第41話うわさ話

その話は、住人の噂から広がった。


<ガラス職人 アオジタの証言>

「役場のステンドグラスを作ってた時っス。

大作を任されて、嬉しくなっちゃったんスよねー。

その日は確かに遅い時間まで起きていて、

急に目が痛くなって、気が付いたら朝だったっス……

でも、ガラスの粉が目に入ったんだと思うっスよ」


<靴職人 バーキンの証言>

「納入予定の靴を仕上げようと、夜更かししていたんだに。

何かが横切った気がして振り返ったら、

眩暈みたいに暗くなって、眠ってしまったようだに。

……だもんで疲れてたんだら」


<回遊魚人 サーディンの証言>

「その夜は、なまら月がキレイで、背泳ぎしながら眺めてたら

急に目がいずくなって、したっけ陸に打ち上がってねまってたっしょ」



「……これは恐らく彼でしょう」

「彼?」

「はい」


今はアロレーラと会議室で、書類と開発中のモノに埋もれていたのだけど

その中に診療所の報告書が混じっていた。


こういう会話になるとき、大抵絡んでくるのは妖精。

どうも最近、妖精の種類が増えてないか?という噂が国中で広がっていた。


賑やなイメージの妖精だけど、

どうやら積極的に人前に出てくるタイプと、見つかる事を極端に嫌がるタイプがいて

後者は名前を出す事もタブーで、見ても気づかないフリをしなければいけないらしい


「彼は頑張りすぎる者に、眠りを与えるだけですので、害はないかと思います」


「でもイワシのサーディンは干上がりかけて、救急搬送されてきたんでしょう?

しかもコカトリスに鷲掴みにされて」


「幸い、濃い塩水に半日つけておいたら回復しましたが……」


「私、知らないことが多すぎだなー。ケット・シーの図書室で調べてこよう」


「くれぐれも彼に見つからないようにされて下さいね」

アロレーラは少し意地悪に微笑んでいた。


「それは、こちらでも考えますんで…」


ソレというのは、私の手元にある住人台帳。

字が書ける者が少ないので、やっぱり難航している。

ルールブックを使ったら楽になりそうだけど、他の王や男神に情報を与えたくない。

神にバレずに盤面をひっくり返す方法。あと何があるだろう?


するとバッサバッサと音が近づいて来て、コカトリスがやってきた。

雪山で遭難者が保護されたとの連絡が入ったらしい。


「よし!じゃぁ、引き取りに行ってくるよ」

アロレーラにそう伝え、気合を入れて立ち上がる。

煮詰まってたし、頭を動かすより体を動かしていた方が、ずっと性に合っている。

私は意気揚々と扉を開けた。



雪山に行く前にローブに腕を通す。

ようやく、いや

ジェニファー達の頑張りのおかげで服が配れたのだ。


国民が着ている服は、ほとんどが貫頭衣。

布の真ん中に穴をあけて、頭を通して腰で紐を結ぶスタイルだ。

私もずっと水着でいたけど、

みんな同じような物を着ていたから違和感がなかったんだ。


どうせ似たような恰好なら、服が出来たらみんなで一斉に着て、

見せっこしようと言っていたくらい。

だってそうでもしなくちゃ、遠慮しそうな人が多いんだもの。


そして、欲しがらない人がいる反面

今まで服なんて着たことがないはずのトカゲは、間違いなく欲しがる。

彼等は好奇心の塊だから。


それはいい事なんだけど、貰える順番に差が出ると、自分のは?って話になって

間違いなくジェニファー達がいらん苦労をしそう。

だから全員分の服が出来るまで、ボロでいようと思っていた。


だけど先日の人族との面会の際に、恰好だけでも、それらしくしろ!とか

舐められたら終わる!とかガットとアロレーラに散々言われたので

三人だけは先に新しい服になった。



有事なんだし作業服でいいよ!と言ったのに、やはり総出で反対された。


「ただでさえ威厳がニャいのニャ。

服にくらい着られてみてはどうニャ?」


「それ人に服を進める台詞として最低だよ!」


「魔王様なら何でも似合うと思います!これなんか、どうでしょう?」

アロレーラとジェニファーが、やたらとミニスカートを推してくる。


確かにずっと水着スタイルだったし、

今更ミニが嫌だと言っても不思議がられるだろう。

でも前世を思い出してしまったせいで、実年齢がミニを拒否するのですよ。


「そういうのはスタイルの良いアロレーラの方が似合うんだよ!」


するとすかさずジェニファーが

 『ミニなら足が長く見えます!』って

「余計なお世話だー!」


癇癪を起すと、アロレーラが申し訳なさそうな顔をしている。

「ジェニファーが言うには、

貫禄を出すために、私は隠した方が良いと言われたのですが……」


確かに足は隠れている。そのかわり、豊かなお胸がこぼれそうだよ!

胸部装甲は武器だからいいの?いいなー、もっとやれ!


「いっそ男装にしよう!ユニセックス!」

「そんニャ事をしたら、トカゲ並みに雌雄が判別できニャいニャ」

「判別する必要なくない⁈」


「動きやすい方が良いと言ったのは、お主ではニャいか」

それを言われると辛い……。


実際に私が、動きやすさ重視でデザインしたら

有名バトル漫画で宇宙人が好んで来ていた戦闘服みたいになってしまったのだ。


人の服は可愛いのが思いつくんだけど

自分の服が可愛いとなると……なんか服に申し訳なくなる。


でもジェニファーが作ってくれたんだもんね……

結局レギンス付きでミニを受け入れたものの、

気恥ずかしくて、フード付きのローブも作ってもらう事になった。


ガットは立ち襟マントだけなのに、いちばん偉そうだった。

流石生粋の王族。天秤レリーフの大きな勲章がよく似合う。

私がデザインを考えたため、ちょっと折り紙っぽいのはご愛嬌だ。



国民になっても、ガットの歯に衣着せぬ言い方は、変わる様子はない。

でもそれがイタズラ抑止力になっていたりもする。

「イタズラがすぎると法王が来るよ」と言うと

子供はもちろん、大人も騒ぎ方を控えたりするほどだ。

でも決して嫌われている訳ではなく、相談役として必要とされている。


だが彼の性質上、どうしても悪役をやってもらわざる得ない事がある。

それが先日の大立ちまわり。しかもあの計画を提案したのはガット自身だ。


例の男は調べる程に、詐欺の可能性が高く、国内に招くつもりはなかったのだけど

どうしても再会したいイネスは、周りに訴え始めた。


始めは同情票が集まったものの、似たような被害者が他にも居る事が発覚し、

複数の魔族を素材として扱っていた者の一人だという裏付けが取れた。

それが人族に鬱積を溜め続けていた、国民感情を逆なでしてしまったのだ。


今までは、傷つかない為には傷つけるべきではないと言い続けてきたけど

被害を受けた当人達にとっては、

到底綺麗事では済まされないのだという、現実を突きつけられる事になった。


暴動になる前に、厳正な裁判で裁いたと発表したものの、矛先はガットに向いた。

本人はそういう役割と割り切っているけど、矢面が辛くないはずがない。

お蔭で、火消しの日々である。



しかもこの騒ぎは、国内だけに止まってはくれなかった。

外交官が行き来している女王国にまで抜けてしまい

女性ばかりの女王国では、更にヒートアップしてしまった。


そして知らぬ間に、独り歩きした物語は、

国民ひとりに国が動いた美談となって、隣国で好意的に受け止められていた。


女王国との同盟は締結したものの、幹部の全てが納得したわけではないので

好感度を上げておきたかったようだ。

後で知ったのだが、それには毎日のように防衛戦略と言いながら

女神と共に将軍の元に遊びに行くハルトが関わっていた。


前世のゲーム知識が将軍の戦略と、重なるところがあったようで

有益と見なされ、将軍が根回しをしたらしい。

もちろん有事がらみなので、微妙なところではあるのだけど…


そして防衛策として、ハルトと女神が提案したのが『バリア100枚重ね張り作戦』


少し前から二人(ハルトは応援だけ)でバリアの重ね掛けを試みていて

私も寝る前に魔力の限界まで結界を張ることにしていた。

魔力を使い切ると、魔力量が上がるんだって。


そうしたら国内でマネをする人が増えてきた。

魔族と言われるだけあって、みんな大なり小なり魔力がある。

しかも魔力を放出すると、疲れてよく眠れるんだ。


疲れ切って寝ているところを攻撃されたらと思うとゾッとするけど

何もせずにはいられない。

多分それは、みんな同じ。同じ不安を抱えている。


そして何かをしたいと思う気持ちは、女王国民も同じだったようで、

この作戦は女王国でも検討されているそうだ。



だけど、平穏というのは、本当に戦わなければ得られないものなのだろうか。


ゲーム感覚でしかない男神は別にしても、

争った挙句、妖精達にまで嫌われて、作物は育ちずらいし、

労働者も技術者も、みんな出て行ってしまった状態なのに、

どうして、まだ共生より侵略を望むのだろう?

戦火を広げたところで、損失しかなさそうだけど、単純に征服願望なのだろうか?


でもそんなのは為政者の都合で、

迷惑を被るのは、いつも巻き込まれただけの住人だ。

だから、人族の生き残りを保護すべく、南の農村部に移している。

先日探し人が運び込まれたのも、そんな村のひとつだ。


当然ガットには甘いと言われたし、

今回の事で、思ったより好戦的な国民性が発覚してしまったけど

全ての人族が悪い人では無いことは、

国内にお迎えしたアレクさんとエミリーさんが証明してくれると信じている。


実際に、共生できた人達がいるのだ。

奴隷に頼らない方法を自ら考えて、そして自立してほしい。

きっと人族なら出来ると思っている。






























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