は山の上。


雪だるま妖精を「山まで送るから」と、鞍の前に乗せようとしたら

鞍ではなく、ラノドの首の辺りに飛び乗った。驚いたラノドは、小さく声を上げた。


鐙に足をかけ飛び乗ると、それが合図のようにルーフが風を送り

あっという間に空へと浮かび上がる。


やはり上空は風が冷たい。

山に向かうと、すぐに小雪がチラつきだした。


「ふぁぁぁ…」

ラノドが白い息を吐く。


「寒くない?」と聞くと

「だ、だぁいじょぉぶで…すぅぅ…」

ちっとも大丈夫そうではない。


「ただ…ちょっと…背中が、つめたいぃぃぃ!」

「えっ!」

私の前には、ニコニコ顔の雪だるま。


「そういう事は早く言って!」


慌てて雪だるま妖精を持ち上げると、ラノドの背中は赤くなっていた。

確かにちょっと持っているくらいならいいけど

持ち続けるには冷たい……いや、痛い!

鞍に座ってもらおうとしたら、座り心地の問題なのか何故か座ってくれない。


ルーフにチビメラを呼んできてもらって

ラノドの周りに集まってもらうと、たちまち温かな風に包まれた。


「春風みたいですぅ」ラノドが持ち直した。


そう思ってホッとしていたら、

今度は雪だるまが急に振り返り、へにょっと困った顔になった。


「ちょっ!溶けかけてる?」

眉毛は下がり、口がへの字になっている。


リーフに、山まで雪だるま妖精を運んでほしいとお願いすると

「ジャックはこっちなの~」と抱きかかえていた。

ジャックって言うんだ。

ラノドの背中と同じように、私の手も真っ赤になっていた。



ガスが抜けて沈んでしまった山は、

二つの峰を残して、中央部はやや平坦になっている。

そしてそこに雪が積もり、より滑らかな平原が出来ている。


雪山に点在するのは大小の湖。

白い大地に青や緑の湖が、鏡のように並ぶ。


ちなみに湖は、例によってキラメラ達に

「魚が住める環境で、青から緑に見える湖って出来る?」って

聞いたら作ってくれた。


最近やりたい放題だって?

でもやる事無いと妖精ってイタズラを始めるのよ。


どうやら『コレは無理だろ~』くらいの仕事の方が楽しいらしい。

なにせ「出来た!」って報告に来る時の顔が違う。

実際今回も、より悪い顔してグフグフ笑っていた。

レインボーカラーも出来るらしいけど、それはちょっと違う気がして止めておいた。



そんな湖のある、平地と森の境目の巨木の森に鳥族のコロニーはある。

そう、コロニー。ツリーハウスじゃなくてコロニー。

森の一部に大量の鳥が、鈴なりに集まるあの状態!


一応、他の村と同じように食堂とか、せめてお住まいの改善は提案したんですよ。

でも鳥族さんは大柄な方も多いけど、ディテールは、ほぼ鳥。

食べ物の好みも、ほぼ鳥。生魚とかミミズとか…小動物とか…虫とか……


うっかり間違われそうな、魔族国民の小動物や虫達には

激しく自己主張するようにと、注意喚起をしているけど

鳥族も気にしているので、主な食事はハーベスト村産の淡水魚を食べている。

他の溜め池は農業用で使っていたりするので、ここに落ち着いた。


これを湖に放して、あとはミミズを増やそうと、

ポーちゃん達に踊ってもらったら、ミミズを食べて魚が増殖。

しかも巨大化したので、ここでは2メートルの鱒が獲れる。

巨大な鳥族のみなさんが、巨大魚を捕まえる姿は、とてもダイナミックだ。



それにしても、会議の時にカルラ天は、

神獣は居ないって言ってたはずだけど、いらっしゃるじゃないですか。

燃えてる方とか、お神輿のてっぺんに乗っていそうな方とか……


皆さん本来なら、お社を構えて、

お供えとかを用意した方が良さそうなオーラが出ているんだけど

肝心のカルラ天は、お酒を片手に「これでよい」って…

似合いますよ、すっごく。

でも日本酒と梅干って、謙信公の好物ですよ。体壊しますよ!



コロニーを見ながら、以前感じたモヤモヤを思い出しながら

いちばん大きな大木へ、テラス付きの入り口はラノドがそのまま降りられる広さ。

でも雰囲気がテラスというより、清水の舞台を思わせる。


正面は小さなお堂風。室内は古民家風。

でもよく見ると、木の洞に梁を組んでいますよね。

いったい鳥なのか人なのか。いや神なんだよな…

それはそれで味があるけど、よくド組は再現出来たな。


三和土の先の取次の、囲炉裏を切った所に、カルラ天と向かい合わせで座る遭難者。

すでに注意を受けて首を垂れていたのは、馬脚トリオだった。



よりハードな山登りをと、ルールをガン無視した馬脚トリオは、

北山の絶壁を登り、深雪を走り、寒中水泳をして、足が攣って溺れた。


私に気付くと、助けてほしそうに振り返ったけど、ルール無視の常習犯なこの三人。


「さすがに今回は法王に突き出させてもらうからね」と冷たく告げる。

言い訳をしてきたけど、もう見過ごせない。

ルールを守って楽しむなら良いけど、無謀な遭難者が多発しているのだ。


だが思わぬところから助け舟が出された。カルラ天である。


「今は有事ゆえ、これを兵とせぬか?」

「それは…つまり……」

「吾に預けよ。悪いようにはせん」


馬脚トリオは、法廷に突き出されるよりマシみたいな顔をしてるけど

要は修行で精神鍛錬しましょうって事なんだよね。

少々不安はあるものの、折角のお話なのでお願いする事にした。



カルラ天の預かりとなった馬脚トリオは、神様クラスが大勢いる鳥族に揉まれて、

深く反省……しなかった。


鍛錬を受けていることを、よりによって自慢げにフェンリル達の食堂で話してしまい

結果として、カルラ天の修行を希望する者が殺到したのだ。


反省させるために預けたのに、増長してどうする!


でもカルラ天に言わせると

「修行中の身ゆえ、大目に見てほしい」そうで、

預けた側の私としては何も言えなくなってしまった。



かくして北山は、修験道の山になった。


でもそれじゃぁ、我儘を通して山まで作った

シルフのリゾート計画がつぶれてしまう。


なのでゲート側に、ソリ遊びの場所を提案したら

言った途端にジャックが作り始めてしまった。

くれぐれも雪崩に気をつけるように言ったのだけど

言ってる間にも、次々生える雪像。


シルフも集まってきたし、範囲を決めてお願いする事にした。

たぶん提案されるより、自分達で考えた方が楽しいよね。

やり過ぎを見守りつつ、こちらはソリを用意するだけにしておこう。



でも今回の未確認妖精騒ぎって何だったんだろう?


「そもそも、なんで妖精が増えてるの?」とルーフに聞いたら

「世界樹さまが居るからなの~」との返事。


世界樹様がいるところに妖精は生まれ

妖精が喜ぶところに、世界樹様が妖精を増やすそうだ。


つまりこの国で妖精は幸せに過ごしており、それで国が富むのだと言う。


ひっきりなしに公共工事で足元を掘り返しているのだけど

世界樹様にも喜んでいただけているようで、ホッとした。



結局、ゲートから湖付近は

ちょっとしたアクティビティに、山岳地帯は修行の山とに棲み分けた。


問題児を押し付けてしまうのもどうかと思っていたけど

カルラ天としては、

鳥族の特産物が、鱒と北極ダックの抜け毛(高級羽毛)くらいなのを

気にしていたらしく、仕事が出来て良かったと言っていた。


思い返してみると

馬脚トリオも、やりたい仕事が見つからずに居場所を探していたのかもしれない。

最初は強制的にはじまった修行だけど、

しばらくすると三人とも生き生きとし始めた。


それを踏まえてこれからも、問題児の鍛錬をお願いするかもしれないと伝えると

快く応じていただけた。


後日カルラ天から、山に滝と毘沙門堂、

あと白装束を作ってほしいとの依頼書が届いた。

頼もしい事だけど、北の大地はどこへ向かっているのでしょうね……




次回、ちょっと小話が入ります。


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