第26話レッドドラゴンと北の王

目が覚めると、体育館のステージのようなところで椅子に座っていた。

フロアには五年生くらいの薄着の男の子が、ぽつんと立っている。


「お目覚めか?北の王よ」と男の子は言った。

確か目が覚める前に、ゲームの設定画面みたいのが出てきたんだった。


「これはゲーム?」と聞くと、その子は「そうだ」と言った。

「話が早いじゃないか」と嬉しそう。ボクも嬉しくなった。


目の前の世界はすごくリアルで、この世界の住人になったようだった。

そして椅子の隣にあったのは……


「これ、アサルトライフルだ!」

「お前が設定で選んだ武器だろう?」

「敵は?」

ボクはドキドキした。アサルトライフルは重かったけど、興奮が勝った。


「魔王だ」男の子はニヤリと笑った。


じゃぁ、ボクは勇者だ!魔王を倒すのは勇者だから!

しかも武器がアサルトライフルってチートだよ。


「他の武器は?」

「なんでも与えるが、武器も含めて叶えてやれる願いは三つだぞ」


「お腹は減るの?水とかポーションとかもいる?」

「腹は…人ならば減るな。水も必要。その辺は前世と変わらん」


「寝ないとゾンビ来る?」

「ゾンビは居ないが、人は眠るものだろう?」


はじめは楽しそうだった男の子も、だんだん面倒くさい顔になってきた。

これ以上聞くと怒るかな?


「魔王はどこに居るの?」

「ステータス画面を見てみろ。マップの表示があるだろう」


なんとなく空中を指したら、人差し指の前に画面が現れた。

マップをタップするとゲーム画面みたいな地図が出て、赤と青の点が並んでいた。

青い点は、赤が多い真ん中を囲んでいる。


「ここに魔王の城があるの?」

「あぁ。そして今は戦争中で、四方から魔族の領土を攻めている。

魔王を倒したら終わりだから、実はゲームは終盤だ。

だが北の王が死んだのでお前を呼んだ」


「死ぬことあるの?」

ちょっと怖くなったボクに、男の子は「それも前世と同じだ」と言った。


「戦争に行かなきゃダメ?」

「そういうゲームなんだよ」と

男の子は不機嫌そうになった後、思い出したかのようにパッと明るい顔になった。


「その為の三つの願いなんだよ。百万の兵を願ってもいい!」

「農耕してスローライフは?」

「だから、そういうゲームじゃねーんだよ!」


こういう話って聞いたことがある。小悪魔のいう事を聞いて、酷い目に遭うやつだ。


「じゃぁ、どうしても行かなきゃダメなら、安全な乗り物が欲しいよ」

「なんだ!戦闘機か?」

「ゴーカート!」


男の子はびっくりした顔をしてたけど

昨日行った遊園地で、身長が足りなくて運転できずに悔しい思いをしたからだ。


「……ドラゴンとかでもいけるぞ?」

「ドラゴン!」頭の中は一瞬でドラゴンになった。


「ではどんなドラゴンにする?オレ的には恐竜型がオススメだ!」

この子は恐竜が好きなのかもしれない。恐竜好きな友達と同じ顔になってる。


「ちょっと待って!絵に描いていい?」

「思い浮かべれば、その通りのドラゴンを出してやろう」

「わかった!」



思い浮かべたのは、去年図工の時間に描いた『未来の車』だった。

よく描けたので、部屋の壁に貼ってある。


見た目はレッドドラゴンだけど、お腹の所に部屋があって、

キャンピングカーみたいに、テレビと冷蔵庫と寝れるところがある。


レッドドラゴンなのは地中を掘って武器の材料の鉱石を探すから。

地下はマグマがあって危ないからね。


あとはトイレも作らなきゃ!

食べても食べ物が無くならない冷蔵庫と電子レンジ。

あとカップ〇ーメンを作る用の電気ポット!


「ちょっと待て!それドラゴンじゃないよな!」


かくして冷暖房完備、ドラゴン型地中探索キャンピングカーは爆誕した。



「…………かっけーじゃねーか…」

怒られるかと思ったら、男の子はポカンとした顔でそう言った。


「でしょう?」顔を見合わせると、ふたりとも笑顔だ。


早速乗り込み起動する。

動かし方はゴーカートと同じ。アクセルとブレーキとハンドル。

アクセルを離せばスピードが落ちて止まる。


「これがゴーカートかぁ」

どうやら男の子はゴーカートを知らなかったらしい。


体育館に出してしまったドラゴンは、砂漠に移動してもらった。

普通のタイヤだと動きが悪かったので、キャタピラに変えてくれた。

キャタピラの外側に足がついているので、ちゃんと見た目は恐竜っぽい。

スピードはあんまり速くなかったけど、ゴーカートだから仕方がないか。


「スゲー!」というと、男の子は誇らしげだった。

なんか友達になれそうだ。


「そういえば名前は?」

「オレは神だ!」ヤベーやつだった。



お腹が空いたから、ふたりでカップ〇-メンを食べた。

神くんはカップ〇-メンを食べるのも初めてだったらしい。


割り箸が難しかったのでフォークを出してあげた。

「使いやすい方でいいんだよ。ボクも苦手だったんだ」


こぼしそうだったので、二人分のお椀を出して、麺を冷まして食べた。

食後にはポテト〇ップも食べた。



神くんはキラキラした顔で、他の王の話をした。

「アイツらもコレ食ってたけど、オレにはくれねーんだ」

「なんで?」

「ガキはどっかいけって!オレ、神なのに!」


「他の王様は大人なの?何人もいるの?」

「大人が三人。それぞれ西と東と南の王。

はじめは四人居たんだけど、陣取りゲームって言ってるのにルール無視して

アイツらだけでサバゲー始めて、正直面白くなかったんだ。


それでやっとルール通りにやりだしたと思ったら、

急に仲間割れして北の王が死んで。北の兵隊取り込んで、今は魔王と戦っている」


「そういえばこのドラゴン、どこに向かってるの?」

「南」

「南の国?」

「その前に魔王がいるだろ」

「戦争中なんでしょ!そこ!」

「だ~か~ら~、そういうゲームなんだって!」



レッドドラゴンなら、攻撃が効かないから大丈夫って言われたけど

念のために武器をつける事にした。

両肩にロケットランチャー。もう最強じゃね!


「あと何つける?ビーム?バリア?」

改造を続けていたら、神くんが急に空を見上げた。


「……ウソだろう?」

「どうしたの?」

「魔王に反撃された……」

「えっ!どうなったの?」


「魔族領にいた兵士がみんな南の国に飛ばされた。

それに近くの村の住民も飛ばされている……」

「ぶっ飛んだの?」

「ブッ!」


頭に浮かんだのは爆発オチで、吹っ飛ぶ人達。

神くんも想像したのだろう。

「確かに飛ばされてるな」と笑っている。


ボク達はその後も改造を続けて、夜はカッ〇焼きそばを食べて一緒に寝た。

もちろん歯は磨いたよ。



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