第31話猫の王国

何処かメルヘンな三角屋根に黄色味がかった石造りの壁。

玄関には神殿のような石の柱が支える三角の破風。

その下に半円状の飾り窓が付いた大きな扉。隣には同じデザインのミニ扉がある。


扉をくぐると正面には大階段。

その二階部分がケット・シー達の王国。


魔族国民に加わってもらったので自治権は認められないけど、

村の代わりに、仲間達と過ごすスペースにしてもらった。

階段左の手すりの所には、天秤を持ったガットの小さい銅像。うん、妥協点。


二階はガットの書斎と仲間達の居住スペース。

キャットウォークに爪とぎ、魔法でチョロチョロ流れる素敵な噴水完備。

窓辺は猫草の鉢植えが彩っている。


ド組の力作なのだけど、棟梁は

「魔王様の家になる筈だったんだけどなぁ…」とまだボヤいていた。

棟梁の気持ちは有難いんだけど、私には華美過ぎると言うか…

華やかなのはガットの方が似合っている気がする。


そしてケット・シーは

「今までどこに隠していたの⁈」って位の、大量の本を持ち込んだので

天井までの本棚を作ってもらい、図書室として開放する事になった。



仲間内で『本の虫』と呼ばれている、

ケット・シーのシミさんが、司書として陽の当たる窓辺に常駐。

本をオススメしてくれたり、好きなソファーで本を読んだり、ネコを撫でたり…


なんか猫カフェ?と思ったらガットが

「昨今の猫ブームを知らぬとでも思ったのかニャ?」とニヤリ。

すると、すかさずジャンが

「詳細を是非っ!」って食いついていた。

さすが商工会長。

でもこの国自体がアニマルカフェ状態な気がするんだけど…猫は別腹なのか?


元々魔王の居住区を想定して作られていたため、

二階部分は残念ながら、サイクロプスには天井が低すぎた。


なのでサイクロプスが本を利用する場合は、図書室の外の窓辺に下がった

鐘を鳴らして、司書さんに本を持ってきてもらう事にした。


本好きのサイクロプスさんが、生け垣の間に挟まるようにして

本を眺めていることが、たびたびあったので

役場の後ろにテラスとベンチを作って解放したら、いつの間にかその場所も

憩いの公園になっていた。


識字率は低いけど、蔵書は絵本や図鑑も多いから、眺めるだけでも楽しいようだ。

また図鑑の類は普通の本より大きいから、サイクロプスにも見やすいらしい。

力加減は必要みたいだけどね。



そして一階、大階段の右側が、市民課にあたる『手伝います課』

何処かの自治体で聞いた名前だろうか?

でも識字率の低い魔族国では、解りやすさが最優先。

何処かが壊れたとか、お困りの際はここに相談すると専門家を派遣してくれます。


でもこの国の住人は、基本的に何でも自分で直そうとする。

だからあくまでお手伝い。

仕事を見たり教わったりするうちに、新しいアイディアを思いつく人もいるからね。

ここの仕事は基本、住民台帳を作る事。字の書ける人募集中。



右奥が会議室。

円卓というか、Cの字のテーブルが置かれている。


ハルトが神くんにもらった

『フォンってやるとステータス画面が出るの』が欲しいと女神に言ったら

「機械に詳しい兄者じゃないと解らない」っていうから

ガルムルとアロレーラに相談したら、試行錯誤の末に出来た。


光魔法の魔法陣を描いたサイドテーブルにルールブックをセット。

更に改良版の音妖精のカゴを乗せると、自動翻訳機になる。


あらかじめセットした資料なら、机に固定されているアームに取り付けられた、

鏡の反射を使ったプロジェクターで、壁に投影が出来る優れもの。

ただし時々ふいに投影が消えてしまう事があって、

その場合、音妖精の変顔がアップで壁に投影されてしまう。

決して笑ってはいけない、真面目な会議では危険極まりないシロモノだが凄く便利!

女神は大いに凹んでいた。



大階段の左にあるのが『お悩みです課』

どこかの自治体で聞いた名前だろうか?でも識字率の低い魔族国では……以下略。


ここはケット・シーの法律相談所。

法律とは言っているけど、体調が悪いみたいな相談が多くて

診療所を紹介しつつ、話し相手になっている。


ただここでの情報を軽く見てはいけない。

知らない妖精が居たとか、見た事がない実が生ったとか

見過ごせない情報が紛れていたりするからだ。


「ケット・シーの聞き方が上手いのでは?」と言うと、ガットは

「おだてるニャ」と満更でもない顔をしていた。



そして左奥が、ガット達が望んだ裁判所。

高いところに裁判官、その前に書記、左右に弁護士と検察官、

そして真ん中に被告人席があり、狭いけど傍聴席までついている。

ドラマで出てくるあの部屋を再現してみました!


部屋に入るとガットは、尻尾の先までシビシビさせて、爪先立ちで目を見開いた後

「ニャかニャか良いものが出来たではニャいか」と平静を装っていた。


『まだ尻尾がシビシビしてますよ!

ヒゲも跳ねてるし、嬉しいならそう言って!』と心の中でツッコミを入れたのだけど

あまりにバレバレだったので、ド組のメンバーもニヤニヤしていた。


ちなみに司法の仕組みには警察が必要だけど、今のところ

犯罪と言うほどのトラブルがないから、日が暮れきってから村ごとに当番が

「火の~用~心」って言いながら拍子木を打って見回りをする事になった。


犯罪防止って言うと怖がらせちゃうから、あくまで火の不始末予防。

そうしたら、これを合図にみんな寝るようになって、

火種のチビメラもカンテラに戻るようになった。


寒い地域はチビメラに、夜の間も少しだけ暖炉に残ってほしいとお願いしておく。

拍子木は、朝になったら隣の家へ。


今はまだ建物が全部出来ていなくて、炊き出しもしてるから

広場から離れた森の中に、村ごとに固まっていたりするけど、

このシステムは魔族国全土に広げようと思っている。


やってる事が古臭い?

でも新しいものが良いものばかりとは限らないでしょ?

なにが合ってるかなんて、やってみなくちゃ分からないんだから。


いろいろやって残ったものが、多分一番合っているものなんだと思うよ。





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