第35話四人の王(残酷描写あり)

ライフル銃の銃口からは、わずかに煙が上っている。

その向こうにはニヤついた男の顔。

どうやら弾丸に頭をえぐられたようだ。


「なんだ。死なねーの?」

神である自分は不死だ。この程度の傷ならすぐに治るが、全く痛くない訳ではない。

眩暈がするくらいの痛みを感じたが

むしろ突然攻撃を受けた事が理解できずに、頭が真っ白になっていた。


「標的が無ぇとつまんねーから出せ、獲物!」

言われた意味が解らずにいると


「ゾンビはキモイから人以外だ!アイツ強くね?リザードマン」


よく分からないまま、この男の頭の中の生き物を出すと

「キッモぉ!」と叫びながら撃ち殺した。周りも囃し立てる。


結局トカゲも『キモイ』のか?


「一匹ずつ出してんじゃねーよ。もっと出せ。

うわっ、キモッ!」


結局全員にライフル銃を渡して、

言われるままに、エルフとドアーフと妖精と人魚を出した。


「なんで男のエルフばっかり出んだよ!」

「妖精、当たんね~」

「バッカ、なに陸に人魚出してんだよ!」

「ドアーフ強えー!無理ゲーかよ!」


少し離れたところで遠巻きに眺めていたが、なんだか盛り上がってきたようだ。

撃たれた生き物達は、血だまりの中で、のたうちまわって泣いている。


「デカいの出せよ!サイクロプス!」

「なんでエロフが出ねーんだよ!」

「ケモっ娘枠作らねーの?」


「ドエロい魔王とかいねーのかよ!」

三つの願いは全て出し切った。


「つーか、なんで死体が消えねーんだよ!ゲームだろ!消えろよ!」

「無駄にグロいよな」


「殺したのはお前らだろ?」そう言ったが、

それでも邪魔だと言うから消した。


「お前、国作んだろ?

遊んでてやるから、さっさとやってこい。バカガキ!」


言い返そうとしたが、銃口はこちらを向いている。

化け物共も召喚された途端に銃口を向けられ、戸惑いながら必死に逃げている。


遺体が消えないことに気づいてから、

王たちは、痛めつけて追い回す遊びに変えたようだ。


だから命令さえ下せば、勝手に殺し合いをする戦争ゲームを提案したのに。


プレイヤーは自由に動くって聞いてたけど、ホントにちっとも言う事を聞かない。

これはオレのゲームなのに……


「早く行け!クソガキ!」

化け物共を追い立てながら、王達は狂ったように笑っていた。



妹神のところに戻ると、さっそく聞かれた。

「どうだったのじゃ?」


まさか最悪とも言えない。だから予定通り伝えた。

「四つの国を作る事になった。2対2の陣取りゲームだ。

お前にもふたつ任せてやる」


すると妹神は、城壁もなしに見た目ばかりが豪華な城を建て始めた。

戦争ゲームだって言ってるのに、ままごとでもするつもりだろうか?


「妖精作っていい?」

「もう作ったぞ」

「もっと作るのじゃ!」

妹神は最近ヘンな話し方を始めた。ガキ臭くて威厳がないと言われたそうだ。

神も人もまったく面白くない。


妹神の国にしか建物がないのもどうかと思って

アイツらの住んでるところの建物を真似て並べる。

願いは使い切ったが、このままじゃゲームが成り立たない。

プレイヤー以外の世界を、数百年分早送りで作っていく。



町が出来てきたところで住民を出したら、同じ国内で争いだした。

そうか食べ物もいるのか……


興味はあったがゲームを積極的に始めなかった理由は、作業が面倒だからだ。

実際、途中で飽きて作りかけのまま放置しているヤツも多い。


そのうち人は妹神の作った生き物を襲い始めた。

「な!なにをするのじゃ!」

「食べるんだろ?」

「他に食べる物!なんで食べ物がないのじゃ⁉」

「ない。このゲームは自由度がウリだ」

もはや面倒すぎて笑える。


妹神はイライラしながら植物や動物を増やす。

こういう作業は向き不向きがある。

この時ばかりは妹神を巻き込んでよかったと思った。


そもそも世界のほとんどが白紙ではマズいだろう。

世界をぐるりと海で囲うと、人魚達は海に逃げた。

泳げもしないのに海に入る生き物も居たから、山と川も作った。

陸地の部分が四つの国になるように、四か所に町を作ると人は移動し始めた。


人は建物を建てたり畑を作ったりと、自発的に活動を始めたので

このまま見守ればいいかと思ったら、妹神が騒ぎ出した。

水から遠い中央部分の木が枯れだしたのだ。


よく見ると中央だけじゃない。

建物などに利用したのだろう。

森は形を変え始め、都市はますます大きくなる。


そして人と人以外の生き物が争い始めたのだ。



王の願いで出した生き物は、見た目は醜いが行動は人によく似ている。

神が作った生き物だからだろうか?

はじめは狩りの延長だったが、お互いの狩場が近かったために争いだしたのだ。

この方が、よほど戦争っぽい。


人以外の生き物は魔族と呼ばれ、戦う者もいたが大抵が行く先々で追い出された。

捕まった者は、働かされたり、殴られたりしている。

そもそも出した数が違う。


王の要望で登場させた魔族は、オートで湧くようにしてある。

最初に王を据えたと思われる都市からは、次々と魔族が逃げ出しているが

人の増え方と比べたら、圧倒的に少数だ。


少数で弱く醜い。魔族が勝てる道理はなかった。



やがて逃げ出した魔族が、国のない真ん中に集まりだした。

虫みたいだったので、真ん中に森と水場を作って隠れやすいようにした。

魚を取ったり生活を始めて、国みたいになってきた。


意地悪でネズミも入れてみた。

ネズミは真ん中だけでなく、あちこちに住み着き、人の食べ物を奪うので嫌われた。

蟻と蜂、あとは気持ちの悪い虫を入れたら、それは真ん中付近に集まった。


「なんだ、嫌われ者の国じゃないか」

腹立ちまぎれに池の水を塩水にしたら、慌ててるのが面白かった。

愚かで醜い魔族の国。


そのうち人は魔族の国を襲いだし、今度は魔族を攫うようになった。

追い出したり攫ったり、ヘンな奴ら。


人ばかりを見ていたら妹神が、地下に金や宝石を作っていた。

揉め事の原因はコレか?

確かに地下に何も無いのはつまらない。

マグマ入りの落とし穴でも作ってやるか。


その間にも、ただでさえ少ない魔族は数を減らしていった。



「このままじゃ戦争する前に、魔族が居なくなるぞ」と王達に言いに行ったら

王達は相変わらず白い部屋にいた。


誰かが運び込んだのか、不釣り合いに豪華なテーブルと椅子。

そこでゲームをしていた。よく人がやってるヤツだ。


狩りに飽きたのか、武器は無造作に捨ててあり、魔族は湧いた途端に逃げていく。


自分達が望んだ物だろう?

扉の向こうには、別の世界だってあるというのに。



「ここってマトモなメシねーのかよ」ひとりの王が言った。

テーブルには汚れた皿がいくつも並ぶ。


王は世界に現れた瞬間から王として、民に認識される。

だから王に逆らう者はいない。

命令すれば、食事くらい用意してもらえたのだろう。


「食べたいものがあるなら、奪い合えばいいだろ」


「じゃぁ、焼き肉!」

「オレ、牛丼」

「カレー」

「じゃぁ、オレも焼肉で!」


頭にきたので、それぞれの国に転移させた。

国を奪い合うゲームなのに王が一か所に集まってどうする。

オレには面倒事をやらせておいて!


「おい!なに勝手な事してんだよ!」

「欲しけりゃ奪い合えって言っただろ!」

「せめて連絡取らせろよ!

共闘ありだって言ったのは、お前じゃねーか!」


確かに言った気がする。

「…誰に連絡するんだ」


「……南條と西田」

2対2と言ったはずだが……言い返すのも嫌になった。


「目の前をタップしてみろ」

すると王だけが操作できるルールブックの画面が現れた。

操作出来ているところを見ると説明の必要はなさそうだ。


ゲームの設定は全てルールブックに書かれているのだが、

この調子では確認すらしていないだろう。

そして回線はつながったようだ。


「おっ!なに?東野?」

「お前、どこ居るん?ワープした?」

「……………カレー食いたきゃ、北里倒せってよ」

言った途端に、ひとりが吹き出した。


「ひでぇ!北里カレー以下!」

「倒せってどうすんだ?」

東野と呼ばれた男は振り返り「どーすんだよ」と言った。


「兵でも動かせばいいだろ。

あと魔王出せって言ってたよな?四か国の間に魔族が集まっているんだが…」


「えっ?じゃぁ北里、魔王?」

「アイツ自分で言ってたろ、ドエロい魔王は居ないのかって!」

「自分がなるとか無理だろー」東野は笑いすぎて苦しそうだ。


そういう訳で、北里が女魔王になった。


「んだよ、これ!っざけんなよ!」


残りの三名は笑い転げながら

「出兵しちゃおうぜ」

「いっそ囲おう!四方から!」

「自軍にまで攻め込まれるのエグッ!」


盛り上がる三人をよそに、画面の中で整然と進む兵士の後ろ姿を見る。

さぁ、ここからどう攻め込むか…


画面では女魔王になった北里が、狂ったように喚き散らしていた。


「ふざけんな!元に戻しやがれ!っ…なんだよ、こいつら!近寄んな‼」


王は、その役割についた瞬間から王として認知されるようにした為

魔族は北里を慕ったが、北里はそうではなかったようだ。


笑って見ていた三人の王だったが、すぐに

「これ兵遅くね?」

「倍速?っていうか転送出来んだろ?近くに寄せて囲めよ」と文句を言い始め

やがて魔王も魔獣を召喚し、国の周りに配置し始めた。


「おい!なんだこの敵!」

「魔王が使えんのモンスターだけだよな?ミサイルとかねぇよな?」

「反撃される前に転送だ、転送!」


やっと戦闘に入れると思ったのに、台無しじゃないか。

王達に振り回されるのも飽きてきたので、

早く終わらせようと、魔族の森の周りに兵を移動させる。


「これ絶体絶命じゃん!」

「どうする、北里!」

「脱いで詫び入れろ!」そして全員が爆笑したところで


「このクソゲーがぁぁぁ」と言って、北里は消えた。


一瞬静まり返ったかと思ったら、再び全員で笑い転げた。


「北里サイコー!」

「あー笑った。アイツ今度どこ飛ばされたの?」

「笑いすぎて腹痛てーよ」


散々笑って落ち着いて。そしてもう一度聞いてきた。

「それでアイツ、どこ行ったの?」


「お前らが言うところの、あの世だな」


………………………。

「っざけんなよ!なんだそれ!」

「北の王は転生を望んだ。ゲームをリタイアしたんだ」


その後も悪態を吐いていたが、もう聞きたくなかった。


「戦争は一時休戦だ。北の王と魔王と、

手頃なのが居るか見てくるから、この後どうするか決めておけ」


「その前に、オレ達を同じ場所に戻せよ!」

もう顔も見たくなくて、全員を南の王城に飛ばした。


ふと気が付いて、顔を上げる。

「今、転生って死んだのかって言ってたヤツいたな。

まさか自分が死んだことに気づいていないのか?」


それより、おあつらえ向きのヤツは居るだろうか?

まぁ、常にどっかで人は死んでんだけど……



そして全く期待しないまま、ハルトと出会った。

せっかく楽しい気分になれたのに、様子なんて見に来るんじゃなかった。


幸い魂のストックはある。

それで様子を見て、ゲームセットでいいだろう。


だけどなんだ!人類まとめて転送って!

オレのゲームをメチャクチャにしやがって!

魔王はぜってー許せねぇ。


思わず舌打ちをする。

「なんなんだよ、このクソゲー!」









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