第32話思ってたのと違う
『お困りです課』で健康相談をして紹介される先が、
アロレーラが所長をしている魔法薬研究所。
薬効ハーブを用いた薬や、魔道具の研究をしているのだけど、
病院の機能もあるので、施設の関係者以外は『診療所』と呼んでいる。
そうなると『異世界お馴染みのポーションは?』ってなる。
私も聞いたし、あるにはあった。
風邪の時に飲むシロップとか、点眼薬とか、
胃の調子が悪い時に飲むバリウムっぽいのとか、
二日酔いの時に飲むシュワッとするやつとか、
どうしても頑張らなきゃいけない時に飲む、薬臭いアレとか……。
ポーション?ポーションですとも!
特に点眼薬が魚人に人気。どうしても陸に上がった時に目が乾くんだって!
ドライアイですよ!まぶた大事!
ちなみに熱がある、どこか痛い、腫れているみたいな時は
小さめのスライムをスライスして患部に貼る。
切り取ってすぐ、切り口側を患部に貼ると貼りついて、ぬるくなると剥がれてくる。
土の上に置いておくと、そのうち土に還るのだけど
踏むと滑って危ないので、土に埋めておくのが正しい使用法。
残ったスライムは使わなくなったら、水路以外の水辺に返しておく。
わらび餅状のスライムは切り取っても、乾けば傷はなくなってしまう。
先日も、暑さでのぼせた岩トカゲが、額に貼って寝ていたら
いつの間にか剥がれて目に入り、救急搬送されてきた。
トカゲは、のたうち回って泣いていた。
目に入ると、凄ーくしみるから要注意だ!
スライムは有機物を食べて、適度に増減するので、試験的に浄化槽にも放している。
研究を進めて、下水処理システムに組み込もうと考えている。
ちなみにスライムを水路に詰めた子供は、ケット・シー裁判の被告第一号となり
一週間スライムの居ないトイレ掃除のお手伝いを言い渡された。
炊き出しの名残として作られたのが食堂だ。
一日三回、教会の鐘が鳴るのが食事が出来た合図。
鐘つき係は体内時計が国内一、正確だったコカトリス。
なにせ、日の出の気配で起きだして、日の入りと共に寝てしまう。
エルフは「日が沈んだから寝ようか」って準備を始めるけど
彼等は日が沈んだ途端に電池切れを起こすから、
日の入り前に帰宅しないと行き倒れてしまうのだ。
だからこそ身についた能力なんだと思う。
そして彼等には困った習性があって、これが転送当初から問題になっていた。
どうしても、朝日に向かって叫びたくなってしまうのである。
コケコッコーなら、まだ良かったんだけど、彼等は
「いい天気だ!チキショー!」と腹の底から叫ぶのだ。
意味はない。ただ朝の挨拶は代々コレらしく、これを叫ばないと一日が始まらない。
ちなみに雨が降ってもコレである。
昔の人の「はっくしょん、チキショー」と同じで、多分クセなんだと思う。
しかも呼びかけられた相手は、より大きな声で返すのが良いとされている。
これが二日酔いドアーフとの相性が最悪で、たびたび喧嘩になるから
試しに我慢させてみたら、昼には元気がなくなり、夕方には羽が抜け始めた。
それで時報という建前で、思いっきり叫ばせる事にした。
食堂に全員が揃うまで
「メシだ!メシだ!チキショー!」と叫びながら、全力で教会の鐘を叩く。
いろいろ試してみたけど「チキショー」が入らないと具合が悪いらしい。
でも食事に呼ばれても、すぐ来ない人っているじゃない。
忙しいのも分からなくはないけど、温かいうちに食べに来ないって、
作り手からしたら迷惑行為でしかないし、
あんまり遅いとコカトリスが時間切れで力尽きちゃう。
そこでナンナ達の要望で、時報の文言は
「メシだ、チキショー!冷めちまうぞ!作ってくれたヤツに感謝しろ!」となった。
ガルムルー!あなたですよ、言われてるのは!
あまりに全力で鐘を叩き続けるので、みんな走って食堂に向かい、
足の遅い者はシルフに運ばれる始末。
戦闘系で、口は悪いが頼れるアニキ。
でも日暮れの時間は寝てしまいかねないので、
夕食は鐘を叩く前に食べるようにお願いした。
そんな食堂を切り盛りする、ナンナ率いる料理開発部に
とんでもないものが持ち込まれた。
前世の食べ物である。
ハルトが乗ってきたレッドドラゴンには冷蔵庫が搭載されていた。
そしてそれは前世で我が家にあったもの。それに中身までそのまま入っていたのだ。
しかも食べても扉を閉めると、なくなった分が補充される。
神の御業って、なんでもありが過ぎない?
例えば醤油は、いくら注いでも出てくる。
ただし出してしまうと風味が落ちるので、国中に配給するには向いていない。
約半日で食べられなくなるくらい、品質が落ちてしまう。
カップ〇ーメンは棚の扉を閉めて開けると、もうひとつ。
ポテト〇ップは食べかけを輪ゴムで止めて棚に戻し、扉を開けると増えている。
ポケットを叩くとなんか出てくる、四次元な仕組み?
ドアーフは入れ物や輪ゴムに興味を持っていた。
こんな事が出来るんじゃ、敵国の食料を奪っても無駄だったかも…。
美味しくいただきましたけど。
そして、「これを再現できる?」と提案してみたのだ。
当てはある。実は東の村の近くから、米と一緒に専門家をお招きしたのだ。
会った瞬間、思わず「殿っ!」と叫んでしまった、その方は
バレーボールサイズのトノサマガエル。その頭に髷がある!
名前もあるらしいけど、殿呼びが気に入ったらしく定着してしまった。
言葉は音妖精を介するものの、彼は言葉を完全に理解していた。
トカゲは転送出来たのに、カエルは何故ダメだったのだろう。
やっぱり女神の仕事が雑だったからなのかなぁ……。
小さい頃から食べる事が大好きだった彼は、人族がしている料理に興味を持った。
「そのまんまでも、うんめぇけんど
わざわざすんだから、もっどうめぇんでねか?」
そして人族の食べ物をこっそり食べて、彼は衝撃を受けた。
「こんれ!生米くってる場合でねぇ!」
彼は研究した。
人族が置きっぱなしにしたお鍋を拝借し、仲良くなったチビメラとアクアとで
米をつき、炊き続けた。そして…
「理想の妖精をみっつけたんだぁ!」
えっ?そっち?と思ったけど、彼と一緒の妖精を見て驚いた。
連れていたのは、強火・中火・弱火の火加減の妖精。
それと理想的な水分量の妖精だった。
料理にこんな攻め方があったとは!
彼の情熱に感動した私は、すぐに行動した。
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