第36話最後の王

目を開く前に、まぶたの裏にゲーム画面のようなものが浮かんだ。

あまり考えずにキャラを設定し、目を開けると、憮然とした子供が立っていた。


「お目覚めか、西の王よ」

話しかけられたが、目に飛び込んできた景色の方が気になった。



地平線の真ん中に置かれたデカい椅子に俺は居た。

でも他には何もない。


遠くに森が見え、川はあるようだが、

乾いた埃っぽい大地はえぐれ、生命を感じない。

僅かに残る岩の周りでは雑草すらも枯れ、

消えゆく遺跡のような、もの悲しい世界だった。


「気分はどうだ?西の王」


おう?王⁇


「お前はこの世界に転生した」

「ちょっと待ってくれ!ここはどこだ⁈」


「ここは西の国。そしてお前はこの国の王だ」

「この国って…ここ滅びた遺跡じゃないのか?」


「お前には魔王を倒してもらう」

「そういった事は勇者に頼んでください!」


まったく意味が解らないが、

転生して魔王を倒せなんて、夢にしたってロクな設定じゃない。


「そうだな。見た感じ戦士か?」


はっ!として自分の姿を見る。

なにこの世紀末の英雄っぽい服!ノースリーブがギザギザしちゃってるーーー!


思わず

「ここは200X年ですか?」と聞くと

「死にたてだから、そう時間は経っていないぞ」と言われた。


俺の夢なら、もう少し面白い事を言え!

えっ?死にたてって……死?


「ところで、君は?」

「オレは神だ!」


なんだコレ?今期のアニメにこんなのあったか?

夢だとしても、バイクで暴走するヒャッハーにはお会いしたくないぞ!


「あなたが神なら、起こしていただく事は…」

「寝ぼけてるのか?お前は死んで、ここに転生したんだよ!」


「では元の体に戻してもらう訳には……」

自分で言って気が付いた。元の俺は何者だ?


「体が死んでるから無理だ」


戻れない事より、記憶がない方がショックだった。

くだらない事は覚えているのに、自分に関する事がスッポリ抜け落ちている。


「ところで、ここは…」

「西の国だ。さっきも言ったろ」

少年はイライラしているが、この子しか情報源がない以上聞き出すしかない。


「西の、という事は東西南北と国がある…」

「そうだ」


「他の国は?」

「南の国以外は似たようなもんだ」


「では南に行けば最低限文明はあるのですね?」

「………………。」


黙っちゃったよ。

すでに世界が滅びた後とか言わないよな…


「ところでこの世界の最強生物ってなんですか?」

猛獣が闊歩する世界じゃ、そもそも生き残れる気がしない。


「一番厄介なのは魔王だ。

だからお前には、魔王を倒してもらいたいんだ!」


「………もしかして、この国滅ぼしたのって、魔王だったりしますか?」


「そうだ!だから魔王を倒してほしいんだ!」

「私は専門外です。やはり本職の勇者に頼んでください」

「いや、これはそういうゲームで…」


「ゲームなら自分でやらなきゃ意味がないでしょう?

むしろ自分で倒しましょう!神vs魔王。最強vs最強。

人知を超えた戦いですので、私は失礼いたします。」


「だから、これは王が魔王を倒すゲームで……」


押し付け合いの末、苛立ちを抑えきれずに叫んだ。

「神が倒せない、王がやる気ない。その時点で無理ゲーっすね」


「お前まで無理とか言うなよーーー!」

ついに泣き出してしまった。というか他の王にも…言われるよな…


さすがに泣かれると罪悪感がある。

だが、なんで他人の都合に命をかけなきゃいけない。

バツは悪いが、面倒事を無責任に引き受ける気はない。

だが引き受けなければ、ここに放置されて死ぬのか?


余程前世の行いが悪かったのかなぁ、俺。

よりによって世紀末200X年とは……

どうせ転生するならスローライフが良かった。



泣きじゃくる子供、神(仮)をあやしながら話を聞いた。


なんでも、流行のゲームをやろうとしたら

プレイヤーは思い通りに動かないし、作ったシステムは暴走するし、

妹はヘンな生き物を増やしまくるし、

もう嫌になって、戦争起こして形だけでも終了しようとしたら

魔王に手酷く反撃されて、国もシステムもぶっ壊された…………と


「そっかー…一生懸命作ったのに、壊されたら許せないよなー」

並んで座り、頭を撫でてやった。

一応なぐさめるが、言ってることも迷子状態。保護者はどこに行ったんだ!


「そういえば、他の王はどうしてんだ?」


「南の王はさっき転生させたんだけど爺さんで、

『罪を犯したから地獄に落とされた』って狂っちまいそうだったから

生き残ってた兵隊に任せてきた」


「南はどのくらい人がいるんだ?」

「フォンってやったら見られるぜ」

「フォン…って、……本当に出た!スゲーな」


「スゲーか?」

「あぁ、スゲー。えーと…神くんが作ったのか?」

「そうだ!」

「そうか!頑張ったな!」

また頭を撫でてやった。引き受ける気はないが、放置するわけにもいかない。


で、フォンの結果なんだけど…

人類の数は魔族の四倍近くいるものの、南の国にしかいない。

そして東西北の三ヵ国には王しかいない。


これって王じゃなくて、地主の間違いだろ……


「これは…南に頑張ってもらうしかないんじゃないか?」

「だけど南の王が、戦えそうにないんだ!」


しばらく見ていて、ありえない物を見つけた。


「魔族国、戦力マイナス100ってなんだ?」

「えっ?」

神くんも気づいていなかったらしい。


「戦力も無くて、魔王はどうやって反撃できたんだ?」

そこで初めて、三つの願いの話を聞いた。


「そもそも戦争の原因はなんだったんだ?」

「人は人以外の生き物が嫌いなんだろ?」

「そんな事はない。まさか、それで魔族を滅ぼそうとしているのか⁈」


神くんがまた驚いた顔をしている。つい声が大きくなった。

今度は声のトーンを抑え、優しく言う。


「もしかして人が善で、魔族が悪だと思ってないか?」

神くんは答えない。


この子が本当に神なら、人と同じ感覚を求めるのは間違っているのかもしれない。

だけど話を聞く限り、同じ年頃の子供と変わらない。


「神くんは魔族に、何か嫌な事をされた事はあるのか?」

「魔王にやり返された」

「他には?」と聞くと、小さく首を振った。


「じゃぁ人はどうだ?」

「嫌な奴はいた。最初の四人の王は最悪だった。でも北の王とは友達になった」


「友達だって言われたのか?」

「………言われてはいないけど、一緒に遊んだ」

「北の王と一緒にいたいか?」

「…うん」


「良かったな」と頭を撫でると、神くんは不思議そうな顔をした。


「じゃぁ、友達の北の王様を捜しに行こう!ここからは遠いのか?」

「乗り物が必要か?」

「頼めるか?」

「じゃぁ、ゴーカートを出すから!」

「…なんでだよ…………」




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