第33話三重丸のひみつ
魔族国はジンギスカン鍋のように、
真ん中が丘でフチが立ち上がった形をしているけど
上空から見ると、三つの水路で三重丸に見える。
中央の丘の周りは石畳と小運河が巡らされ、石畳の淵には農業用水が流れている。
道と運河の間には低木が植えられ、花が咲いたり実が成るものもある。
この実は住人のおやつなので好きに食べていいのだけど、食べ尽くしはマナー違反。
あくまで、みんなで楽しむもの。
欲張らなくても、妖精のおかげで翌日には、また実るのだから。
水分量の多いお米をみつけて、炊飯を試みたものの
この世界のお鍋では限界があって、前世の味にはまだ足りない。
そこで前世の味を再現するべく、釜にもこだわってみた。
向かっているのは陶芸の窯元。
そこに炊飯用の土鍋をお願いしているのだ。
窯元に向かう道すがら、ちょっと強引だけど
最近完成した運河と物流システムの話をしようと思う。
どうしてこんな書き方をしているのか、カンの良い方ならお気づきだろう。
ご想像の通り今回の話は説明が長い。
小ネタを入れつつ、本編が最後にちょっとな感じだ。
だからお忙しい方は、最後だけ読むのも正直アリだと思う。
設定上必要だったんでしょ?と理解してくださる方は、
気長にお付き合いいただきたい。
主要施設がある中央を囲む、小運河の外側には森が広がり
気候に合った木が生え、森の恵みをもたらしてくれる。
更にその外側に、サイズの大きい運河がもう一周。
この運河が村々をめぐり、
それを支流でつないで中央と行き来が出来るようにしてある。
そして最も外側が、外輪山の淵をまわる海だ。
なぜこんな形になったかと言うと、農業用水の確保と物流、そして安全のため。
大小様々な魔族国民が、車と同じ道を通るのは危なすぎるのだ。
それで3メートルから50センチ程度の大きい人は石畳。
20センチ以下の小柄な人は生け垣と用水路の間を通る、通行ルールを決めた。
今のところ報告はないけど、もしも小柄さんが水路に落ちた場合は
水路をウォータースライダーにして遊んでいる、
水の妖精アクアに救助をお願いしている。
高速快泳をする魚人の回遊場所は、一番外側の海。
ここを分けないと、すぐにでも事故になってしまう。
外輪山の内側だから、内堀みたいな状態だ。
そして三重丸の真ん中の大運河が、物流の要になる『河川舟運』
ざっくり言うと、水運で物を運ぶ江戸時代の物流システムだ。
貨物船の松前船は、時計回りで一週間かけて国をめぐる。
月曜日に当たるフェンリルの日から始まり、サイクロプスの日、ドアーフの日、
トカゲの日、魚人の日、獣人の日、エルフの日と続き、魔王の日がお休みだ。
本当は一週間を七日にしたかったのだけど、そもそも一年が何日なのかが解らない。
時間は前世の感覚と、そんなに違わない気がするけど、
調べる術がないので、外輪山に印をつけて目安にした。
だから村の順番が一巡したらお休み。
ちなみに太陽も月も、毎日同じところから出て、同じところに沈んでいき
月にいたっては、毎日キレイな三日月。
これって地球は回ってる?
まぁ、ここは異世界。地球の常識を持ち込むべきではないのかも知れない。
だってキラキラした星を伴って現れる月は
妙にメルヘンチックで、絶対女神の趣味だもの。
魔族国は基本配給制なので
配給に使われる木箱は村ごとに色分けがされている。
それぞれ、白、水色、茶色、緑、青、赤、黄色。
体の色や髪色、着ている服の色などだ。
船乗りはネズミのジャンの部下達。
真ん中の大運河には内回りと外回りの二隻が通航する。
石畳を添うように進む外回りは、観覧車のようにまわる小さな帆船。
遊覧船のように、ちょっとお洒落に出来ている。
隣村までは約一時間。一日かけて国を二周する。
だからお出かけに丁度いい交通機関だけど、国民の中には走った方が速い者も多い。
手を振りながら船を追いかけて、国を一周してしまった川トカゲが
第二回魔族国裁判にかけられたのだけど
事故を起こした訳でもなく、また船への情熱が素晴らしかったので
厳重注意の上で、港で働いてもらう事になった。
内回りが商用船の北前船。
こちらは一週間かけて、ゆっくりまわる。
例えば穀物の場合。
収穫された麦・米は松前船に乗せられて、一度専用の蔵に集められた後
中央に運ばれて製粉・脱穀されたのち、一週間分ずつ必要量が村ごとに送られる。
他の村で加工が必要な物は、
箱に行先の村の色布を結んでおくと、船が運んでくれる。
生鮮食品の場合は村の分は取り置き、残りは直送便で中央に送られ、仕分けられて
村で作付けしていない物や、薬など中央で製造している商品と共に
松前船が到着する前日に、直送船で各村の倉庫に送られる。
松前船は運んできた荷物と、前日に届いた生鮮食品の荷下ろしをする。
船の来る日は自然と港に人が集まり荷下ろしと、荷積みを手伝う。
ネズミ達は積み荷のチェックをして、その夜はちょっとした歓迎のお祝いになる。
お祝い会場は村の食堂。
港に付随している道の駅の雰囲気だ。これも炊き出しシステムを採用した。
更に特産物をいかした村の名物料理を
料理開発部が中心となって考えてくれている。
物流倉庫に近い利便性に加え、
日に三度村人全員が集まるので、情報の伝達が早いのだ。
そして翌日、前の週に村についていたネズミが交代で船に乗り、隣町へ向かう。
残ったネズミは次週の出荷の品をチェック。
各村に在住のケット・シーが住民の相談や、体調も聞いてくれるので、
何かあれば中央に連絡が届く事になっている。
ちなみに船員になるためには、話せなくても良いが、字が書けることが必須。
だから、ネズミ達は必死に勉強しているとか。
憧れの船員さんはエリートネズミなのだ!
そして人数がいるのでシフト制もバッチリらしい。
直送船は支流と小運河を使い届けられる。
ゆったりとした回遊型の帆掛け船と違って、支流の船に帆はない。
だがこの船は速い。
この船は物資輸送はもちろん、有事の際に中央に逃げ込む為のものだからだ。
流れに逆らう場所もあるので、
シルフに手伝ってもらいモーターボートのように進む。
それでいて頑丈さはドアーフの折り紙付きだ。
だったら直送船で村に直接運べばいいって?
娯楽も無いし、住人には時間の感覚もあまりないから
日常に変化をつけようと思って。あとは雇用。
長らくの生活で、就労が習慣化されているから、
役割を与えられた方が嬉しいらしいのだ。
船の方は、どこの村でも手を振ってくれる人が多いようだし、子供達には特に好評。
ただ、どこに行っても走って追いかけてくる人が後を絶たないみたい。
いっそ、ランニングコースでも作ろうか?
また新たな人材が出てくるかも知れないね。
ちなみに運河は女王の国との輸出入にも使われている。
搬入先はアント女王の城。ここにも同じシステムの港を作らせてもらった。
運河を通り、北にあるフェンリルの港を経由して、
支流から北山を回り込むように海に出る。
輸出品は新鮮な魔獣肉が毎日、直送便で送られる。
余剰分の骨や内臓、貝の殻まで引き取ってくれるので、無駄がなくて有難い。
腐敗防止に氷魔法をかけて輸出しているのだけど
これがなかなか大変な作業で、冷凍技術の開発が急がれている。
輸入品は蜂蜜関連商品。
蜂蜜そのものも輸入しているけど、中には抗菌成分を含む物や、
プロポリスもあって薬として研究中。
ローヤルゼリーは美容で使えないかと
エルフの研究員が研究を始めたら、被験希望者が絶えないらしい。
完成したら女王が逆輸入のご予約まで既にいただいている。
女王の国は女性が多いし、艶やかな肌は憧れの的なんだって。
そういえば女王の国に行ったとき、アント女王の居室に通されたんだけど、
そこにフリフリドレスを着せられたアイアンメイデンがいた。
ドレスを着せられても顔はそのまんま。
叫び声を飲み込んで「カワイイデスネー」と言えた私を褒めてほしい。
でもそう言わざる得ないほど、アント女王はメイデンちゃんを気に入っていた。
確かに鉄製の艶やかな肌。カワイイは奥が深い。
運河の周りには妙にくっきり円を描いた森。
他にも森は点在しているけど、こうなったのはシルフ達が世界樹様と一緒に、
たくさんの苗木を持ち帰ったため。
運んではきたものの、どこに植えようか?という話になった。
ハーブは研究所の後ろ、お茶の木と果物と花の咲く木は、気候に合った村で分け
貴重な木材はドアーフ村の近くに、
一般的な建材はサイクロプス村の近くに多く植えられた。
そしてどこに生えていたのかを聞くのが怖い木や花は、シルフが直接植物に聞き、
場所を選んでもらってから植えられた。
忙しさにかまけていた事もある。
でもその間にも妖精は、雨を降らせて踊り狂った。
そして「世界樹様をお迎えしたのって千年前だっけ?」と言いたくなるような
立派な森が出来ていた。
さらに木が育つのを待っていたかのように、手が上がった。
陶器用の粘土を掘り出す仕事をしていたという、若いミミッポのセトだ。
セトは登り窯作りにも携わったそうだけど
その仕事は本人の希望とはいえ、一人でやらせるには余りにも重労働だった。
手伝いを募集したところ、
トカゲ村で水甕用の土器を焼いていた、川トカゲのビゼンと
陶器製造に興味を持った、砂トカゲのトコナメが参加した。
そして森の中の登り窯が完成した頃、気が付くとキラとメラが一人ずついたらしい。
一緒くたに見ていたキラメラだけど、やはりというか個性があったようで
派手なものより、じっくりモノ作りがしたいって子が出てきたらしい。
乾燥係のシルフもスカウトして、一大窯元なりそうな雰囲気だ。
そこに炊飯用の土鍋の製造をお願いした。
前世で私も料理にこだわりがあった方だから、使っていた形状を説明して
それを研究してくれた。
「その土鍋で炊いたご飯がコチラです!」
一話丸々回想まがいの説明をしてしまいスミマセン。
ここからが前回の続きです。
ネズミ達が探してきた水分量の多い米を、窯元の皆さんが苦心して作った土鍋で
トノが絶妙な火加減と水加減の妖精とで、研究を重ねた炊き方で炊いた贅沢なご飯。
これをトノと、窯元ズと料理研究部のみなさんに食べていただく。
「うんめぇぇぇええ‼」
私はトノとガッチリ握手を交わした。
ありがとう異世界。
美味しいお米さえあれば、日本人なら異世界だって生きていける。
むしろ剣と魔法と米ならば、私は断然米を取る。
そうでなければ、異世界に来てまでグルメが流行る訳がない。
地位と名誉のためよりも、グルメと安寧を求める国民性なんだよ!
みんなでおにぎりを食べながら、トノの食材研究の話になった。
他にも不思議な物を見つけたらしく
発火するキノコと発酵を促すキノコ。
細かくして振りかけると、なぜか旨味が増すキノコに、楽しくなるキノコ?
……それは大丈夫なヤツですか?
キノコが多いのは、やっぱり湿地帯に住んでいたからだろう。
米作りは専属農家さんにお願いして、発酵調味料部門を立ち上げてしまいましょう。
美味しい気配がしてきましたよーーー!
夕方、なぜかハルトは女神と一緒に、女王の騎士に送られて帰ってきた。
防衛拠点を見に行っていたらしく、女神がしきりと宮殿を羨ましがっていた。
女神を天蓋ベッドに連れて行こうとしたら、
一人で寝るより賑やかな方が良いと言い出した。
賑やかだけど野宿だよ?
蟻将軍と仲良くなって、明日もふたりで行くって言うから
お土産に料理上手なグレタが作った新作のジャムを持たせよう。
その夜はルーヴに寄りかかり、川の字で眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます