第42話脳筋の村

遭難者を迎えに北山へ。

北の山だから北山。通称のつもりで言ってたら、いつの間にか定着してしまった。

カッコいい名前でも公募しようかな…


役場の後ろの広場を抜けると、森の向こうに湖がある。

その湖の近くで、首から下げた笛を吹く。

すると湖の反対側からラノドが飛んできた。


グライダータイプのラノドは、基本高い所から飛び降りて

皮膜で風を受けて飛ぶので、助走距離が取れるように

湖に張り出した木のいくつかにテラスを作り、移動の際に使ってもらっている。


ラノドの家も、そのうちの一つにある。

一見するとツリーハウスのような東屋が、四季咲きの木の上にあって

最近はここが離陸場のようになっている。



「お呼びですかぁ?」

上空から叫ぶラノドの着地を、一緒についてきたリーフが手伝う。


「北山に行きたいんだけど、その前に鞍が完成したから乗せさせてね」

「靴屋さんが、あちこち測ってくれたやつですねぇ」

ラノドは目を輝かせている。


先日バーリンの所に、鞍を作ってほしいとラノドを連れて行ったら

「竜の鞍作りは初めてだに!」と驚かれたけど、何とか形にしてくれた。


馬の鞍と同様にキルティングを乗せてから鞍を乗せる。

薄茶色のラノドは赤のタータンチェックが良く似合う。

首とお腹のベルトを締めると、嬉しそうに立ち上がってクルクル回る。

なんだかランドセルを買ってもらった新一年生みたいだ。


早速、ラノドにまたがって、シルフに風を起こしてもらうと

ふわりと浮き上がっただけなのに、凄く乗り心地がいい。


「さすがオーダーメイド。乗りやすい!」

「私も動きやすいですぅ」

今まで裸馬状態で、いかに無理をさせていたかって事だね。

会話が出来るラノドに手綱は必要ないので、首の付け根の手すりを掴み

足を鐙におろして安定させるスタイル。これでお尻の痛みから解放される。


高い位置までルーフの風で上昇したラノドは、湖を旋回。

勢いをつけて一路北へ向かう。



北山の麓にはフェンリルの村がある。

村の辺りは、あまり雪は降らないけど、それでも空気がキンと冷えている。

でも住人は気にしない。

なぜならここの住人は自前の毛皮を着ているから。


フェンリル、クー・シー、ワーウルフ。

獣人よりも毛深くて、農耕よりも狩りが好き。

そんな者たちが集まった村で、あとはライオン、クマ、虎系だ。


体が大きい人が多いのも特徴。

会話もほとんどの人が出来るけど、肉球が邪魔なのか手先があまり器用ではないので

食堂はミミッポさんが担当している。

パートナーがミミッポさんという人も多い。



パワーキャラな肉食さんばかりが集まった狩猟の村なので、

樫の森に狩場を作り、肉を卸してもらっている。


狩場に放しているのは、召喚した魔牛と魔猪の二種類。

魔鶏も検討したんだけど、見た目がコカトリスに似すぎていたので却下した。


魔羊は食肉としてはともかく、毛を刈るには気性が荒すぎて

毛刈りに慣れれるはずのエルフ達を吹っ飛ばし、

不器用なフェンリル族は逆に毛をむしられてしまったので、

羊と鶏に関しては、人族の村から連れてきた家畜の繁殖を試みている。



狩りに慣れているとはいえ、相手は魔獣。

しかもそれを食用にしようと言うのだから、やはり一筋縄ではいかない。


魔猪のパワーとサイズは自動車並み、

魔牛に関しては頭の高さがサイクロプスと変わらないうえに

戦車のように突っ込んでくる。

人のサイズで例えると、槍でマンモスを倒していた頃のイメージだ。


だけど彼等の狩りの方法は素手。

とは言ってもそれぞれ自前の爪や牙、そしてパワーとスピードがある。


四つ足さんが追い込み、二足さんが捕獲するというチーム戦スタイル。

その理由は『一撃で仕留めないと肉が傷むから!』ってなんだソレ!

でも生肉食べてた頃を思うと、随分秩序が出来てきた。



ちょっと強面集団だけど、みなさんお肉が大好きで、

食事の時間は全力で尻尾振って、全力で食べている姿がとにかく可愛い。

なんで全力かって、おかわりは早い者勝ちだからだよ!

まさに体育会系の雰囲気だ。


ただ野菜嫌いが多すぎて、料理開発部が頭を悩ませていたりもする。


国内きってのパワー系戦闘集団。

ここに憧れる岩トカゲも多くて、狩場への挑戦者が後を絶たないらしい。



そんなバトルの聖地の暖炉の前で、震える岩トカゲが二人。

今回の遭難者である。


登山口にはゲートがあって、そこで入山チェックと装備を受け取るのだけど、

「筋肉があるから大丈夫!」という謎発言をして山に入ってしまったそうだ。


体力自慢とはいえトカゲ。

雪のエリアですぐに動けなくなって、保護されたらしい。


ちなみに装備とは、防寒着とスコブルカラシという唐辛子。

辛みが体を温めるのだけど、五本に一本くらいの割合で激辛がある。


少しずつ齧るなら良いのだけど

中にはゲーム感覚で、ロシアンルーレットみたいな遊びをしている者もいて

先日もエビとカニの若者が、茹で上がったような顔色で救急搬送されてきた。


しかもコカトリスが、木箱におが屑と一緒に入れて運んで来たもんだから、

産直と間違えそうになったよ!

幸い二人とも、濃いめの塩水に半日つけたら復活した。



そして北山では、この弾丸登山が後を絶たず、

困った事にその多くがゲートを通らないと言う。


ゲートから入ればハイキングコースだけど

それ以外の斜面は、普通なら昇ろうと考えもしないような絶壁。

だけど、それを登るらしい。


さすが脳筋の村、筋肉至上主義。

そして毛皮を持たないものが、真似して遭難するのである。


暖炉の前で震えている、この子達はまだ良かった。

実は今回、通報を受けたのは山の上。

しかも連絡をくれたのが、窓の外から心配そうに部屋を覗き込んでいる

雪だるま型の未確認妖精だったのだ。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る